「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】私とJリーグとアビスパと/溢れるサッカーへの情熱。この日からJリーグが始まった:【フットボールな日々】

Jリーグが始まったのは1993年5月15日のこと。記念すべき開幕戦は国立霞ヶ丘競技場で行われ、当時2強として知られていたヴェルディ川崎(現東京V)と横浜マリノス(現横浜F・マリノス)が相まみえた。ナイトゲームにも拘わらず、テレビ各局が朝からJリーグ開幕を特集する番組を放送するほどの熱の入れよう。ニュース番組も含めて1日中、どこかの番組でJリーグを特集していた。

開幕セレモニーが始まったのは19:00。スタジアムに響きわたるJ’S THAME。そのメロディに乗ってピッチに登場する10クラブとJリーグのビッグフラッグ。その光景を映し出すカクテル光線。そのどれもが心を揺さぶる。そして川淵三郎チェアマンの開会宣言が始まる。
「開会宣言。スポーツを愛する多くのファンのみなさまに支えられまして、Jリーグは今日ここに大きな夢の実現に向かって、その第一歩を踏み出します。1993年5月15日。Jリーグの開会を宣言します」
日本のスポーツ界が大きく動く。そんな想いに包まれた。

59,626人の大観衆が見守る中、両チームのイレブンがピッチに散る。その背中を押すようにスタジアムにチアホーンが鳴り響く。観客の想いを乗せた音量はすさまじくTVの実況の声が聞こえないほどだった。そんな音量に負けない力強い声で日本のサッカーを語り続けてきた山本浩アナウンサー(現法政大学スポーツ健康学部教授)が話す。
「声は大地から湧き上がっています。新しい時代の到来を求める声です。すべての人を魅了する夢、Jリーグ。夢を紡ぐ男たちが揃いました。今そこに開幕の足音が聞こえます」
そしてキックオフの笛が鳴った。

試合を優勢に進めるのは東京V。そして19分、東京VにJリーグ初ゴールが生まれる。左サイドでボールを受けたマイヤー(東京V)がドリブルで持ち込むと、左45度、約20メートルの位置から放った豪快なロングシュートがゴールネットに突き刺さる。しかし横浜マリノスも負けてはいない。48分。左CKのチャンスに川崎Vの隙をついて素早くリスタート。ペナルティエリア左角から狙いすましたように放ったエバートンのシュートがゴールネットを揺らした。

そして一進一退の攻防が続く中、横浜マリノスに決勝ゴールが生まれる。時間は59分。一瞬の隙を突いて最終ラインを突破した水沼貴史(横浜)がシュート。これはGK菊池新吉(東京V)がかろうじて防いだが、そのこぼれ球に詰めたラモン ディアス(横浜マリノス)が左足アウトサイドで流し込んだ。2-1。記念すべきJリーグ初勝利は横浜マリノスが手にした。

見応えのある試合だった。この日を待ちわびていた木村和司、水沼貴史(横浜マリノス)、加藤久(東京V)らのベテラン勢。日本サッカー界をけん引してきた三浦知良、ラモス瑠偉(東京V)。若きディフェンスリーダー井原正己(横浜マリノス)。そしてピッチに立った選手たち。それぞれの想いがこもった試合は勝敗やスコアでは語り尽くせない名勝負。Jリーグの開幕にふさわしいゲームとして、いまも私の心に刻まれている。

[中倉一志=文/写真提供=写真AC]

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