川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】ロティーナの談話―日本サッカーへの提言―【無料記事】

【インタビュー】ロティーナの談話―日本サッカーへの提言―

目次

翻訳ソフトを使った結果のミスリード
スペイン人から見える日本国文化
ミスは決して許されないものだと考える日本人

翻訳ソフトを使った結果のミスリード

スペインのWebメディア「deia」に、清水エスパルス前監督のミゲル アンヘル ロティーナのインタビューが載っていた。「deia」でのロティーナの発言を抜粋して、サッカーダイジェストWebが偏った日本語訳を与えて掲載していた。記事とタイトルは以下。

「ニホンはとても閉鎖的な国」清水前指揮官ロティーナが、驚かされた日本の“異質な文化”を語る!「とてつもないのが…」

記事のタイトルにある「ニホンはとても閉鎖的な国」と翻訳した箇所が、話題作りのために意図的にミスリードしているように捉えられる。人は、「閉鎖的」の言葉の意味を、当然「進歩的」や「革新的」の意味では理解しない。「閉鎖的」の「閉鎖」の文字から「締め出す」をイメージするだろうし、その意味に類する「排他的」や「閉塞的」の意味内容によって「閉鎖的」の意味を導き出す。

サッカーダイジェスト編集部としては、ロティーナの発言をゆがめて記事にしようとまでは考えていないのだろう。しかし「閉鎖的」という言葉が現れてきた際に、これを見出しにして「釣り」にしようとは考えたようだ。なぜならば「閉鎖的」という言葉は、翻訳ソフトを使った結果の選択で、スペイン語ができる人に依頼したものではないからだ。もしスペイン語を話せる人ならば、「閉鎖的」という訳語を選択しない。この箇所の原文では「cerrado」の形容詞が使われていて、その言葉に対してソフトが「閉鎖的」の意味を選んだ。それをそのまま採用して記事にしたのだろう。

本コラムでは「deia」でロティーナが話したインタビューの中で、特に日本に関係した箇所を翻訳して解説を入れながら読者に紹介したい。スペイン語の翻訳に関しては、スペインでの指導者経験があるラインメール青森FCのアカデミーダイレクター・堀江哲弘に依頼して訳してもらった。堀江の翻訳に対して、読者に分かりやすいように日本語を変えた部分がある。

スペイン人から見える日本国文化

「deia」の記事のタイトルは、以下になっている。

Miguel Angel Lotina: ”El error en Japon esta mal visto”

ミゲル アンヘル ロティーナ:「日本で失敗は良くないこととされる」

ロティーナは、キプロスとカタール、日本で過去8年間の監督業を終えて、スペインに帰国した。そこで経験した監督として学んだことを語っている。インタビューは1時間続いた。インタビュアーはまず、次のように話しかける。

――(日本語で)“おはようござます”ミゲル アンゲル。正しく発音でききている?

ロティーナ まあ、彼ら(日本人)は「おはよう」とだけ言うけどね。しかもそれをとても速く言うんだ。たくさんあいさつするし、たくさん謝意を述べる。彼らは絶えず何かに感謝している。それにお辞儀もするよね……。

――過去8年間、キプロス、カタール、そして日本で、世界の半分を旅した後、帰国しました。これらの経験はあなたに何をもたらしましたか?

ロティーナ 多くのことをもたらした。(手で指をさしながら)私はここで生まれた。21歳の時にゲルニカでプレーしていて、2部に所属していたバラカルドからオファーがあった。(実質3部の)2部Bに所属していたログローニョスからもオファーがあった。だからもう快適な場所から出たかったんだよ。

(日本語で)それは監督としての期間を意味していますよね?

ロティーナ はい、特に日本では、私を大きく変えた。非常に閉じていて、伝統を重んじ、そして外国人が極めて少ない国なので、日本に入り込むのは非常に難しい。確かに観光客はいる。でも、働いている人はごくわずか。だから実質的に失業することは、ほとんどないと言っていい。君が、何かしら仕事に貢献するなら、日本人は君を受け入れるだろうよ。監督としてのメンタリティーはここ(スペイン)とは大きく異なる。そのため、ヨーロッパのクラブが日本人と契約することは非常に困難だ。まず言葉の問題がある。友達になろうとすることはほとんどなく、家族の考え方も異なり……愛情を示すためにハグをすることもない。そう、あとセキュリティーについては本当にすごい。君がこのテーブルの上に携帯電話を置きっぱなしにしても、翌日になっても携帯はそのままになってることだろうよ。

解説

Webサッカーダイジェストのタイトルになっている「閉鎖的な」の文脈はこの箇所になる。この文の冒頭で「特に日本では、私を大きく変えた」と発言するように、全体的にポジティブな視点で、ロティーナは日本について語っている。ここで言った「閉じていて」は「独自性があって」とか「単独性があって」という日本文化の特徴を述べている。

「日本に入り込むのは非常に難しい」の原文は「Es muy dificil entrar en Japon」である。「entrar en Japon」は、「日本に入国する」の意味もあるので、「大陸続きの国ではないので、誰もが国境を越えて入れる国ではない」という意味内容が含まれている。もともとロティーナは直接的な表現をしないタイプなので、発言を文字通りには取れない。

ミスは決して許されないものだと考える日本人

――日本サッカーのイメージは?

ロティーナ 技術的にとても優れた選手はたくさんいるのだが、競争心のある選手が少ない。それが彼らがヨーロッパに来たい理由でもあるのだが。彼らは、お金を稼ぐために中国やアラブ首長国連邦には行かない。彼らは選手として成長するために、ヨーロッパに行くことを望む。そう思うような義務感さえあるんだ。

――日本のサッカー選手の特徴はどうですか?

ロティーナ とても器用だね。子供の頃、私は壁にボールを蹴ってるだけだったが、日本のサッカースクールでトレーニングセッションを見に行ったところ、8歳か9歳の子供が毎日1時間テニスボールを持って、足でコントロールをしていた。飽きることなく、1時間半のトレーニングを黙々とこなしていた。週に2日休むと、叱られるぐらいだ(笑)。

――欠点は?

ロティーナ 日本ではミスのせいで罰せられることはないが、(ミスは)よくないこととされる(ひんしゅくを買う)。それが全てとさえ解釈されてしまう。(例えば)1対1の場面で選手らは、(ボールを奪われたら)「ほらパスしないから……」と言っていた。あるいはGKも失敗したくないので飛び出さない。私は彼らに「失敗しなければならない。サッカーはミスのスポーツなんだ。もし飛び出しもしないし、リスクも取らなかったら、確かに失敗はしないだろうけどね」と言った。彼らは(それを)理解できなかった。そのことは、その日だけの問題では終わらない(問題だ)。私は、セレッソ大阪の時に2部リーグに所属していたとてもうまいドリブラーの選手と契約した。彼は、6カ月後に代表に選ばれた。

解説

この箇所は日本サッカーにとってとても示唆に富んだ教訓を与える。日本人はミスを恐れるゆえ、ミスをしないやり方を選択する。その結果、プレーの選択が消極的になってしまう。例えば、得点のチャンス場面でもパスを選択してチャンスを自ら潰してしまう。1対2の数的不利で近くにフリーの選手がいるのならばパス選択も理解できる。しかし1対1の数的同数で近くにいる味方の選手にもマークされている場合、当然、勝負するべきチャンスの場面だ。そんな時でもパスを選択してしまう。こうした考え方は、すぐには解消できない。「セレッソ大阪の時に2部リーグに所属していたとてもドリブラーがうまい選手と契約した」は、おそらく、当時モンテディオ山形に所属していた坂元 達裕のことと思われる。この例をロティーナが挙げたのは、ミスを恐れずに可能性にかけて勝負するプレーを見せた坂元を肯定的に取り上げている。

――セレッソ大阪について話しましたが、日本では5年間で3チームを指揮してきました。なぜそんなにせわしく動くことになったのですか?

ロティーナ 最初の2年間は、ヴェルディにいた。そこは50年という日本で最も歴史のある2部のクラブだった。クラブは、スポンサーによってはとても資金力が豊富になる。ヴェルディは、そのようなスポンサーを失った。(その頃)私は、1部リーグのクラブを指揮したかった。 2年後、セビリアやバレンシアのような、セレッソ大阪から声がかかった。 2年間は順調だったけど、テクニカルディレクターが替わった。新しいテクニカルディレクターは自分が信頼する監督を連れてきた。彼は、私たちに更新のオファーを出さなかった。そこで、清水が私たちに打診をしてきたのだ、彼らは、良いスポンサーを持っていたが、チームは下位に沈んでしまった。

――(今後)チームを指揮する立場に戻りますか、それとも引退しますか?

ロティーナ 妻によると引退ということになっているんだが、自分からしてみると、どう自分のことを言えばいいのか……。休憩が必要だったと思う。できなくて寂しかったこともあった。例えば、街でおしゃべりしたり、散歩したり、きのこを食べたりだね。まずはリラックスして、私の頭が自分に何を教えてくれるかを見たい。(いまの私には次の)3つのことが念頭にある。最初に、健康。第2に、監督として成長することができればという情熱。そして第3に、もし私にとって魅力的なオファーがあったら、ということだね。

以上が、ロティーナの談話になる。とても興味深い発言が多かった。このインタビューが、読者の思考の手助けなればいいと思っている。

川本梅花

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