川本梅花 フットボールタクティクス

前半と後半の攻防のポイントを詳しく解説する【試合分析】明治安田生命J2リーグ 第8節 2022年4月3日 レノファ山口FC 1-0 大宮アルディージャ【無料記事】

目次
J2第8節のフォーメーションとスタメン
両チームのフォーメーションを組み合わせた図
両チームの前半の攻防を解説する
後半の失点場面を解説する
これまで取材した経験からの話
明治安田生命J2リーグ第8節 レノファ山口FC 1-0 大宮アルディージャ

省略記号一覧

J2第8節のフォーメーションとスタメン

前節のFC町田ゼルビア戦(0●3)から2人のCB、田代 将之と栗本 広輝から西村 慧祐と新里 亮、右SBを山田 将之から茂木 力也、CHを大橋 尚志から大山 啓輔、WGを矢島 慎也から奥抜 侃志に変更している。町田戦が水曜日開催だったため、大幅な選手の入れ替えは当然のことだ。その中で、守備の要である2人のCBをチェンジしているのは興味深い。3失点を喫した試合のダメージを払拭するための変更だろう。大橋に替えて大山をアンカーとして起用したのも注意を引く。

両チームのフォーメーションを組み合わせた図

両チームとも「4-3-3」の中盤を逆三角形にしたミラーゲームとなっている。大宮が前節と異なる点は、中盤を三角形の並びから逆三角形にしたこと。WGが利き足が右の奥抜と利き足が左の柴山のポジションを入れ替えている。この両WGがワイドに張っているため、ゴールライン深く切り込めている。守備に関しては、ファーストディフェンダーの役をIHの小島 幹敏が務めている。小島が最初にプレスに行って、手と声で指示しながらコーチングをして、前線の選手のプレスを誘導していた。

両チームの前半の攻防を解説する

前半を0-0で終えた大宮。できれば先制して後半に臨みたかったのだろうが、それでも攻守ともにプラン通りの戦いだった。前半のシュート数は大宮2本、山口7本だったが、これは試合開始から山口がミドルシュートやロングシュートを積極的に打ってきたためである。遠目からシュートを打つことで、大宮のDFにシュートを意識させて、最終ラインを下げさせる意図がある。大宮の攻撃のキーポイントは、WGとSBのサイドアタックなので、山口としては、SBが上がった後の背後を狙いたい。そのためには、大宮の前線とDFの間のスペースを広げて、そこから攻撃の起点を作る必要がある。そうした意図があっての遠目からのシュートだったのだろう。

大宮は、中盤でボールを繋いで攻め上がるのではなく、中盤のパス交換を省略して一気にボールをWBに当てていた。この結果、ボール支配率は大宮が39%に対して山口は61%と大差がついている。しかし、いまの大宮のこうしたゲームプランは間違ってはいない。ボールを敵陣深くまで運んでからのクロスを何度も試みていたのだから。ただし、クロスの正確性には欠けていたため、直接ゴールには結びつかなかった。それは、先に述べた大宮のシュート数が2本だったことに表れている。前半は、両チームとも決定的な場面を作れないで終わっている。

後半の失点場面を解説する

後半になって大宮は、右WGの奥抜と左WG柴山を入れ替えてきた。利き足が左の柴山を右サイドに置くことで、カットインしてバイタルエリアにスライドしながらのシュートを期待したのだろうが、対面する山口の右SB橋本 健人が積極的に攻撃参加するため、柴山は下がって守備に追われてしまった。そこで柴山を本来のポジションである右WGに戻したのだろう。後半開始直後は一進一退の展開だったが、次第に山口が大宮陣内でのボール保持率を高めていく。それは大宮の前線とディフェンスラインの距離が広がったことで、中盤のスペースに空白ゾーンが生まれてきたことに起因する。60分過ぎまでは、山口のCH佐藤 謙介に対して大宮のCH大山 啓輔がケアしていたが、大山の動きが落ちると、佐藤が前を向いてボールを持つ時間ができるようになる。山口はボールをサイドに送ると、アーリークロス気味に素早くゴール前にボールを放り込んできた。

決勝点となった山口のゴールは71分にCKから生まれた。このCKに関しては、大宮は完全ゾーンで守っている。したがって、キッカーのボールの質と大宮の選手の間に飛び込んでくる選手のタイミングが合えば、得点になる確率は高まる。WGの高木 大輔がファーサイド寄りからニアサイドに移動して大宮の選手の間に入ってくる。高木の前には、途中出場の矢島 慎也が立っている。CKから蹴られたボールが矢島の頭を越えて高木に届く。高木はボールをヘディングでゴールエリア中央に流し込む。ボールは沼田 駿也の腿に当たって得点となった。

大宮のこの失点に関して、あえて原因を挙げるならば「沼田の前にいた矢島がボールに触れなかった」ためとなるが、174cmの矢島は全力でジャンプしており、彼のプレーを責めることはできない。キッカーの石川 啓人の蹴ったボールが早くて質が良かったことと、ファーサイドからニアに移動してボールをそらした高木のプレーがあったので、失点は致し方ないと思う。先制された大宮はパワープレーで局面を打開しようとするも、決定機を作れないまま、ゲームを告げる無情な笛がピッチに鳴り響いた。

これまで取材した経験からの話

8試合を終えて3分け5敗。リーグ最下位となっている。まだ勝ち星がない大宮にとって、何が必要なのかは明白である。選手が一丸になって、自分たちで話し合ってやり方を工夫するしかない。これまでも監督と選手のいざこざや試合に勝てず降格危機にあるチームを見てきたが、最終的に信じられることは、選手のやる気とサッカー頭だけだ。
試合に出ていないサブメンバーも含めた選手間で、どうやったら勝てるやり方をできるのか、徹底的に何度も話し合うしか方法はない。たとえ監督の方針に背いたとしても、「選手たちで話し合って、こうやりたいんです。やらせてください」と具体的な方法を示して嘆願することだ。それに霜田 正浩監督ならば、聞き入れてくれるはずだ。

J1で戦っていた時代に大宮を取材していたが、あの頃は毎年、残留争いに巻き込まれていた。その中には監督と選手の不協和音があった時代もある。それでも大宮が降格しなかったのは、選手たち主導で戦術や戦略を練って試合に臨んだからである。どんな優秀な監督やコーチを連れてきたとしても、実際にプレーをするのは選手だ。だからこそ選手には一切のプライドを捨て、謙虚になって取り組んでほしいと願う。

川本梅花

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