川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】#近石哲平 がパスを出す前にオーバーラップする #丹羽一陽【会員限定】J3第23節 #ヴァンラーレ八戸 1-1 #福島ユナイテッドFC

【試合分析】近石哲平がパスを出す前にオーバーラップする丹羽一陽

目次

「3-6-1」のミラーゲーム
直近3試合で13失点…八戸の課題とは
近石哲平がパスを出す前にオーバーラップする丹羽一陽
“裏のスペース”をカバーするGK蔦颯

明治安田生命J3リーグ第23節 ヴァンラーレ八戸 1-1 福島ユナイテッドFC

明治安田生命J3リーグ第23節、ヴァンラーレ八戸対福島ユナイテッドFCが10月17日にプライフーズスタジアムで行われた。八戸は前節(J3第22節)、ロアッソ熊本に0-5で黒星。守備を立て直して臨んだ福島戦は76分に上形 洋介のゴールで先制するも、86分にPKを決められて同点のまま終了。八戸は6勝6分け9敗(勝点24)で11位と変わらず。福島は前節・鹿児島ユナイテッドFC戦[1△1]に続く引き分けで、直近5試合は2分け3敗。11勝4分け7敗(勝点37)で5位となっている。

「3-6-1」のミラーゲーム

八戸は「3-6-1」細かく記せば「3-4-2-1」でSTに2人を置く。福島は前節の「4-2-3-1」ではなく八戸と同じ「3-6-1」を採用し、ミラーゲームとなった。

省略記号一覧

八戸は、熊本戦からスターティングメンバーを変更。DF廣瀬 智行、MF中村 太一、相田 勇樹、FW岡 佳樹の4人が外れ、DF赤松 秀哉、板倉 洸、MF新井山 祥智、FW上形をピッチに送る。さらに選手の配置も変更している。板倉をディフェンスライン中央のSWにして、右SPに赤松を置く。SPで起用されていた小牧 成亘を右WBで起用した。CHは佐藤 和樹と新井山。前澤 甲気を1トップにして、STに上形と坪井 一真を配置する。

直近3試合で13失点…八戸の課題とは

守備は引いて守ることを基本ベースにしたとしても、引いてばかりいては得点できない。ボールを奪って攻撃に転じなければいけない。しかしDFとMFが自陣に引いて守っているため、どうしてもボールを奪う位置は低くなってしまう。ぎりぎりバイタルエリア付近でボールを奪えたなら御の字。守備に人数をかけているため、攻撃への展開は遅くなる。結果、ボールをハーフウェーラインまで運んだ時点で、相手チームは帰陣してブロックを作っている。そしてボールを回して様子をうかがっている間に、インターセプトされてピンチを招く。かといって後方でボールを奪ってロングボールを前線に入れても、カウンター攻撃の準備ができていないため、ボールは相手に渡ってしまう。この繰り返しが、八戸の大量失点(福島戦までの直近3試合で13失点)の大きな原因となっていた。八戸はどのようなテコ入れをして組織を立て直してきたのか。

近石哲平がパスを出す前にオーバーラップする丹羽一陽


5分過ぎ、前澤の前にボールが流れてきて、左サイドにパスを出す。そこに左SP近石 哲平が後方から走り込んでくる。左サイドライン沿いを見れば、近石がボールに到着する前に丹羽 一陽が前方へ走り出している。近石はハーフスペースからサイドスペース前方にミドルパスを送る。丹羽が並走する福島の選手よりも早くボールに追いついてサイドの攻撃がスタートする。状況を図で示すと以下になる。

ポイントは、近石がパスを出す前に丹羽がサイドをオーバーラップしていることだ。丹羽が高い位置を取ろうとすれば、福島の選手も並走する。福島はサイドの選手が後退すると同時に、ディフェンスラインも下がらざるを得なくなる。こうして八戸は相手を敵陣深く押し込むことになる。

同じことが右サイドでも展開される。右WB小牧 成亘は高い位置を取って攻撃参加。インナーラップを使ってゴール前に攻め込むプレーも見せた。小牧は昨季ガイナーレ鳥取へ移籍し、今季途中に復帰。鳥取移籍前の小牧について筆者はその才能を評価していたが、復帰後はセットプレーの際にゴール前で相手と競り合わない、マークを外して間接的に失点に関与するなど、精彩を欠いていた。しかし福島戦での小牧は初心に戻ったかのように必死でチームのために働いていた。

両WBがオーバーラップやインナーラップを繰り返す。こうしたWBの攻撃参加で得点チャンスは増えていく。あとはチャンスを活かすため、もうひと工夫が必要となる。例えば相手がブロックを作る前にクロスを上げる。それにはFWがペナルティエリア内にすばやく進入しなければならない。クロスを上げたはいいが、ボールに合わせる選手がいなければ話にならないからだ。またはミドルシュートを何度か打って相手DFを釣りだしておき、前線の選手が裏に抜けるなど。いずれにせよWBが高い位置を取れれば、攻撃のやり方は広がっていく。

“裏のスペース”をカバーするGK蔦颯

WBが高い位置を取った場合、ディフェンスラインも上がって前線との距離を狭めなければ中盤に広大なスペースができるため、そこを相手に使われるリスクが高まる。しかしディフェンスラインがハーフウェーライン近くまで上がると、今度はディフェンスラインとGKの間に広大な“裏のスペース”ができてしまう。この問題を解決するのはGKの役割となる。

ディフェンスラインが上がってできた“裏のスペース”にボールが出された時、そのボールをクリアするタスクはGK蔦 颯が担うことになる。福島戦の蔦は、このタスクを完遂していた。福島が“裏のスペース”にボールを蹴ってきたら、蔦は全速力で前に出てボールをクリア。蔦はスピードがあり、足下の技術もしっかりしているため、ボールを大きく蹴りだすことができる。八戸は蔦のキックにより、何度も陣地を挽回していた。またGKに足下の技術があることで、ビルドアップの選択肢も増えるというメリットもある。ビルドアップは通常、CHがディフェンスラインに下がって行うことが多いが、そのポジションにGKが上がるという選択肢が加わることになる。

試合は86分に追いつかれて引き分けに終わった。PKについては事故と割り切るしかない。むしろ重要なことは、選手たちがチームの約束事を順守するため、相手よりも動き、一歩先を見てプレーできたこと。結果は引き分けだったが、選手たちもチーム立て直しの手応えを感じたはずだ。

川本梅花

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ