川本梅花 フットボールタクティクス

【レビュー】スペースを作り出す沼津とガソリン切れの八戸【無料記事】J3第21節 #アスルクラロ沼津 7-2 #ヴァンラーレ八戸

【レビュー】スペースを作り出す沼津とガソリン切れの八戸

明治安田生命J3リーグ 第21節 アスルクラロ沼津 7-2 ヴァンラーレ八戸

目次

SNS投稿から読める選手たちの心情
空白のスペースを作り出す沼津
ガソリン切れを起こした八戸

明治安田生命J3リーグ第21節、アスルクラロ沼津対ヴァンラーレ八戸が10月3日に愛鷹広域公園多目的競技場で行われた。八戸は9月17日にトップチーム選手2名から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)陽性反応が出たと発表。翌日、J3第19節・カターレ富山戦の中止が発表され、23日はJ3第19節・AC長野パルセイロ戦の中止を発表した。チームへの影響は公式戦の中止に限らず、クラブの活動が停止。濃厚接触者全員の隔離措置期間が終了したのは30日で、当然、選手たちのコンディションに不安があった。こうした中で行われた試合は7失点という不名誉な記録を残しての大敗に終わっている。

沼津が「4-2-3-1」、八戸は「3-6-1」のフォーメーション。両チームの布陣は予想通りだった。

SNS投稿から読める選手たちの心情

試合の内容を話す前に、八戸の選手による試合後のSNS投稿を見てみよう。

前澤 甲気は「前向きに日々の練習、生活から取り組んでいきます」、相田 勇樹は「チームの勝利に貢献出来るようまた一からやっていきます」、原山 海里は「魂を揺さぶれるように全身全霊で戦います」と述べる。サポーターと同様に、選手たちも大敗にショックを受けたはずだ。彼らのサッカー人生、子供の頃を除けば、7失点も喫した経験はおそらく初めてであろう。

大敗という結果もさることながら、彼らが悔しさをあらわにしたのには、それなりの理由があったと考えられる。試合に臨むための気持ちは入っていたが身体が思うように動かない。時間の経過に伴い、普段は動いていた一歩が出せない。沼津の選手たちについていけず、ピッチで足を滑らせる。それだけ活動停止による「空白の3週間」は大きかったのである。

空白のスペースを作り出す沼津

前半が終了して0-2。八戸は後半開始時に3人の選手交代を行う。先発の新井山 祥智、野瀬 龍世、丸岡 悟を下げ、上形 洋介、岡 佳樹、廣瀬 智行を投入する。葛野 昌宏監督の采配としては珍しい、後半開始からの3枚替え。この交代からも分かるように選手のコンディションは最悪だった。

仮に9月30日から全体練習を再開できていたとしても、静岡まで遠征することを考えれば、沼津戦はぶっつけ本番だったに違いない。試合開始10分以内に先制点を奪い、相手にボールを持たせて、ある程度引いて守って勝ち切る。これが沼津戦のプランだったと推測される。八戸は試合開始からの10分間、前線の選手が沼津のディフェンスに積極的にプレスに行っていた。それは“スパート”と言えるほどの勢いだったが、20分を過ぎたあたりから、八戸の選手の動きは鈍くなっていく。

プレビューで「サイドがポイントになる」と書いた。その理由は、沼津がSHとSBの2人がサイドラインにいるのに対して、八戸はWBの1人である。沼津はビルドアップの際、数的優位を作りながら空白のスペースを生み出す。以下の図を見てもらいたい。


省略記号一覧

沼津はビルドアップの際、両CBが左右に大きく開いてCHが真ん中に降りるスタイルを取る。この結果、沼津は数的優位でビルドアップができる。八戸は、STの坪井 一真が沼津のSBにプレスに行く。ボールが沼津の右CBに渡ると、CF前澤がプレッシャーを掛ける。ボールが左CBに渡ると、野瀬 龍世がプレスに出る。あえてこうした状況を作り出すことで、八戸のSTがいたポジションは空くことになる。そのスペースに、沼津のSHやCHが入ってきてボールを受け取る。彼らは前を向いてボールを持てるため、縦パスやサイドへボールの供給が可能となるのだ。
沼津がサイドからペナルティエリアにクロスを入れてチャンスを演出できた理由は、沼津のビルドアップによって八戸の前線の選手が誘い出され、2列目の選手がいたスペースに沼津の選手が入ってボールを持てたからだと説明できる。

ガソリン切れを起こした八戸

リーグ戦で1シーズン通じて安定した成績を残すためには、選手のコンディション管理が重要になる。八戸のスケジュールとは異なるが、基本的な例を挙げる。

(日)ホームで午後に試合がある場合は、試合にターゲットを絞った戦術トレーニングを午前中に行う。アウェイの場合は、すぐに移動して帰着後に解散。

(月)午前または午後から練習開始。前日プレーした選手は、ストレッチやランニングなど30~45分の軽めのトレーニング。プレーしなかった選手は約1時間、フルメニューのフィジカルトレーニング。

(火)オフ。

(水)午前または午後から練習開始。試合にターゲットを絞った戦術トレーニング。

(木)午前または午後から練習開始。試合にターゲットを絞った戦術トレーニング。

(金)全員でフルメニューのフィジカルトレーニングを行う。スピード系のトレーニング。ボールを使った戦術・技術トレーニング。2時間強。

(土)翌日の試合に向けて、ターゲットを絞った戦術トレーニング。

トレーニングには負荷の高い無酸素系とスピード系の2種類があるが、負荷の高いトレーニングをどこに入れるかはチームによって異なる。例では火曜日をオフにしているが、オフがないチームもある。いずれにせよ1週間のサイクルをこなすことが選手のコンディションを維持する上で重要で、こうしたトレーニングをこなしているからこそ、選手たちは90分間フルに戦えるのである。
翻って八戸は、こうしたトレーニングが全くできないまま、沼津戦に臨んだことになる。結果、選手たちは“ガソリン切れ”を起こすことになる。選手にとって本当に気の毒な90分+アディショナルタイムになってしまった。

川本梅花

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