川本梅花 フットボールタクティクス

八戸の理想的な戦い方の前半と一方的に守備に回った後半【無料記事】明治安田生命J3リーグ 第7節 2022年4月29日 いわきFC 3-1 ヴァンラーレ八戸

目次
J3第7節のフォーメーションとスタメン
両チームのフォーメーションを組み合わせた図
相田勇樹のロングスローから得点
理想的な戦い方の前半と一方的に守備に回った後半
明治安田生命J3リーグ第7節 いわきFC 3-1 ヴァンラーレ八戸

省略記号一覧

J3第7節のフォーメーションとスタメン

4月24日のアスルクラロ沼津戦(0●2)の敗北で、メンバーを何人か変更してくるだろうと思われた。DF陣では小牧 成亘に替えて小林 大智が383日ぶりに復帰した。昨季はケガによって前半戦しか試合に絡めなかった。MF陣においては國分 将と坪井 一真、佐藤 碧の3人が江幡 俊介と丹羽 一陽、有間 潤に代わった。2トップにして攻撃の際に人数を増やしたいのだろう。2年目の小林と新人の江幡を頭から使ってきた。さらに、ベンチには江幡と同じく今季加入した武部 洸佑が控えている。

両チームのフォーメーションを組み合わせた図

相田勇樹のロングスローから得点

試合開始早々に八戸が先制点を挙げる。2分の得点は、CH相田 勇樹のロングスローをSW藤井 航大がバックヘッドでゴールにボールを流し込んだ。チームにロングスローを投げられる選手がいると、得点のチャンスを作れる大きな武器になる。相田のロングスローは飛距離が出ていて、今回の藤井の得点を演出したように、期待が持てる得点源の1つである。

ロングスローはキックと比べるとどうしても強度において劣ってしまう。山なりのボールになりやすいために、サイドからのクロスに頭で合わせるような勢いはないので、ヘディングで強くボールを叩くことは難しい。試合でよく見る局面は、ロングボールを競り合った後のセカンドボールを得点のチャンスにするやり方である。相田のロングスローは、CKからの強度はないにしても今回の得点のように十分にチャンスをうかがわせる勢いがあるボールだった。アタッキングサードからの相田のロングスローには今後注目するべきである。

スローインはボールの勢いがキックに比べると弱いと先に述べた。したがって、スローインされたボールをダイレクトでシュートするのは難しい。しかし、ボールの勢いが弱いために、守備側にとっては大きくクリアするのが同様に難しいことになる。ペナルティアリア中央にそうしたボールを放り込まれたらDFにとっては厄介なボールになる。ペナルティエリアの近くでセカンドボールを攻撃側に拾われたならシュートの機会を与えてしまう。

八戸にとって相田のロングスローが大きな得点源になると述べたのは、攻撃戦術として相田がアタッキングサードでスローインする際に相手チームにロングスローを意識させることができる。そうすれば、相手はペナルティエリアな中に人数を掛けるのでスローターの相田の手前の場所は手薄になる。味方の選手が相田に近寄ってボールを受ければ、確実にマイボールにできる。そこからゴールライン深くにドリブルしてマイナスのボールを上げるなどのやり方ができるようになる。相田がアタッキングサードでスローターになった時は、どんなボールを投げるのかを見るのも楽しみの1つである。

理想的な戦い方の前半と一方的に守備に回った後半

前半を終えて1-0と八戸がリードしたまま後半を迎えることになった。前半のシュート数は、ホームのいわきが4本に対して八戸は5本と上回っていた。八戸にとっては、ほぼ完璧な前半戦だった。しかし、後半からのいわきは、前半とは全く別なチームのように八戸陣内でボールを保持してゴールに襲いかかってきた。

後半開始すぐの46分にバイタルエリア中央に落ちたボールをダイレクトで右SB嵯峨 理久がシュートを放つ。ボールはゴール枠内に飛んでいき、GK蔦 颯が両手を伸ばしてクリアした。このシュートで、ハーフタイムで話されたチームの方針がはっきり見えた。シュートチャンスの場面は迷わずボールを蹴る。こうした攻撃的な意識が、普段のいわきの選手たちに根づいている。それは、4月10日に行われたJ3第5節のAC長野パルセイロ戦(4-0)での得点場面を見れば、いわきの攻撃に対する意識の高さがうかがえる。特に、追加点となった2点目の有田 稜のゴールは八戸戦での57分のFW鈴木 翔大の得点と共通点がある。

右SH岩渕 弘人にボールが渡ってから鈴木にパスが通る。鈴木はSW藤井と1対1になってペナルティエリア内に入っていく。藤井は右方向から出されたボールが自分にとって左方向に流れていくので、体重を左足にかけている。鈴木は、岩渕からのパスを左足の甲で納めてから切り返すように藤井の重心と逆方向にボールを置いて迷わずにシュートを打つ。長野戦での有田の得点も同様に、ペナルティエリアに侵入して長野のDFと1対1になると迷わずにシュートを打ってゴールを決めた。ペナルティエリアの中でFWとDFが1対1になる場面を作られてること自体が問題なのである。鈴木の得点場面は、右ストッパーの近石哲平が岩渕にボールが渡る際に、うしろに下がらないで岩渕にアタックに行かないとならないシーンだった。これも3連敗している中でのプレー選択になったのだろう。チーム状態が良ければ、下がらないで前にプレスに行っていたかもしれない。キャプテンの近石でさえ、安全にプレーしようとした結果の結末になった。

後半になっていわきが攻撃的な意識を高めたことは、両チームのシュート数の差にも現れている。いわき16本に対して八戸は6本である。いわきは後半に12本のシュートを放って、八戸は1本しか打っていない。さらに、いわきはサイドからのクロスの際に、ペナルティエリア内に常に4人から5人の選手が待ち構えている。セカンドボールの競り合いの際も身体を張ってキープする場面を見かける。要するに、攻撃に対しても守備においても、現段階ではいわきが上回ってことを証明した試合になってしまったのである。

この試合で、大学卒の新人選手をスタメンで起用したり、後半からピッチに立たせたりした。また、SPとして小林を起用した。これらの選択は間違いではない。逆に、監督がこだわって起用し続けている選手が何人かいるのだが、そろそろある程度起用法を考える時期に来ているように思う。いまの八戸は、戦術や戦略でカバーするよりも、まずは選手起用で大胆な策を取るべきである。葛野監督の本来のサッカーは、前半1-0で折り返したなら後半も失点しないでそのままゲームを終わらせるサッカーであると思われる。そうしたサッカーができないのは、相手への当たりの弱さとか、ボールをすぐに手放してしまう粘り強さのなさとか、基本的な部分での「戦い方」に問題がある。選手1人ひとりのちょっとした勇気あるプレーが必要なのだ。いますぐに、思い切った変化が求められている。

川本梅花

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