川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】#堀江哲弘 練習場所の「拠点」と共同体の「拠点」【無料記事】#ラインメール青森 アカデミーダイレクターの仕事

【インタビュー】練習場所の「拠点」と共同体の「拠点」

目次
崩壊寸前だったアカデミー組織
アカデミーダイレクターの仕事とU-18組織の立ち上げ
必要な2つの「拠点」


ラインメール青森FCのアカデミーを統括している堀江哲弘アカデミーダイレクターに、その仕事内容とアカデミーの現状を聞いた。青森山田高等学校の活躍により、青森をサッカー県だと思われている方も少なくない。しかし堀江アカデミーダイレクターの話からも分かるように、あくまでも青森山田は例外的な存在だ。

崩壊寸前だったアカデミー組織

――堀江くんが就任したのは3年前だね。前アカデミーダイレクターは名ばかりで、組織は崩壊寸前だったと認識しています。最初の説明会は相当に揉めたよね。

堀江 初日の説明会のことですね。説明会は、保護者の方々からのクレームで始まりました。前任者とクラブに対してのクレームですね。

――最初に着手した仕事はなんだったの?

堀江 まずは保護者の方々と選手たちとコーチングスタッフたち、この三者で約束事を決めました。「規約」「ルール作り」「組織としては倫理規定」。これら提示した約束事はちゃんと守りましょうと説得しました。細かいことから話して納得してもらいました。

――具体的には?

堀江 例えば「試合中に審判に文句を言うのはやめましょう」からですね。また、ある保護者は、ほかの保護者の前で、公然と自分のチームの監督を批判していました。そういう無秩序な状態はクラブ全体にとって損失、マイナスになるだけです。保護者には「もし批判があったら、話し合いで解決しましょう」と伝えました。「機会を作って、いくらでも話し合います」と説得することから始めました。

――日本におけるキャリアの助けになればと思い、堀江くんをクラブに推薦したのは自分なのですが、フロントからも「いい人を紹介してくれてありがとうございます」と言われました。

堀江 川本さんからも話を聞いていたので、ある程度は想像していたのですが、あそこまで未開の地だとは思っていませんでした。

――堀江くんが就任してから、アカデミーはどうなっているの?

堀江 ジュニアユースに関しては、人数が増えています。参加者は去年の倍になっています。ユースは、僕が就任する前にいったん減ったのですが、徐々に回復してきています。スクールを作ったことで、思った以上に子供たちが参加してくれました。ただスクールにコーチを回さないとならないため、現状で手いっぱいです。

アカデミーダイレクターの仕事とU-18組織の立ち上げ

――アカデミーダイレクターの仕事内容を教えてくれますか?

堀江 育成組織全体を見ることです。僕個人は、小学4年生以下のチームの監督も兼務しています。それぞれの監督が気持ちよく仕事をしてもらうため、あるいはチームが円滑に回るための下地を作ります。チームの練習がうまく行くように、さまざまな角度からサポートしていくことが僕の仕事です。

具体的には、コーチングに対しては、チームに問題が何かあった時にアドバイスをする。大会があった時に、コーチと選手全体を見る総監督です。昨年はサッカースクールを立ち上げたり、ユースの準備をしたりで、そちらに注力しました。

――U-18を立ち上げると言っていたけど、進捗は?

堀江 組織を立ち上げたばかりなので、まだ知名度がないです。登録人数ギリギリの状態ですね。高体連(全国高等学校体育連盟)のお世話になるため、現役の高校生はスカウトしにくい。中学3年生に関しても、「プロになりたい」「高校でもサッカーを続けたい」場合の選択肢は、高校サッカーになっています。青森県のサッカー少年に「クラブチームのユースに所属する」という選択肢がない。そもそも、いままでなかった概念ですから。スポーツ文化に関する理解度は、まだまだ低い。

――U-18の監督は堀江くんが務めるの?

堀江 はい、僕がやります。県3部からのスタートです。今年5月くらいから本格的に始動します。

――それは楽しみだ。ユース組織をもっと大きくしていきたいね。

堀江 若くて才能がある選手に的確な指導をして、そして試合に勝っていく。そこがアカデミーとしては一番大事だと思います。クラブとしても一番大事なことです。

必要な2つの「拠点」

――いま何が必要?

堀江 ラインメール青森FCというクラブは、まだ地域に根差してないと思っています。逆説的ですが、まだまだ根差せる可能性がたくさんあるとも言えます。そこで現在チームに必要なものは2つの「拠点」です。これはスタッフ全員の意見が一致しています。

――「拠点」とは、具体的に何を指しているのか、教えてください。

堀江 まず練習する場所という意味での「拠点」です。いまは市の建物の使用権を抽選で取っていて、場所を確保した後にスケジュールが確定します。体育館を使用したい場合は、ほかのスポーツ競技とも競合になります。抽選で外れると、練習場の変更が起きてしまう。練習場所が変更になれば、保護者による子供の送迎にも影響が出てくる。保護者の方も働いていますから、こうした変更は大きな負担です。実際に「送迎ができないのでサッカーを辞めます」というケースがありました。これは大きな課題です。

地方ということで土地はいっぱいあると思うのですが、まだまだスポーツをする文化が根付いていないため、グラウンドの数も少なく、練習場の確保が難しい。これが現実です。

――もう1つの「拠点」とは?

堀江 人を集める共同体という意味での「拠点」がないことです。子供たちは青森市内のいろいろな場所から集まってくるのですが、年に何人かは「ラインメールじゃなくてもいいや」と言って辞めていく。簡単に言えば「競合に負けた」ということですね。「伝統」とか「強さ」で選ばれることが理想ですが、ラインメールは「強さ」においても「歴史」においても、ほかのチームより劣っている。一歩一歩地道に積み上げていくしかないんですが、最終的に「どうしてもラインメールでサッカーがしたい」と思ってもらえるような拠り所「拠点」が必要です。
練習する場所という意味での「拠点」と、人を集める上での「拠点」。つまり「共同体としてサッカーをする場所」が必要となっています。その基盤作りのためにも、小学校にスクールを作ってもらい、活動をさせてもらっています。

――授業が終わってから校庭でスクールをやっているの?

堀江 保護者に送迎の負担を掛けず、子供たちはクラスの友達とサッカーをする感覚で参加できる。小学校での部活動がなくなって、部活の受け皿としてやらせてもらっています。

――どこの小学校?

堀江 青森市立筒井南小学校です。授業が終わってから週2回スクールをする。学校でやっているので、ほかのクラブに移動するという生徒が出ないし、グラウンドが安定して使えるし、保護者も送迎の心配がない。

いまは、ほとんどの街クラブが、学校とタックを組み、そのクラブのジュニアユースを受け皿にしています。ラインメールでは、学校でのスクールに100パーセントの力を注ぎ、「スクールでサッカーをやりたい」と子供たちに思われるように努めたい。次の段階としてジュニアのカテゴリーがその子供たちの受け皿となることが理想です。一歩一歩、信頼を得て、「ラインメールでサッカーをやりたい」という子供たちを増やしていきたいですね。

川本梅花

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