川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】なぜ #ラインメール青森 は調子を上げてきたのか?―安達亮監督、後藤京介、差波優人の話からひも解く-【無料記事】

【コラム】なぜラインメール青森は調子を上げてきたのか?―安達亮監督、後藤京介、差波優人の話からひも解く-

2021年8月1日現在、日本フットボールリーグ(JFL)に所属するラインメール青森FCは、今季リーグ戦17試合を消化して7勝6分け4敗、勝点27で5位につける。首位のいわきFCの勝点は38。残り試合(全34節、18チームによる総当たり2回戦)を考えれば逆転、すなわちJ3昇格のチャンスも十分にある。

JFLは中断期間を迎えており、ラインメールも7月25日に行われた第18節・高知ユナイテッドSC戦[2△2]で小休止。再開は8月22日の第19節・東京武蔵野ユナイテッドFC戦からとなる。このタイミングで、安達 亮監督、後藤 京介選手、差波 優人選手から以前聞いた話を中心に、ラインメールがなぜ調子を上げたのかを分析する。

ラインメールは、シーズン開幕してから5試合勝ちなし。勝ち切れない試合が続くも、5月5日に行われたリーグ6試合目、第8節・Honda FC戦で2-1の勝利を収めると、その後は4勝3分けで9試合負けなしとなる。粘って勝ち切る戦いを手に入れた背景には、安達監督と選手たちの信頼関係があった。

監督を慕う選手の気持ち

後藤がラインメールに加入したキッカケは、安達監督に声を掛けられたことだった。

「いわてグルージャ盛岡への期限付き移籍が終わって、クラブを探していました。でも、どこからもオファーがなくて……。それを亮さん(安達監督)に伝えたら『ラインメールの監督をやるから来ないか』と言われたんです。実は、カターレ富山で監督をやられていた時から、ずっとオファーをもらっていたので、このタイミングでラインメールに行かないと絶対に後悔すると思いました。ここに来たからには、ラインメールをJ3へ上げるのが僕の使命だと思っています。亮さんの下でもう一度、Jでプレーすることは僕の夢でもあり、願いでもあります」

差波も次のように話す。

「(2018年に期限付き移籍で在籍した)富山でお世話になっていて、そうしたことから今回お話をいただきました。安達さんの下でまたサッカーができるのが楽しみです。J3にラインメールを昇格させる力になりたいです」

彼ら2人に代表されるように、「安達監督のために」と強く思っている選手がいるため、余程のことがない限り、チームが大崩れすることはないだろう。監督と選手の信頼関係がなければ、チームが共通の目標に向かって進めないのだ。

ラインメールの好調には、中心選手である後藤の存在がある。今季のラインメールの試合を最初に見た時(3月14日、第1節・東京武蔵野ユナイテッドFC戦[2△2])、「このチームは後藤のチームなんだ」と思った。ボールは常に、センターハーフ(CH)でポジショニングする後藤を経由して回っていく。

「僕を中心にボールが回るので、僕も責任を持ってプレーしないといけない。亮さんが僕に求めているのは、そうしたこと(責任)だと思うので、勝ちに繋げたい。僕がラインメールに合流したのは2月10日のキャンプから。その時も感じたことですが、亮さんは方向付けがうまい監督だなと。僕は、亮さんに似たような感覚を持っているんだと実感して、それならばと、練習でも僕が感じたことを選手に伝えることにしたんです」

攻撃的な戦術と監督の現状認識

ラインメールはビルドアップの際、CHが左センターバック(CB)の左側にポジションを下げる。この特徴的な戦術には、明確な意図がある。後藤は次のように述べる。

「キャンプからやってきたことで、1年間やっていくと思います。相手の立ち位置を見て、プレーすることを僕らがやらないといけない。相手のFWが2枚ならば、僕かもう1人(のCH)が降りて3バックになります。2トップのFWを見るためにDF3枚になる。相手が1トップなら僕が降りる必要がない」

相手のFWが1枚ならば、2人のCBで守備をする。相手のFWが2枚ならば、どちらかのCHがディフェンスラインに降りて3バックになる。相手がラインメールの動きに対応してくるなら、その対応を見て対処する。そうしたやり方をキャンプから築き上げてきた。戦術が浸透したことも調子を上げてきた要因の1つだろう。

安達監督はラインメールをどんなチームにしたいのか。監督は以下のように話す。

「理想は『ボールを繋いで……』ですが、まずはJFLできちんと勝てるチームにすることです。内容と現実の勝点を取ることを両立しないといけない。理想だけを追いかけても仕方がない。だから現実的な戦いが多くなるでしょう。その中でも、自分たちの戦いをやり通すことが大切です。それは、ボールを保持して意図的に相手を崩すことです」

理想のサッカーはあっても、現実的なサッカーで勝点を積み上げていく。その結果が、J3昇格の扉を開くことになる。監督が考える「現実的なサッカー」と「ボールを保持して意図的に相手を崩すサッカー」が一致した時、J3昇格は現実のものとなるのだろう。

川本梅花

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