石井紘人のFootball Referee Journal

無料:南アフリカワールドカップのブラジル×オランダ戦でロッベンを踏みつけたフェリペ・メロの乱暴な行為を正しくジャッジできたから、ここに立てている【西村雄一レフェリー会見④】

1219日、JFA(日本サッカー協会)ハウスにて、トップリーグから勇退する西村雄一レフェリーの会見が行われた。私の質問に対して「引退ではなく、トップリーグを担当しないだけで、二級審判員として活動を続けていく」と答えられ、「二級?」と扇谷健司JFA審判委員会委員長も驚いていたように、現場への情熱は変わらぬようだった。

トップリーグからの勇退理由とJリーグ担当審判員も威厳からコミュニケーション、次は選手と共に素晴らしいサッカーを作っていくステージに【西村雄一レフェリー会見③】

――30年くらい前ですけど、レフェリーは誰がやっても一緒であるという感じがありました。でも、今のレフェリーはキャラが立っている方がいて、レフェリーも個性が出るというのは、僕はいいなと思っています。そういった点は意識されていましたか?

 

「個性を出そうと思っていた訳ではないのですが、審判員も10人いれば10色だと思うんですよね。

審判員が育ってきた(過程)、あるいは最初に志したもの(理由)は全員が違うので、個性が出るかなと。

それを(個々の幅)トップリーグを担当するレフェリーは同じ枠組みに寄せながらも、また、そこから出てくる個性。

私であれば、選手とのコミュニケーションの中で出た『だって、円だもん』という発言を楽しんでいただけたのは、時代だなと思って。まさかマイクに拾われていると思わなかったので、普通にレフェリーとして選手との距離感で発した言葉に皆さまが触れたことで、そんな風な(個性を)感じるきっかけになったのなら嬉しいですね。」

 

――レフェリーの個性という事で、西村さんのレフェリーを見て僕が一番感じたことは、シグナルを出すのが非常にはっきりしていて分かりやすく、見ていて美しかった。日本のレフェリーがそういう傾向にあると思うのですが。シグナルの出し方で何か意識されていることはありますか?

 

「メディアの皆様なので、ご存知かと思いますが、今サッカーの理念と精神ですかね。今、考え方と精神という形に変わっているのかな。 冒頭に、理念と精神というのがありまして、その中にサッカー競技は、美しいものでなければならないという一文があります。その中で、サッカー競技の中に私たち審判員は含まれると私は考えていますので、我々審判員の所作であるとか、表情であるとか、振舞いであるとか。そういったあり方の部分は美しさを求められると、僕はそう精神と理念を解釈していました。ですので、シグナル一つ、もしくは振舞い一つとっても美しさに近づけたい、その思いをずっともってやってましたので、もしそれが伝わっているのであれば、本当に有難いお言葉をいただいたなという風に思っています。」

 

――南アフリカW杯のブラジル×オランダ戦ですが、選手がエキサイトする部分もあった中で、西村さんの素晴らしいゲームコントロールで、ワールドカップ史上に残る良いゲームになったと私は思っています。当時のレフェリングを今振り返ってと、当時の選手や監督に掛けられた言葉で印象に残っているものはありますか?」

 

2010年なので、14年の記憶を戻しています(笑)

この試合は…、僕自身はこの試合は(割り当てが)当たるかな?という思いはあんまりもっていなかったんですね。

最初のW杯の参加でしたので、準々決勝という試合を担当させて貰うまではあんまり考えていなかったというのが正直な所だったんです。ですが、この大会を通じて、その機会を頂けたという事で、自分自身は、もうあとは堂々と試合に向き合ってやろうと思ったのをすごく印象に残っています。

ゲームに入った後は、夢中で私に出来ることを全部やり切ったという感じになります。

あの時は、相手を踏みつけたことによって、レットカードが出でいると思うんですけど、あの場面を本当に正しく見極めることが出来たということは、今この場で皆さんの前でお話できることに繋がっている重要な判定だということは間違いないなという風にも思っています。

あの時は、特に言葉がけはしていないんですけれども、ブラジルが敗戦をしまして、ピッチを去っていく訳ですけれども、その去り方に、すごく潔さを感じて、それはすごく覚えています。

“これはもう俺たちは負けたから”というのをすごく分かっていて、要はちゃんと敗戦を受け入れてもらった。そこにレフェリーというのは、あまり印象に無いというのを、それをすごく体感できた瞬間でもありました。それは、本当にブラジルのゲームを担当することは多かったんですけど、それがサッカーを最大のスポーツとしている国の潔さ、そこに選手達の受け入れるということのリスペクト、それらを合わせて感じたそんな試合でした。」

 

――すごい試合数を担当されてきて、今振り返った時に、達成感と「あの場面はああしておけばよかったな」という失敗への思い。どちらが強いですか?

 

「今回、この会見等もありましたので、自分の試合数を振りかえり、見ました。

つい最近まで、夢中で(試合を)やっていますので、その試合数に関しての感覚は、僕の中であまり優先順位にはない感覚だったんですよね。 その中で振り返ってみれば、たくさんの試合数をやらせていただいた。要はたくさんの選手の感動に立ち会うことができたっていう、そんなふうに自分自身は試合数に関しては理解しています。

で、やはり思い返しても、どの試合でも必ず修正点があるので、この試合数分うまくいかないことがあったっていう、掛ける2とか3してもいいかもしれないんですけど、本当やっぱり完璧にできる試合はないので、ミスに関しては、いや、またもっとできる、もっとやんなきゃいけないこともあるっていう、そんな気持ちでいます。」

【連載第二回:取材記】西村雄一

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