石井紘人のFootball Referee Journal

Jリーグの監督や選手とレフェリーの良いコミュニケーション、海外で成功するサッカー選手、主審が機械になったら口元分析で即カードに?【審判員インタビュー|第2回・村上伸次】

「審判員」。サッカーの試合で不可欠ながらも、役割や実情はあまり知られていない。例えば、「審判員」と法を裁く「裁判官」を同等に語るなど、本質の違いを見かけることもあれば、「審判員にはペナルティがない」という誤った認識を持っている人も少なくはない。

 罰するために競技規則を適用しているわけではなく、良い試合を作るために競技規則を適用していく。それが審判員だ。

 そんな審判員のインタビューを、『サッカーダイジェスト』と『週刊審判批評』(株式会社ダブルインフィニティ)が前編と後編に分け、隔月で連載していく。第2回は日本サッカー協会(JFA)と契約するプロのレフェリー(PR)である村上伸次氏にインタビューを行なった。

 

>>>前編:レフェリーの一週間のトレーニングとは?

 

――10年前にインタビューさせて頂いた時に、2009年の京都パープルサンガ×ガンバ大阪戦(参照リンク)が転機だったとおっしゃられていました。その試合から12年経たれましたが、印象深い試合などはありましたか?

 

「話は少し違うのですが、私はトライアウトの試合を担当するのが大好きなんですね。というのも、トライアウトはレフェリーへのファウルアピールがほとんどありません。参加している選手は皆、自分の長所をアピールしています。なので、接触で倒れても、すぐに立ってプレーでのアピールに戻ります。

 

トライアウトの後は機会があれば、色々なクラブの方や監督の方とコミュニケーションをとるようにしているのですが、『レフェリーにアピールするより、自分のプレーをアピールしている選手っていいよね』とおっしゃられていて、確かにそうだなと思いました。

 

もちろん、プロの試合には勝ち負けがあり、それゆえのエキサイトも当然起きます。ただ、トライアウトは原点に戻らせてくれると言いますか、本当に皆が純粋にサッカーをやっているって感じます。

 

そこで考えたのが、トライアウトの時のような気持ちを引き出せるレフェリングです。レフェリーに対立のような形でアピールするのではなくて、チームメイトに理想を要求するアピールやお客さんに魅せるアピールとか、アピールの方向性を変えられれば、Jリーグはもっと楽しくなるのではと探求しています。『12年間でこの試合』というよりも、そんなことを考えるようになりました」

 

――それが今の村上さんのレフェリングスタイルに繋がっている訳ですね。

 

「今は、数十年前では考えられないくらいに日本のサッカーを取り巻く環境が変わっていて、たとえばUEFAチャンピオンズリーグを簡単に見ることが出来ます。そういったハイレベルな試合を観ているお客さんの目は肥えてきています。UEFAチャンピオンズリーグやEUROと比べると『日本の選手はバタバタ倒れる』と評されてきました。

再掲:2009年の「Jリーグの10試合で担架に乗ってピッチの外に出る選手の数は、イングランドの10年分くらいに匹敵する」プレミアリーグレフェリーインタビュー

でも、それでファウルをとっているレフェリーにも疑問符が付きますよね。

なので、今は試合の流れや温度を大切にしています。杓子定規ではなく、サッカーというスポーツの中のレフェリーというような。

たとえば、審判員もテクノロジー化が進んでいます。FIFAワールドカップ2022年カタール大会では、オフサイドやボールアウトの判定が自動化されると言われており、このまま進んでいくとレフェリーもAIが行うことになるかもしれません。

 

そうなった時に、選手が今のようにサッカーを楽しめるのかな?と考えています。というのも、機械の判定に納得いかなかった時や、機械がエラーを起こしてしまった時、選手はどこに不満をぶつけるのでしょうか?

 

私も選手だったから分かる(参照リンク)のですが、自分のプレーに苛立っている、チーム戦術がうまくいっていない状態。そういった自分の不調の時の不満も含め、判定への不満という形でレフェリーにぶつけて、ガス抜きしたり。もしくは、レフェリーの『まぁまぁ分かるけど』というなだめで落ち着く時もあります。

 

レフェリーと選手のやりとりは、人間と人間だからこその醍醐味があるのです。試合前の会話で互いに仲間意識持ったり、試合中には自チームに有利な判定を引き出すためにプレッシャーをかけたり。それがAIだと口元分析して即座に異議で警告とかありえますよね。そうなったら、つまらない試合になりませんか?そう考えて、逆にレフェリーがいるべき意味というレフェリングを心掛けています」

 

――村上さんは15年以上、間近でJリーグの選手たちを見ています。たとえば、本田圭佑選手(スードゥヴァ)は「試合中も(村上さんに)話しかけてきて、これはどうなんですか?と具体的に質問してくる」とおっしゃられていましたが、海外移籍して活躍する選手に共通点はありますか?

 

「どんな選手もレフェリーにアピールすることはあり、自分にとってネガティブな要素がある時に荒い言葉が出てきます。そういった選手の気持ちを念頭に入れているので、特になんとも思わないのですが、海外移籍で活躍する選手は冷静な言動が目立ちます。

 

『僕は〇〇と思ったけど、なんで●●なんですか?』と聞いてくることが多いです。そこで、こちらは『●●になったのは・・・』と説明すると、話を聞いてくれます。

 

こちらが答えても『そんなのおかしいじゃん!』とエキサイトされてしまうと、会話は成り立ちません。ですが、『〇〇だと思うけど、分かりました』で終われば、次からも話を続けられます。それは共通点と言えるかもしれません」

 

――レフェリーと選手のコミュニケーションは難しいですよね。試合後に「レフェリーに暴言はかれた」「レフェリーが無視をした」と発信されてしまい、実際に起きたことよりも、コメントのみがニュースになってしまったこともありました。

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