石井紘人のFootball Referee Journal

ファンサポーターも日常生活の学校や仕事で誤解や勘違いをするように、監督や選手も試合中にミスをするようにJリーグ担当審判員も聖人君子ではない【家本政明主審引退会見④】

引退試合となった横浜Fマリノス×川崎フロンターレ戦の翌々日、家本政明主審がオンラインにて引退会見を行った。

家本主審らしく、会見は質疑応答からスタートした。家本主審らしい表現を感じて欲しいので、一部意訳もあるが、全5回に分けてそのまま掲載したい。

無料:家本政明主審引退会見①触れ合った選手は皆凄かったが、別格はイニエスタ。小野伸二、中村俊輔、遠藤保仁、中村憲剛、家長昭博「我がレフェリー人生に悔いなし」試合前後の選手との会話は?

【無料:家本政明主審引退会見②】フットボールはミスが起き、それを如何にぬぐうかも考える愛すべきグレーのあるスポーツ。〇か×かの白黒に偏り過ぎず、テクノロジー化は進める

【家本政明主審引退会見③】「クラブの職員として働いたのが全てだったし、他のレフェリーとは決定的に違う所」Jリーグ担当審判員の評価とはどうあるべきか?

―リーグ最終節の横浜Fマリノス×川崎フロンターレ戦ですが、試合前の場内アナウンスで家本さんの名前が出た時に、凄く大きな拍手が出たりですとか、両チームのサポーターがゴール裏で横断幕出してくれたりですとか、セレモニーのこともありましたが、あの場内の雰囲気は明確にラストマッチと分かっていたからというのもあると思いますが、ラストマッチの雰囲気は如何でしたか?

 

「いや、もう「感謝と最高でした」っていう言葉しか思いつかないですね。初めての経験ですし、正直戸惑うっていう表現はよくはないのかもしれないですけど、どうしていいのか分からないなぜなら僕は主役じゃないから・・・逆にたくさん迷惑かけたのにかかわらず、愛溢れる、心がすごく動かされた環境を作ってくださった全ての人に感謝していますし、ありがとうございますと思っています。

ずーっとよく分からない、夢の中にいるようなそんな感じでしたかね、はい。」

 

―一時期というか審判員さんって、自分たち(が応援するチーム)に対して悪いジャッジをされた時は(サポーターに)敵扱いされて、そういうイメージがずっと残ってしまっていて、そのままずっと敵扱いされていることが多かったと思うのですが、最近SNSで、家本さんは特にですが配信とかされたりして(サポーターとの)関係性が近くなってきているのではという気がしているのですが、審判員さんとサポーターさんの距離感の近さというか変化って言うのはどのように考えられていますか?

 

「それって人間の深層心理が一番関係しているなと僕は思っていまして、人間分からないことに不安や恐怖心を抱いてしまうと思うんですよね。

ネガティブな情報があったら過敏に反応して(これは出来ないと)決めつける。でも、必ずしもそうではない。色んな考え方と歴史とか背景とか感じる所がある上で、JFAさんは我々のことを思っていい意味で包んでくれている所もあるんですが、今の時代これだけの隠そうと思っても隠し切れない社会になっているじゃないですか。

ならば世の中のニーズに、多くの人の声に真摯に向き合うか。それが望ましいと思っています。JFAに対する批判ではなく、先ほども言ったように、僕として感じたことを発信したい。でも、それが(一級審判員という立場では)NOであれば何が出来るんだろう?その出来ることで見つけたのが情報発信。

急に発信したので、色々と(最初は罵詈雑言も飛んできて)大変だったんですけど、まぁ頑張って色んなことを発信し続けていくと、周りの反応が少しずつ変わってきて、反応する人とかの数や層が変わってきて、やっぱり多くの人ってレフェリーからの情報発進を求めていたんだと。

安心感と信頼感が少しずつ生まれている経験をしたので、その話は当然(JFA)組織ともしたんですけれど、色んな諸問題があって出来ていないこともあると思います。

僕は(諸問題もクリアできると)ポジティブに捉えてはいるのですが、言える・言えないとか、その範囲とか含めて難しい問題もあると思います。

でも、ポジティブに挑戦してダメだったら元に戻す、また違った世界を目指すのが今の時代に合っているのかなとは思っているので、形がもっとできていけばいいなと思う一方で僕は(一級審判員を返上して制限のない)自由の身になるのでレフェリー経験者として、違った形で世の中の人と向き合っていきたいなと思います。」

 

―サッカーは人間味らしいとか、人っぽい所が魅力だとお話しされていました。情報発信をSNS等でされて、(ファン・サポーターから)実際どこが求められていると感じていたのでしょうか?審判も人間であるというとこを出すということが一番の目的だったのかなと思っていたのですが、改めてそこを確認させて頂きたいです。

 

「おっしゃる通りで僕たちも人間です。機械でもロボットでもないんです、ということを言いたかったです。皆さんも日常生活で、仕事や学校でたくさんミスや誤解や勘違いとかありますよね。人間は分からないこともあるし、ミスもたくさんある。

言い訳ではなくて、我々審判員は聖人君子ではないということを知って分かってほしかったです。

競技規則の理解ですが、人間が赤ちゃんから大人になる過程で教えられてなくても歩いたり、走ったり出来るように、人間はある程度経験すれば成長できる。選手もそうやってプレーしていく。サッカーをプレーする前に、雑学で競技規則を読んだ選手ってほとんどいないと思うんですよ。

指導者ライセンスのB級、A級、S級の方は三級審判員を取得しなければいけない。でも、我々(Jリーグ担当審判員)が偉いという訳ではなくて、競技規則という部分では(三級審判員の取得だけでは)専門家の知識も考え方も及んでない。

我々が凄いんだよという話ではなくて、テレビの解説者・コメンテーターの方にもっと競技規則を読んで(理解して)欲しいと思っています。多くの人がフットボールのルールを理解されていないと感じるからです。

フットボールってどういうスポーツなの?

「審判員はなぜ生まれた?」「レフェリーは裁判官じゃない!高圧的ではなく”毅然”と笛を吹こう」坂本康博・夏嶋隆【審判批評無料コラム】

とか、フットボールの楽しみとか情報の伝え方ってフットボールリテラシーによって変わってきちゃうんですよね。

それをノウハウ持った人たちが、オープンに語り合うとか発信する、映像を使って見せていくとか、そういう世界が出来たらもっと日本のレベルは上がると思う。競技をやって練習をしてプレーを上手くするだけでは多分日本って強くならないと思います。

海外は多くの人がサッカーへの理解・フットボールリテラシーが高い。冷静に見たらファウルでも何でもないシーンが海外の試合では「そんなので倒れるなんてプロじゃない」とか言われる訳です。

じゃあ、日本ではどうなっているかというと「倒された」とかレフェリーに言って選手にスポットをあてるっていうコントラストが違うんじゃないかなって思っています。

レフェリーはもちろん、選手もそうですし、応援するファン・サポーターの方々も、伝えるメディアの方の理解力を高めないと世界で戦える、強くならない気がします。

あとは、情報をできるだけタイムリーに伝える。いま『ジャッジリプレイ』では「映像でみれば、ファウルではなかったよね」と語られていますが、「なんでレフェリーはそういう判断をしてしまったんだろう」と。その結果には原因があるはずなんです。ポジション的な問題なのか競技規則の理解の問題なのかがあります。それが語られていく事によって「レフェリーってそういうことを思ってたんだ!感じてたんだ!」っていう理解があれば信頼関係に繋がっていく。フットボールを見る喜びも高くなると思っています。

もっともっと情報発信をしていきたいと思っています。いい意味で今まで以上にフットボールとの向き合い方を、ツールや考え方としても、組織がそういうことを考えて、JFAが発信するのか、Jリーグがそういった組織を立ち上げてルールやフットボールのことを発信していくのか。そういう形があれば、競技力も高まると思います。」

 

―私もクラブハウスで家本さんと「選手、審判員に頼り過ぎたよね」と話をしたなと思い出しました()SNS発信で選手・ファン・サッカーファン以外の一般の方々と接して改めて発見したことは何か。

 

「発見というより、仮説検証の結果が見えたっていう視点ですかね。皆、わかんなくて不安になっている。そこに「競技規則上ではこう」「でもレフェリーは多分こういうことを考えてこう判断したのだろう」「ここのミスマッチがあるよね」という話をすると「そうだったんですね」と。

理解が繋がり、安心につながる。そして、信用が生まれる。「この人たちってこんなに大変なんだ」と。そして、「何でそういうことをもっと言わないんですか?」と。

「もっと発信してください」という声が多かったですし、自分がもっと多くのことを情報発信すれば、信頼とか喜び・安心に繋がるはずという仮説の元にやっていた結果、もっと教えてという言葉を頂くようになった。今後何をするかわからないですけど、そういうところにも貢献出来たらなと思っています。」

 

ラストマッチを含む対象試合が事前に広報されたことで反応があったと思いますが、SNSで印象に残っている反応はありましたか?

 

「ありがたいことに、Twitterや他のSNSのツールでも(観に行きたいので割り当てられる試合を)教えてほしいという声がすごく多かったんですね。色んな活動(ファンからのゲーフラなど)というか「何か家本さんに」という声を聞いていて、JFAさんにも色々話をさせて頂いて、「何とかできないですか?」と。僕だけじゃなく(その他の審判員の勇退時にも)。

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