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【試合分析】#小野雅史 の巧妙なポジショニング【無料記事】J2第33節 #大宮アルディージャ 2-2 #ツエーゲン金沢

【試合分析】小野雅史の巧妙なポジショニングで引き分けに持ち込む

明治安田生命J2リーグ第33節 大宮アルディージャ 2-2 ツエーゲン金沢

目次

大宮のビルドアップを支える三門雄大
馬渡和彰のマンマークを外すプレー
小野雅史の巧妙なポジショニング

明治安田生命J2リーグ第33節、大宮アルディージャ対ツエーゲン金沢が10月9日にNACK5スタジアムで行われた。前節、栃木SCに3-1の勝利を収めた大宮だったが、金沢戦の引き分けにより7勝13分け13敗(勝点34)、1つ順位を落として15位になる。一方の金沢も、前節・アルビレックス新潟に1-0で勝利を収めた勢いのまま臨んだものの追いつかれてのドロー。8勝8分け17敗(勝点32)で順位は18位のままとなった。22チームで争われ、19位以下がJ3自動降格となる今季の明治安田生命J2リーグ。残留争いでは、勝点が消化試合数を上回っているかが1つの指標となる。残り9試合、1試合ごとの重みは増していく。


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大宮のビルドアップを支える三門雄大

前節、上位の新潟を破った金沢は、大宮戦でも4分と12分にFW大谷 駿斗が得点。早々に2点のリードを奪う。対する大宮は20分過ぎから“やり方”を変える。ディフェンスラインでボールを回して相手の動きを見ながら展開することを止め、積極的に前線へとボールを配給するようになる。これはCH三門 雄大のプレーに起因する。

大宮のビルドアップは、GK南 雄太から供給されたボールをCB河本 裕之とCB西村 慧祐の2人で回すか、2CBが両サイドに広がって中央に南が上がるか、三門が下がるか、いずれかの方法で行われる。しかし20分過ぎからは、三門が下りて起点となる形に絞る。この方法に絞った理由は、次のように考えられる。

通常、FWの正面にいるCBへボールが渡ることが、プレスのスイッチとなる。この試合ならば、大宮CB西村の正面にボールが渡ることで、金沢FW丹羽 詩温がプレスを仕掛けるといった具合だ。金沢は2トップで、大宮は4バック。大宮のCB2人に対して金沢のFWが2人、2対2の同数になるため、CBは常にプレッシャーを受けることになる。大宮としては、こうした状況を避けたい。そこで三門がビルドアップに参加することになる。

三門が加わることで実質3バック、3対2の数的優位でボールを回せるようになる。加えて両SBがWBのように高い位置を取るため、金沢はラインを下げざるを得なくなる。さらにCBはフリーでボールを受けることで、広い視野が確保できるようになる。例えば逆サイドの状況も把握できるため、高い位置にいるSBを生かせるなど、好循環を生むことになる。三門がビルドアップの起点となり、大宮の攻撃は明確に好転していく。

馬渡和彰のマンマークを外すプレー

金沢はマンツーマンディフェンスを採用していた。マンツーマンディフェンスについては、以下のコラムを参照してもらいたい。

【連載】ゾーンディフェンスとマンツーマンディフェンスの違いとは?【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】

【連載】マンツーマン ディフェンスは2つに分けられます【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】

マンツーマンディフェンスの弱点を突くことで42分、大宮SB馬渡 和彰の得点が生まれる。タッチライン高い位置に張る馬渡はパスを受けると、CH小島 幹敏に横パスを出す。小島はダイレクトで、WG黒川 淳史とポジションチェンジをして右サイドにいた小野 雅史へとパスを送る。この時、馬渡をマークしなければならない金沢の左SB渡邊 泰基は、小島のダイレクトパスにより、馬渡からボールへと視線を移してしまう。この隙を逃さず、馬渡はフリーでバイタルエリア中央へと進入。小野からの強いパスを受けた馬渡は、倒れ込みながら豪快なシュートを決めることになる。金沢のマンツーマンディフェンスを崩壊させた象徴的なシーンだった。

小野雅史の巧妙なポジショニング

大宮のディフェンスラインはハーフウェーラインを越えて相手陣内に進入。対する金沢は5バックにして守備を固める。そうした中、85分に生まれたFW中野 誠也の同点ゴールは、小野がスルーパスを出した時点で決まっていたと言える。

この場面、本来なら金沢MF大橋 尚志が小野をマークしなければならなかった。しかし小野がディフェンスラインまで下がったため、大橋はペナルティエリアに入って守備に回る。小野へとパスを出すことになる小島がボールを持った時、小野は動きを早めて小島へと近づく。小野のポジションは横のラインだと金沢のMFとDFの間、いわゆる中間ポジションで、縦のラインだとハーフスペースへ入っていく。

大橋は慌てて前進、プレスに行くが、時すでに遅し。完全なるフリーの状態を確保した小野は、FW河田 篤秀がちょうど走り込める位置にパスを出す。河田と大宮GK後藤 雅明が競り合い、こぼれたボールを中野がゴールへと押し込み同点とする。バイタルエリアに行くと金沢の選手がマークに付いてくるため、小野はマークを外そうとサイドに顔を出すなど動きに緩急を付けていたが、こうしたクレバーなプレーが結実した場面だった。

大宮は個人スキルの高い選手が集まったチームなので、2失点を喫する前に、20分過ぎから見せたやり方を徹底できれば、残留争いから抜け出せるはずだ。試合の中で、全員が正しい方向に視線を向けられるか。これが今後の戦いのカギになる。

川本梅花

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