川本梅花 フットボールタクティクス

【レビュー】「葛野サッカー」の真骨頂で勝利【無料記事】J3第29節 #ガイナーレ鳥取 1-2 #ヴァンラーレ八戸

【レビュー】「葛野サッカー」の真骨頂で鳥取を撃破した八戸

【目次】
「葛野サッカー」の真骨頂で鳥取を撃破した八戸
FWとDFの距離がコンパクトに
先制点を生んだ安藤翼のポジショニング
対象試合:2020明治安田生命J3リーグ第29節 ガイナーレ鳥取 1-2 ヴァンラーレ八戸

「葛野サッカー」の真骨頂で鳥取を撃破した八戸

試合がスタートして八戸の「戦術」を見て、「そうきたのか」と唸りました。「これぞ葛野サッカーだな」とすぐに感じて、やっと正常値に戻ったのかとの思いです。私はJFL(日本フットボールリーグ)に所属するラインメール青森FC監督時代から葛野昌宏のサッカーを見てきたので、彼がどんな意図を持ってゲームを進めたいかを理解しているとの自負があります。

DAZNのアナウンサーが「八戸は前半を0点で終えて、後半15分に勝負したい」と、中口雅史監督のメッセージを伝えていましたが、おそらく葛野コーチは「前半から主導権を握ってゲームを進めたい」という認識だったと思います。アナウンサーが伝える監督のメッセージだと「前半は0-0で終え、後半の残り15分間で勝負する」ように聞こえます。しかし葛野サッカーは最初から引いて守るものではなく、サイドから相手を崩すことを目的にしています。

鳥取戦における八戸は、高い完成度を見せました。八戸がボールを持って攻撃する際、鳥取陣内に入ると、40~45メートルの距離を保ったまま、前線のFWと最終ラインのDFの四角形が移行します。FWがペナルティエリアに入ると、ディフェンスラインはハーフウェーラインを越えます。須藤貴郁がもっと進んできてパスを出したり、黒石貴哉がバイタルエリアに顔を出したりと、DFもチャンスメイカーになろうとプレーします。そのため「すごく楽しいサッカーを見せてもらった」という感想を持ちました。

FWとDFの距離がコンパクトに

まず、以下の図を見てください。

守備の限定はFWが行うものです。FWがどこまでボールを追うのかによって、ディフェンスラインが決まります。なぜなら、FWの前線でのプレスに従って、中盤の選手がプレスに行く、さらにDFがラインを上げるからです。DFがラインを上げる条件として、相手がボールを下げた時が挙げられます。FWが前線でボールを追い込むので、ボールが下げられて味方のDFがラインを上げる構造になっています。

相手DFがGKまでボールを下げたなら、FWがGKへプレスに行く。そのFWに追順して後ろの選手も前進する。そうしないと、FWとMF、さらにはDFとの距離が広がってしまいます。味方選手間の距離が広がることは、相手選手との距離が広がることを意味します。結果、プレスは掛かりにくくなり、相手は前を向いてボールを持てるようになります。この危険な状況を防ぐため、試合前に選手間で約束事を作るのですが、この約束事を守れないとピンチを招くことになります。

八戸は鳥取戦で、FWの限定ライン(FWがボールを持った相手DFをどこまで追うのか)とDFの最終ラインの距離を決め、その決められた距離の間でプレーするような戦術を採りました。八戸FWは、鳥取DFがボールを持ってビルドアップする際、ハーフウェーラインを少し越えたところまでしか追いません。無理にはボールを追いかけない。ただし鳥取DFがハーフウェーラインを越えると規制を掛けます。

FWの動きに追順して、MFもボールがFWを超えてきたらプレスに行きます。最終ラインのDFは、安易に下がりません。3バック中央の須藤がラインをコントロールしていました。須藤はタッチライン近くでボールを相手から奪った時、無理にパスをつなげようとせず、ボールを切ってリスタートを選択。また前線にボールを蹴り出す時は、柔らかいボールを味方に蹴るようにしていました。こうした細かい配慮が、ゲームを組み立てる1つの要因になります。

八戸の3バックは、左ストッパーに深井脩平、中央に須藤、右ストッパーに黒石を起用します。黒石がDFに回ったことには驚きました。しかし、今回の組み合わせが今季最も安定しているとの印象を持ちました。鳥取の左サイドの選手に須藤がプレスに行った時に、深井がすぐに須藤のカバーリングに入っていました。右の黒石もディフェンスラインに入って左にポジションを寄せていて、きちんとラインを作っていました。

以前のコラムでも書きましたが、黒石は本当に器用な選手ですね。前半32分くらいのプレーですが、ボールをインターセプトして中央からドリブルで駆け上がります。バイタルエリアまで進んで味方にパスを出すのですが、そのままドリブルしてペナルティエリア内に入って勝負しても良かった。本職のDFならば、あそこまでドリブルせず、早めに味方へパスを出していたでしょう。しかし黒石は、前に遮る選手がいないため、ドリブルで前進する選択をしました。ああいうプレーには、期待感を持てます。DFは通常、自分の前が空いていてもリスクを考慮するため、あの選択は良かったと思います。

先制点を生んだ安藤翼のポジショニング

安藤翼の先制点は、安藤のポジショニングのうまさから生まれました。中村太一からのスルーパスが出される前から、安藤は鳥取DFと駆け引きをしています。相手の間にポジショニングしたり、最終ラインから外れて少し前に出たりして、相手がラインを上げる機会をうかがいます。オフサイドにならないように、注意を払って動きを入れます。中村からパスが来た時、安藤は相手DFから遠い位置にトラップして、素早く足を振り切ります。

須藤の追加点は、安藤のFKから生まれました。葛野コーチは安藤を連続して起用しているので、このまま使い続けてほしいですね。鳥取戦で今季6点目。残り5試合でどれだけ得点を量産できるのか、楽しみですね。やっと安心した葛野サッカーが見られた鳥取戦でした。

川本梅花

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