川本梅花 フットボールタクティクス

【レビュー】崩壊してしまったチーム【無料記事】J3第30節 ガイナーレ鳥取 3-0 ヴァンラーレ八戸

【レビュー】崩壊してしまったチーム

目次

崩壊したチーム
低迷した原因は何か?

明治安田生命J3リーグ第30節 ガイナーレ鳥取 3-0 ヴァンラーレ八戸

八戸のフォーメーションは「3-6-1」。鳥取も同じフォーメーションで臨んできた。ミラーゲームとなった試合は、シーズン終盤になって調子を上げてきた鳥取が常にゲームの流れを握り、八戸は3-0の完敗に終わった。

八戸のスタートポジションは、小牧 成亘を右SPにして、真ん中のSWには相田 勇樹を置く。前澤 甲気を右WBで使って、丸岡 悟を右STに採用した。選手のポジションを何件か変更してリーグ最終節に挑んだ八戸だったが、いつもの敗戦パターンにはまってしまった。

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崩壊したチーム

失点を喫した場面を順に確認する。16分のFW田口 裕也のPKは、ペナルティエリアに走り込んできた田口にMF新井山 祥智が足を出して与えたものだ。47分のFW石川 大地のヘディングは、CKを石川と競り合ったMF丸岡 悟の上からゴールを決められている。52分もCKから失点。ヘディングで得点をしたDF鈴木 順也に八戸の2人が競り合ったもののケアできなかった。PKとCK。防ごうとすれば防げた失点だった。

選手間のコミュニケーション不足なのか、集中力を欠いてしまったのか。失点の理由ははっきりしない。ゾーンで守った結果、選手の間にボールを蹴られて背後からヘディングを決められたのなら理解できる。しかし、そうではなくて、キッカーがピンポイントで狙って蹴っているところに、得点者がヘディングを決めている。守っている側がきちんと相手をブロックしていれば、そんなに難しい場面ではなかった。

攻撃に関しても、得点できるような場面を演出できなかった。なんとしても追いつこうとしたプレーは、逆に空回りをもたらすだけ。試合を見て思うことは、このチームは崩壊しているということだ。おそらく、それは事実だろう。ここから来季に結びつけるためには、選手の大幅な入れ替えとコーチングスタッフと強化部とフロントに新しい風を入れるしかないように思われる。

低迷した原因は何か?

八戸の今季の成績は勝ち点28。7勝8分け13敗、得点24失点44の13位に終わった。一番の敗因は選手層の薄さにある。最終節にあっても、契約満了の選手をスタメンで起用して、鳥取までの遠征先に帯同させなければならない台所事情にある。思い切ってガラッとメンバーを変えて若手主体や来季の契約予定選手を起用したいところだが、ケガやコンディション不良で出場させたくてもできない。26人のメンバーがいたとしても、実質試合で使えるレベルの選手が限られている。こうした選手層の薄さが、低迷を招いた一番の原因に挙げられる。

すでにクラブから発表された契約満了になった選手の中で、MF高見 啓太とMF前田 柊は、今季の開幕前に葛野 昌宏監督から「今年が勝負だからな」と告げられていた。監督は高見と前田が中心選手となってチームを引っ張ってくれるだろう、と期待していた。しかし2人の選手は、はっきり言って期待に応えられるプレーはしなかった。高見はフィジカルの弱さを克服できず、シーズンを過ごしてしまった。契約満了という早めのリリースは、彼らが次の仕事場を見つけられるための配慮だった。

2つ目の原因として挙げられるのは、葛野監督の意図が選手に伝わった試合が少なかったとことだ。葛野イズムを継承するラインメール青森FC時代の選手たち、GK横山 卓司、DF赤松 秀哉、廣瀬 智行、近石 哲平、MF秋吉 泰佑、中村 太一らが中心となってチームを一体化しなければならなかったのだが、レギュラーで試合に出ていたMF前澤 甲気などと試合に対する取り組み方に距離があったようだ。比較的おとなしい性格の選手が多く、誰かの意見に反論してチームに刺激を与える選手は出てこなかった。仲がいいチームメイト的な雰囲気が漂って、意見の対立も表立って起きない。

11月21日のJ3第28節のFC岐阜戦[2○1]のように、葛野イズムが選手に理解されれば、自ずと結果はついてくる。相手のスローインさえも自由にさせない。前線からプレスを激しく掛け、最終ラインを高く保とうとする。サイドの選手は相手にチャレンジして縦への突破を試みる。ボールを奪われたらプレスバックしてすぐにプレッシャーを掛けに行く。こうしたスタイルを試合の中で休まずにプレーし続ける。

しかし、こうしたスタイルを継続できなかった。特に先制点を奪われた試合では、追いつこうと前がかりになりすぎてバランスを崩す。その結果、追加点を奪われる悪循環を招いた。

崩壊したチームを立て直すためには、厳しい決断が求められる。筆者は葛野監督の継続を望んでいるが、コーチングスタッフに新しい知恵を出す人が必要だ。フロントも八戸OBだけではなく、プロフェッショナルな人物を招聘した方がいい。J2に昇格できるチームを作りたいのなら、葛野監督のサポート役が必要だし、監督を支えるフロントの人材も必要だろう。どれだけ厳しい決断をできるか。そこに八戸の命運は託されている。

川本梅花

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