石井紘人のFootball Referee Journal

無料:著しく不正なファウルプレーを見極めた松尾一主審のナイスジャッジと機材トラブル時の五十嵐泰之A1副審の的確な助言【レフェリーブリーフィング前編】

9月29日、Zoomにて『2021年第4回レフェリーブリーフィング』が開催され、いつも通り、黛俊行JFA審判委員長の簡単な挨拶からスタートした。

「J1リーグも終盤戦、順位争いが厳しい状況になっていきます。J2、J3も混戦状態が続いています。その中で緊急事態宣言が解除され、Jリーグも段階的に観客が増えてくる。多くの観客の中で試合が出来るというのは、選手にとっても、観客にとっても、我々審判員にとっても、非常に喜ばしい事だと思っています」。

そして、バトンタッチを受けた扇谷健司Jリーグ審判デベロップメントシニアマネジャーがVAR(ビデオアシスタントレフェリー)に特化したブリーフィングを進めていく。

「前回から約二か月、VARは日々経験、勉強だと思っています。その中で色々な事が起きています。隠さずに皆様と共有させて頂いて、VARの難しさやレフェリーとしてちょっと巧くいかなかった所も含めて、ご理解を頂きたいと思っております。

まずはデータから説明させて頂きます。今の所、VARの介入は4.4試合に一回。悪くない数字だと思っています。

我々は常に審判員に「ピッチ上のジャッジをしっかりとやりましょう」と指導しています。とは言え、VAR一年目ということで、もう少し色々なことが起きてしまうかと思いましたが、数字は悪くないと感じています。

チェックにかかる時間も徐々にですが減っております。もちろん、事象によっては「長い時間がかかっているな」と思われるシーンがあると認識もしています。本日は、そういったシーンも御紹介させて頂きます。ですが、トータルでは、徐々に短縮できていることをご理解頂ければ有難いです。」

 

J1第27節 アビスパ福岡×徳島ヴォルティスの38分、審判団の判定に対して、審判団の死角でペットボトルを蹴り飛ばしたコーチングスタッフへのレッドカード

「レアなケースですが、VARは落ち着いて早い判断をしました。行為を確認し、次のアウトオブプレー時にOFR(オンフィールドレビュー)を薦めました。

OFR時に顔を大きくしていたというのは、選手と違って番号がないので、どなたなのかをしっかりと把握するための確認となります。」

 

J1第27節 柏レイソル×横浜FCの95分、著しく不正なプレーへのレッドカード

VAR「あぁーレッド!」

レフェリー「(選手たちのアピールに)I know!(対立を止めてすぐにレッドカードを掲出)」

扇谷「先ほども申し上げたように、(Jリーグ担当審判員には)「まずはピッチ上で正しいジャッジをしましょう」と伝えています。

このシーンがまさにそうで、レフェリーの松尾さんが非常に的確なジャッジをしました。たとえボールに触れていても、あのように勢いをもって突進している、体のコントロールを失った状態でのチャレンジは、著しく不正なプレーとジャッジします。さらにいえば、一歩間違えれば、足首に入り、長期の怪我での離脱となります。このシーンは、ナイスジャッジです。御覧頂いて分かるように、VARもほとんどチェックしておりません。何回か見てチェックコンプリートで次に行けています。」

 

J1第25節 横浜Fマリノス×ベガルタ仙台戦の10分、機材トラブルが発生

AVAR「我々の声入っていますか?ちょっと止めよう。ディレィディレイ、あっ、そっか、(コミュニケーションシステムも)繋がっていないか。

シーバーで行きます。

AVR to 4thOfficial森川さん、シーバーとれますか?」

第四の審判員「はい、森川です」

AVAR「VOR(ビデオオペレーションルーム)の声がそちらに伝わらないので、チェックも出来ないので、次のアウトプレーでレフェリーに試合中断させてもらっても良いですか?」

第四の審判員からレフェリーに経緯を説明する。

扇谷「長い映像ですが、皆様にご理解頂きたいので、御紹介させて頂きました。御覧頂いたようにVARの機材トラブルです。

極めて難しい状況に陥っています。やはり、テクノロジーを使うということは、こういったことも起こりうると改めて認識しました。この試合の翌週の木曜日には、VARに関わる審判員全員を集め、この事象を共有し、どのようにするのかを改めて確認を行いました。

VARの前の画面、テクノロジープロバイダーの前の画面が映らなくなりました。もちろん、DAZNの中継はあるので、メインのカメラは生きています。ですが、(VOR内では)起きた事象を巻き戻す、オフサイドラインを引くなどは出来なくなります。さらに、音声も通じなくなってしまった。VARとしての機能が果たせなくなってしまった。原因は、Jリーグとテクノロジープロパイダに詰めてもらっています。

そのような非常に難しい状況下でも、5分の中断とはなりましたが、何事もなく試合が追われたというのは良かったことなのかなと。

またジャイアントスクリーンには、VARが復旧した際に、このように投影しました。ですが、「現在、機材トラブルが発生しており、VARは適用できません」という投影は出来ませんでした。このような投影は、クラブの方々など色々な方々のご協力があって、流すことが出来ます。最初は間に合わない形となりましたが、両チームには、審判団から「VARが使えません」ということはお伝えしました。それは復旧時も同様です。

審判団も、特に副審はVARがあるかないかでオフサイドをディレイさせるか変わります。その対応もしっかりと出来ていました。

ちなみに、VARが適用できないと両チームに伝えた後に、マリノスに得点が生まれましたが、その得点前にVARは復旧していました。しかし、両チームにVARが復旧したことは伝えられていなかったので、原則としてマリノスのゴール時にはチェックは行えません。なので、行いませんでした。

この試合以降、小さなトラブルは二回ほどあったのですが、Jリーグ、テクノロジープロパイダのご協力もあって、このようなことは起きませんでした。非常にありがたく感じております。」

 

J1第 29節 徳島ヴォルティス×川崎フロンターレ戦の11分のVARオンリーレビューでのオフサイド

VAR「これは出てるよなぁ」(2Dラインをひく)

「荒木さん、APPからチェックしているタイミングで、19番の垣田選手にパスが出た時点で、垣田選手がオフサイドポジションにいるので、オフサイドです。PAを出た5mくらいの場所です」

扇谷「非常に際どいジャッジですが、正しい手順でのVARオンリーレビューです。」

 

>>>中編に続く

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