川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】#ヴァンラーレ八戸 スターティングメンバーとシステムから読むチームの現状【コラム】

【コラム】ヴァンラーレ八戸、スターティングメンバーとシステムから読むチームの現状

ヴァンラーレ八戸はJ3第7節終了時点で2勝3分け2敗の6位につけています。直近5試合は2勝2分け1敗。開幕時に比べてチームができ上がってきたことが分かります。

開幕してすぐは思うような試合運びができない……。その原因として、青森は練習設備が十分ではないため、冬季に全体練習できる時間が短いことが挙げられます。沖縄のような南国でキャンプを張っても、青森に戻ってきたら練習場は雪に埋もれているため、練習は制限されます。そうした環境の問題が一番大きいと思われます。

しかしJ2へ昇格したヴラウブリッツ秋田や、今季J3首位のいわて盛岡グルージャは同じ東北地方のクラブであっても、スタートダッシュに成功しています。八戸や青森、弘前のクラブは、こうした成功例を見習い、どんな対策をしているのかを取り入れるべきでしょう。

八戸の場合、スタートダッシュできない原因がもう1つあります。これは八戸規模のクラブが抱える共通した問題ですが、選手の入れ替えが激しいことです。活躍して注目を浴びると、すぐに上のクラブから声が掛かる。選手はプロフェッショナルですから、選択肢として条件と環境がいいクラブを優先します。そうなるとスターティングメンバーの大幅な変更を余儀なくされるため、一からチームを作り直すことになります。

以下のシステム図は、2020シーズン開幕戦のメンバーとフォーメーションです。スタメンの7人は昨季限りで引退したか移籍しています。今季チームに残っているのは、わずか4人。フォーメーションは「4-3-3」。4バックの3トップという攻撃的なシステムでした。

 

以下の図は、2021シーズンのスタメンとフォーメーションを示したシステム図です。フォーメーションは「3-5-2」。スタメンを見れば、5人が新加入選手で、センターハーフ(CH)の坪井 一真(近畿大卒)と左ストッパーの小林 大智(桃山学院大卒)はルーキーです。これが八戸のスタートダッシュを難しくしている原因になっています

一方、残りの6人は契約延長した選手です。過半数の6人もいれば昨季の戦い方を継承できると思われるかもしれませんが、サッカーはチームスポーツ。11人が同じ方向を見てピッチに立たないと、なかなか勝利を手にすることはできないのです。

このシステム図は、5月2日に行われたJ3第7節・ガイナーレ鳥取戦のスタメンとフォーメーションです。試合は2-0で勝利を収めました。見ていて「ああ、そうなんだ」と感じたことがあります。このチームは、Mr.ヴァンラーレ八戸と呼ばれる新井山 祥智から、中村 太一を柱にしたチームになりつつあります。今季の中村は、とても安定したパフォーマンスを発揮しています。特にペナルティエリア内での仕事が増えています。中村のプレースタイルを活かすためにも、トップ下のポジションは適任なのでしょう。

「負けない八戸」になってきた理由には、GKの安定感が挙げられます。GKの蔦 颯は、ザスパクサツ群馬から移籍してきました。彼の特長はキックにあります。遠くにボールを蹴れて、コースも正確。向かい風の時に低い弾道でフィードするボールは、風の抵抗を極力抑えて遠くに飛ばしていました。またビルドアップの際にGKとして起点となり、センターバック(CB)を助けていました。蔦の先発起用は、チームにとって大きかったと思われます。

この試合では左ストッパーに近石 哲平、中央に赤松 秀哉が起用されました。赤松は、葛野 昌弘監督がラインメール青森FCで指揮を執っていた時のメンバー、青森との契約が終了した後は、タイに渡ってサッカーを続けていました。赤松を中央に持ってきて、近石を左に置いたのは大正解でした。赤松はラインコントロールもしっかりしていて、ディフェンスラインを安定させていました。最終ラインを高くする時は高くして、引いて守る時はきちんと引く。やるべきことをきちんとこなしたプレーが、とてもいい印象をもたらします。

FW島田 拓海は奈良クラブからの加入です。昨季の安藤 翼をイメージした獲得なのでしょう。安藤とは少しタイプが違いますが、Jリーグ初得点のヘディングは、完璧にヒットしたゴールでした。もっと試合に慣れてくれば、相手DFの裏に抜けるプレーなど、質の高いプレーを見せてくれそうです。

八戸の攻撃力をアップさせるやり方として、エースストライカーの上形 洋介にボールが収まるのかどうかにあります。ここまでの7試合を見ると、なかなか上形にボールが収まりません。上形への相手チームのプレッシャーも昨季よりは激しくなってきています。だからこそ、上形自身ももう1つレベルを上げるために、プレッシャーを跳ねのけなければなりません。きちんと自分の足下にボールが来なくても、工夫をしてボールを収める必要がある。上形がボールを収められたら、もっと展開力が増えてチャンスが作れます。

システムは「3-5-2」で中村をトップ下に置く。スタメンは、鳥取戦で使われた選手を軸にしてもいいと思います。葛野サッカーは、ここから強くなっていくのです。

川本梅花

 

 

 

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