川本梅花 フットボールタクティクス

ヴァンフォーレ甲府は「ポケット」からの攻撃に着手する【試合分析】2022年2月27日明治安田生命J2リーグ 第2節 ヴァンフォーレ甲府 1-1 大分トリニータ【無料記事】

目次
甲府の意図した攻撃からの先制点
失点は事故に近い出来事だった

明治安田生命J2リーグ第2節 ヴァンフォーレ甲府対大分トリニータは、32分に長谷川 元希の先制点で甲府がリードするが、後半アディショナルタイムにペレイラのヘディングで追い付かれる。失点をするまでの甲府は、パーフェクトにゲームを進めた。「追加点を奪えていれば」と悔やまれるが、1-0で試合を終える流れになっていた。このコラムでは、甲府の得点の場面と失点の場面にズームしてみたい。

明治安田生命J2リーグ第2節 ヴァンフォーレ甲府対大分トリニータ

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第2戦のフォーメーションとスタメン

J2第1節でスタメンだった石川 俊輝に替えて山田 陸をCHに起用する。また、STの関口 正大から飯島 陸にチェンジした。甲府のフォーメーションは、前回と同じ「3-4-2-1」だった。

両チームのフォーメーションを組み合わせた図

大分のフォーメーションは、「4-3-3」で中盤を逆三角形にして、3トップでシフトする。

フォーメーションの組み合わせから見えるマッチアップ

両チームのフォーメーションを組み合わせると、マッチアップ状態になる場面は5カ所ある。大分の右WG井上 健太と甲府の左WB荒木 翔。左WG小林 成豪と右WB須貝 英大。左IH渡邉 新太と右CH山田 陸。右IH町田 也真人と左CH松本 凪生。CF呉屋 大翔とSW山本 英臣。5カ所とも注目されるマッチアップだが、特に、両WG対両WBのサイドの攻防がポイントになる。甲府も大分もサイドアタックを攻撃手段にしている。サイドを制するものがゲームを制する。果たして、サイドから攻撃を仕掛けてゲームを有利に進めるのは、どちらのチームなのだろうか。注目はそこに集まる。

甲府の意図した攻撃からの先制点

甲府の先制点の出発点は飯島からはじまった。飯島はボールを持つとドリブルを開始して、サイドを走る須貝にパスを出す。飯島はペナルティエリアに走り込む。長谷川はニアサイドに入っていき、ウィリアン リラが中央へ動き、ファーサイドに荒木が待つ。須貝からパスを受けた飯島は、ニアサイドにいた長谷川にパスをしてゴールを奪った。この場面は、甲府の意図した攻撃パターンだった。なぜならば、前半から飯島と長谷川のポジショニングが反復されていたからである。得点場面を図式化してみる。

須貝からのパスを受けた飯島には、3つの選択肢があった。ニアサイドにいた長谷川か、中央にいたウィリアン リラか、それともファーサイドにいた荒木のいずれかである。ペナルティエリアの中も4対3で甲府の数的優位になっている。飯島は、一番近くにいる長谷川に、マイナス方向のパスを出す。DFにとっては、マークする選手とボールを同一視界に入れて守備をしたい。しかし、マイナスからのボールは、DFには対処するのに厄介な角度となる。なおかつ、ニアサイドと中央とファーサイドにポイントゲッターが準備しているのだから、防御するのが難しくなる。さらに、「ポケット」と呼ばれる場所に進入して攻撃してくる。「ポケット」に人数をかけて攻略するやり方は、川崎フロンターレが得意とするパターンである。以下のコラムで「ポケット」に関して解説している。

FUJIFILM SUPER CUP 2022 川崎フロンターレ 0-2 浦和レッズ―深い最終ラインで守る浦和と深くサイドから崩す川崎F―

「ポケット」を利用して攻略するやり方は、偶然ではなく意図したパターンだと言える。飯島が須貝にボールを渡した後で、迷いなく前進して「ポケット」に入っていく姿は、トレーニングで落とし込まれた姿だと想定できる。先制点を奪う前から、何度も「ポケット」に入ってチャンスを作ろうとした飯島のプレーがあった。甲府にとって、この攻撃パターンを作って得点できたのは大きな収穫だと言える。

ゴールが決まる約80%は、ペナルティエリア内からのシュートによるものである。その中で約60%は1タッチで打たれている。最低でも約20%が2タッチで得点を奪う。攻撃する側は、ペナルティエリア内からパスを1タッチで出して、相手のマークを外してシューターが1タッチでボールを打てれば得点の可能性が高まる。さらに、「ポケット」からマイナスのパスが出される。そうすると、DFは、攻撃側の選手とボールの両方を同時に見ることができない難しい状況になる。これらの要素がすべて噛み合ったのが、甲府の先制点だったのである。

失点は事故に近い出来事だった

失点は、右サイドでの須貝のファウルがきっかけになっている。ドリブルする大分の選手に並走した須貝は、おそらく、相手がそのままクロスを上げると思い込んだのだろう。体重が左足にかかっていた時に、相手が切り返して須貝の右肩から中に入る姿勢を見せた。須貝の重心が左足に置かれていたので、相手の切り返しに右足がとっさに出てしまった。その結果、大分にFKを与えてしまう。

甲府はゾーンで守っているので、人と人の間にボールが入ってくると、そこに勢いよく飛び込まれて失点する確率は高くなってしまう。大分は、GK吉田 舜を前線に上げて最後の攻撃を仕掛けてくる。キッカーから蹴られたボールは、吉田の頭から甲府の選手に当たってペレイラが同点弾を決めた。GK河田 晃兵の前に選手が何人もいて、ボールに触れることができなかった。

後半アディショナルタイムでの同点ゴール。確かにショッキングな出来事だ。しかし、失点をするまで、甲府の戦い方は、これ以上ないと言えるほど、選手たちは集中力を切らさずにプレーした。あの場面でファウルした須貝のプレーは、ボールを奪いに行ってのファウルではない。切り返した相手が一枚上だった。失点した場面も、事故に近い出来事だった。

考え方によっては、勝ち点2を失った試合だったとなるのだが、「ポケット」を使った攻撃パターンを得たのは大きい。この試合こそ、42試合ある中の1試合でしかない。ホームゲーム初戦・大分戦における選手の意気込みと集中力は見るべきものがあった。下を向く必要など、全くない試合だったと思う。

川本梅花

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