川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】#ヴァンラーレ八戸 の守備について…シーズン前半戦を総括【コラム】

【コラム】ヴァンラーレ八戸のシーズン前半戦について-八戸の守備を語る-

今季前半戦におけるヴァンラーレ八戸の攻撃を総括したコラムで使用した「4つに区分された局面が連鎖していくことを示した図」を使い、今回は守備について考察します。「ボールを奪われた時」と「ボールをキープされている時」の部分です。

「ボールを奪われた時」のポイントは、攻撃中にボールを奪われた時、どのようなリアクションを取るかです。攻撃中は得点するため、選手は前がかりになっています。そうした状態でボールを奪われたら、チームはバランスを崩すことになります。崩れたバランスをどうやって立て直すか。一方「ボールをキープされている時」はボールを奪い返せなかった状態、相手の攻撃中とも言い換えられます。これらの局面で、どのような守り方をするか。ここからチームの守備の考えた方がうかがえます。

守備に関しては、2つの指向があります。

  1. ハイプレッシング
  2. リトリート

プレッシングは、ボール保持者にプレッシャーを掛け、ボールを奪う守備戦術です。自分たちからアクションを起こして、相手を追い詰めてボールを奪います。これには「ファーストディフェンダー」という役割があり、それは試合開始前に決められています。(※試合中に選手間で決めるチームもある)その役割はボールに一番近い選手、主にFWや攻撃的なMF(2列目の選手)が担います。前線の選手に連動して後ろのMFも前に出てプレスに参加。前の選手に後ろの選手が連動してアクションを起こす。この動きを高い位置からどんどん仕掛ける守備戦術を「ハイプレッシング」と言います。

昨季開幕直後の八戸は、ハイプレッシング指向のチームを作ろうとしていました。「全員攻撃全員守備」ですね。しかし、その試みはうまく行きませんでした。葛野 昌宏氏がシーズン途中から指揮を執ってから、ハイプレッシング指向からリトリート指向にチェンジします。その理由は、プレシングに行って相手にかわされ、フリースペースを利用されて失点を喫する状況を改善するためです。実際、相手にカウンターをくらう機会は減りました。そうした守備戦術の継承が、今季の守備の基本になっています。

リトリートは、ボールにプレッシャーを掛けるより前に自陣へ引いて守備を固める、陣形を整えてから守備をスタートするイメージです。この守備戦術はプレッシングと異なり、ボールを奪いに行くのではなく、ボールの勢いを止めることを目的にしています。前線の選手は、相手のパスコースを切る動き、縦方向にパスを出させないようにポジショニングする。相手の攻撃を遅らせるような仕事、これを「ディレイ」と言うのですが、相手の攻撃を遅らせたら深追いはしません。

今季の八戸は無理なハイプレスを掛けないものの、前線にいるFWやMFは、相手のパスコースを遮って縦パスを出させないような守備をしています。相手にボールを持たせている間にリトリートして、守備陣形を築くやり方をします。ただしパスコースを切っていく中でボールを奪えたなら、一気にカウンターを仕掛ける柔軟性も持たせています。

FWに起用される前澤 甲気は、相手のパスコースを切る守備を1試合通して継続しています。これはチームにとって助かる働きです。前澤は八戸にとって外せない選手になっています。守備だけではなくシュートもうまいので、貴重な戦力ですね。

最終ラインの3バックは、左から近石 哲平、赤松 秀哉、伊勢 渉で組まれています。開幕当初は中央に近石を置いていたのですが、近石を左、赤松を中央にしたことで、守備に安定感が生まれたました。昨季の伊勢は、相手に付いていってポジションを空ける場面があったのですが、今季は自分のポジションを相当に意識した守備に変わっています。本人の考えなのか、誰かのアドバイスなのか分かりませんが、フィジカルが強いため、ポジショニングが改善されれば……と思っていました。昨季とは全く異なるポジショニングです。

3バック自体は変わらないものの「ポジショナルプレー的な要素」が垣間見られます。「ポジショナルプレー」は「可変式」と言い換えてもいいでしょう。3バックの理想形として、両サイドのストッパーがワイドに開いて幅を持たせて守備をする形が挙げられます。これには、選手1人ひとりのフィジカルとスキルが必要となります。別の方法として、どちらかのストッパーと中央のDFがワイドに開いてMFが降りてきてビルドアップするやり方があります。八戸では、近石と赤松がワイドに開いて、中央に相田 勇樹が降りてきて3バックを作ってビルドアップしたことがありました。この時、右のストッパーの伊勢は前に上がっていきます。こうした形が作られていくと、相手のポジショニングのズレを作れて数的優位を作れるのです。

GK蔦 颯の加入は、最大の収穫と言えます。フィードがよくて守備では前にも出てきて足下も使える。ザスパクサツ群馬で全く試合に使われていないのがウソのようなプレーです。蔦が八戸のゴールを守るようになってから、チームに安定感が生まれました。もともとの能力を開花させつつあるのでしょう。

八戸の守備に関しては、前線の選手が相手のパスコースを切る守備をしてディレイさせて、リトリートして守り切る。こうした守備戦術によって、葛野サッカーは作られていくのです。

川本梅花

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