「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】蘇ったアビスパらしさ!リーグ戦9試合ぶりの勝利に導いた「二人のチームの心臓」:【武丸の目】

アビスパは生き返った。0-1のビハインドで迎えた36分、山岸祐也がファールを受けて得た直接FK。ゴールからは約22メートルの位置。清水はGK権田修一の指示を基に壁を作る。身長の高い選手をキッカーから向かって左に配置し、ジョルディクルークスの強烈な左足を警戒していた。ただ、それを欺くかのように蹴ったのは隣にいた中村駿。背番号40の右足から放たれたボールは綺麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれた。

リーグ戦8試合勝ちなし。先制されると勝てない。そんな嫌な空気を吹き飛ばす一撃。俺たちは勝てる。先制点を失っても諦めずにサポートし続けたアビスパに関わる全ての人々に勇気と大きな希望を持たせてくれた中村駿とそれを支えたダブルボランチを組むキャプテンの前寛之。筆者はこの2人を104分にも及ぶ激闘を制したヒーローに挙げたい。

慣れ親しんだ4-4-2のシステムで挑んだアビスパは立ち上がりからハイプレスを仕掛ける。プレスのスイッチを入れるのは2トップの山岸祐也とルキアン。それに連動しながら両サイドハーフの金森健志とジョルディクルークスも前へと圧力を掛け続けた。清水のビルドアップに対してスライドを早くし、2度追い、3度追いも厭わないハードワークでパスコースを制限。例え、相手にプレスを回避されても中盤には前寛之と中村駿の大きなフィルターが存在した。危機察知能力の高さがもたらす絶妙なポジショニングと球際の強さ。「(清水は)チアゴサンタナ選手に(パスが)入るところから攻撃が始まると思うので、その起点やセンターバックの前のフィルターになってあげるというところは試合前と試合中は話し合っていました」と前寛之が言う通り、ライン間で起点を作らせず、チャンスと見るやボールを刈り取り、それが難しくてもパスコースをより制限。それによって縦パスを清水の前線の選手に通されても最終ラインの選手が迷うことなく、一直線にボールにアタックできるようになり、勝てていなかった試合に比べて前向きにボールを奪いに行くシーンは格段に増えた。

逆転で勝利こそ収めたが、2失点を喫し、それ以外にも危ない場面はいくつもあった。全てが上手くいったわけではないし、全てを手放しで褒めることはできない。ただ、「チーム全体で連動してボールを奪う」。長谷部監督が一貫して言い続ける今のアビスパにとって中盤の安定性がどれだけ重要かを改めて感じるゲームでもあった。前寛之と中村駿がダブルボランチを組むのは約2ヵ月ぶり。中村駿は戦列を離れていたため、コンディションが心配されていたが、復帰初戦でフル出場。そして、この日チームナンバー1の走行距離を記録した。誰よりもチームのために走り、誰よりもチームのためにファイトする。お互いの負担を軽減し、お互いの特長を伸ばし合うこの二人には誰にも真似できない独特な関係性が存在する。前寛之は中村駿についてこのように語っている。

「(これまで)多くの試合、(中村)駿くんと(ダブルボランチを)組んでいますし、バランス能力に優れた気が利く選手なので、安心感はありますし、僕も攻撃も守備も大体考えることは分かるので復帰はチームにとって嬉しいことですし、(清水戦では)同点ゴールを取ってくれましたし、チームにとって一人選手が増えて戦えることは大きいと思います」。

中村駿がボランチに復帰したことで、田邉草民はボランチではなく、サイドハーフで途中出場。前寛之と中村駿のプレーぶりもさることながら新型コロナウイルスの猛威から脱しつつあるチームにおいて選手選択にも幅が出てきているのは大きい。「皆さんの目に映っているように(中盤の)安定感の倍増は言い過ぎですけど、チームの中では(前寛之と中村駿の)二人が(ボランチで)並ぶと高いレベルで推移します」と長谷部監督が全幅の信頼を寄せ、チームの屋台骨を支えるこの2人にJ1残留とルヴァンカップ制覇が懸かっていると言っても過言ではないだろう。

[武丸善章=文/中倉一志=写真]

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