「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【レポート 天皇杯ROUND16 福岡-長崎】難しい試合を制して12年振り2度目のベスト8。新しい歴史は目の前にある

天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会 ROUND16
2022年6月22日(水)19:03キックオフ
会場:トランスコスモススタジアム長崎/3,463人
結果:アビスパ福岡 2-0 V・ファーレン長崎
得点:[福岡]渡大生(11分)、フアンマ デルガド(78分)

アビスパ福岡は13日、天皇杯ラウンド16(トランスコスモススタジアム長崎)でV・ファーレン長崎と対戦。開始早々の11分に先制点を挙げたアビスパは、その後、積極的に攻撃を仕掛けてくる長崎に対して粘り強い守備で対抗。危ないシーンも作られたものの78分にカウンターからフアンマ デルガドが決めて勝負あり。2010年以来のベスト8進出を決めた。アビスパは16日、J1リーグ第22節で湘南ベルマーレ(レモンガススタジアム平塚)と対戦する。

先制点はアビスパらしく
立ちあがりにJ1の貫録を見せたのはアビスパだった。いつものように高い位置からのプレスに始まる連動した組織的な守備で長崎を押し込むと、北島祐二とのワンツーで中央を突破した渡大生の右足がゴールを捉える。時間は11分。最高の滑り出しにゴール裏に陣取るアビスパサポーターから拍手が起こる。目指すは12年振りとなるベスト8。そしてその先にある、まだ見ぬベスト4の座。そこへ向かって順調に進んでいる、そんなことを感じさせる立ち上がりだった。

だが、自分たちのホームグラウンドで戦う長崎もまた勝利への強い気持ちを表す。21分、アビスパが見せた一瞬の隙を突いてカウンターでゴールに迫る。続く22分には、ロングフィード1本で裏に抜けだした植中朝日(長崎)が右足を振り抜く。これはGK村上昌謙がファインセーブで防いだが、ここから前へ出る長崎と、堅守で守るアビスパという展開へと変わっていく。

とはいえ、長崎も決定機を作るには至らない。「前半は自分たちのテンポが遅かった。それで相手にオーガナイズされた」とファビオ カリーレ監督(長崎)が振り返ったように、守備ブロックをセットして守るアビスパは要所を抑えて得点を許さない。43分にはペナルティエリアに切り込んできた江川湧清(長崎)が放ったシュートが右ポストをかすめるピンチもあったが最終的には得点を許さず。まずは無難に前半を無失点で折り返した。

勝負を決めた交代策
後半もリズムを刻んだのは長崎。最初の決定機は53分、長い距離をドリブルで持ち込んだ山崎亮平(長崎)がシュートを放つ。さらに58分、そして62分と際どいシュートがアビスパゴールを襲う。相手にチャンスを作られても最終的にゴールを許さないのはアビスパの特長のひとつでもあるが、1点リード、負ければ終わりのトーナメント戦ということが影響したのか後ろに重たくなってボールホルダーに対して寄せることができず、高い位置でのディフェンスが機能していないことが押し込まれる要因になっていた。

そして、ここがチャンスと見たファビオ カリーレ監督は68分にカイオ セザールを投入。さらに72分には都倉賢を投入して勝負をかける。対する長谷部監督は74分に輪湖直樹、北島祐二に代えて志知孝明、井上聖也をピッチに送り5-4-1の布陣に変更。その狙いを「1、2失点してもおかしくないような状況だったが、1-0でリードしていたので立ち位置を変えて、選手も代えて、もっと強烈に守ってカウンターの形を取った」と話す。そして、この采配が勝負を決めることになる。

勝負を決するゴールが生まれたのは78分。村上昌謙のゴールキックから生まれたセカンドボールを拾った湯澤聖人が、そのままドリブルで長崎陣内深い所まで運んでフアンマにラストパス。そしてフアンマがフィジカルの強さを活かして相手DFとの競り合いを制して右足を一閃。ゴールネットを揺らした。ここからはアビスパが落ち着いてゲームをコントロール。長崎に反撃の機会を与えることなく試合を終わらせてベスト8進出を決めた。

忘れ物を取りに行く
アビスパ福岡が天皇杯でベスト8進出を果たしたのは、1995年の福岡ブルックス時代(JFL)を含めれば12年振り2度目のこと。今シーズンの目標であるカップ戦ベスト4以上という目標にあと一歩に迫った。勝負を決める2点目をアシストした湯澤は「天皇杯はすごく意味のある大会だし、意味のある試合が続いている。チーム全員で次につなげていけるように頑張りたい」と口にする。

思い起こされるのは2010年に熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われた天皇杯準々決勝。FC東京に対して1点をリードしながら、後半アディショナルタイムの残り数10秒のところで同点ゴールを許し延長戦で敗れた試合だ。最後の最後でラインを下げてしまった選手たち。守備固めの交代要員をベンチに呼びながら投入が遅れた采配。アディショナルタイムに入ったところで国立競技場(準決勝の会場)の姿に惑わされてしまったファン、サポーター、そしてメディア。あの時、スタジアムにいた誰もが後悔の念にさいなまれ、それは今も拭いきれないままだ。

12年ぶりにやって来た雪辱のチャンス。そしてアビスパは新しい歴史を刻むべく準々決勝へと向かう。

[中倉一志=取材・文・写真]

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ