川本梅花 フットボールタクティクス

【レビュー】実質的な指揮官は葛野昌宏コーチか?【無料記事】J3第20節 #アスルクラロ沼津 1-0 #ヴァンラーレ八戸

【レビュー】実質的な指揮官は葛野昌宏コーチか?

【目次】
実質的な指揮官は葛野昌宏コーチか?
八戸は「ハイプレス」でも「ハイライン」でもない
低迷の波に飲み込まれないでほしい

対象試合:2020明治安田生命J3リーグ第20節 アスルクラロ沼津 1-0 ヴァンラーレ八戸

実質的な指揮官は葛野昌宏か?

最終ラインを3バックでスタートする八戸を見て、「もしかして」とすぐに勘ぐったことがあった。「実質的な指揮官は葛野昌宏コーチなのか?」。試合が進むにつれて、確信を持つようになる。実際に選手にも葛野コーチにも話を聞いていないのだが、選手起用からチーム戦術までの主導権を任されているのは、中口雅史監督から葛野コーチに変わったのだろうと推測する。

特に、最終ラインに入る河津良一を、中盤のセンターハーフ(CH)で起用したことが挙げられる。中口監督は、ほとんど河津を使わなかった。サブメンバーにも入れなかった。ケガでもしているのか、コンディションが悪いのか、と心配していたのだが、沼津戦の河津のプレーを見て、構想外だったことが分かった。この試合で、粘り強く中盤を締めていたのは、河津のプレーが大きい。ビルドアップの起点になって、DFたちをフォローしていた。河津がDFの前にいなかったら、前半で得点を入れられていた確率は高い。

昨季まで在籍していた小牧成亘(現ガイナーレ鳥取)が、最初は右サイドハーフ(SH)で使われていたのだが、4バックから3バックにシステムを変更する際に、右のウイングバック(WB)にチェンジした。これは、東純一郎コーチの提案だった。もしかしたら、河津のCH起用も監督ではないスタッフの案だったのかもしれない。

さらに、3バックにしたことで、右WBに入った國分将のプレーが見違えるように良くなった。今季はシステムの関係でSBを任されていたので、SBのクセというか、自分の前がフリーな状態でもドリブルで駆け上がることを躊躇するシーンがあった。もっとドリブルでイエローゾーン目掛けて駆け上がってもいい。國分がボールを持った時の後ろ姿が僕は好きで、次への可能性を感じさせるのだ。

チームの戦術やシステム、さらにはそれに見合った選手選考。これは、誰が監督であっても、次の鉄則を逸脱したら成り立たない。それは、選手の質によってチーム戦術やシステムは決められるということだ。「自分がやりたいサッカー」と「実際にできるサッカー」は違う。「テーマとして掲げたサッカー」と「在籍する選手ができるサッカー」は別なのだ。八戸の選手の質に合ったサッカーをやらない限り、八戸が浮上する術はない。これは、あらゆるチームに言える普遍的な事実であるのだが。

八戸は「ハイプレス」でも「ハイライン」でもない

沼津戦の実況者は違ったが、八戸戦を実況する人は、よく「ハイプレスとハイラインゆえに失点の数が多い」と言う。J3は解説者がいなくアナウンサーの力が試される場所である。はっきり言って、八戸は「ハイプレス」ではない。そして、最終ラインは高い方だが、「ハイライン」でもない。ハイラインとは、最終ラインのDFがセンターラインを超えていくことを「ハイライン」というのである。また、失点が多いのは、ラインを高く設定しているわりに、ハイプレスを仕掛けないので、相手が前を向いてボールを持てるから、スペースを見つけてパスが出せる。そうした前線からのプレスの甘さが、失点に結びついている。

アナウンサーが「ハイプレスの八戸」と言えば言うほど、実際にピッチで起こっている事実と違う事柄が作られる。DAZNで試合観戦しているサポーターをミスリードしていることに心配が及ぶ。

八戸は、そうしたプレスの甘さを、沼津戦でも引きずってしまう。

低迷の波に飲み込まれないでほしい

八戸の失点シーンでは、近石哲平が踵(かかと)を踏まれて倒されたものの、主審はファウルを取らなかった。今季からファウルに関する解釈が変わり、流す傾向があったのだが、近石も周りの選手もファウルを取るだろうと思い込んでプレーを止めてしまう。主審の顔をうかがっている隙に、沼津はすぐに攻撃に転じる。残念な失点だったが、八戸の守備において一番の問題は、個々の選手によるプレスの甘さにある。さらに、GKに不安材料があることだ。引退した山田賢二コーチを凌ぐGKがなかなか見つからない。見つからないゆえに、チームに安定感を植えつけられない。GK陣にとっては、レギュラーを掴む最大のチャンスが訪れている。誰が頭ひとつ抜け出すのか。奮起を促したい。特に、花田力には期待している。これまでの失点は、アンラッキーな場面もあったのだから、気持ちを切り替えてチャレンジしてほしい。

また、なかなか安定した守備を見せられなかった中谷喜代志が、この日は、身体を張ってピンチを防いでいる。彼は、3バックの右ストッパーで起用された。中谷はスピードがあって、対人に強いのだから、このポジションが彼のベストなポジションだろう。中谷のこのポジションでの起用もコーチ陣の案のように思われる。

攻撃に関しては、「4-3-3」のシステム弊害がここでも出ている。ボールが来ないと前線の選手が下がってボールをもらいにきてしまう。そうすると、攻撃陣の数が減ってしまう。前線に残っているFWが孤立してしまう。こうした悪循環を打破するために、早めにクロスを入れるなどアーリークロスをもっと多用しても良かった。また、中村太一に関しては、ゲーム終了前に胸でのトラップがうまく行かず、体勢が崩れてしまった。J3第17節・藤枝MYFC戦[2●3]でもフリーでシュートミスをしたことがあったが、ああいう場面で決められる選手になれれば、もっと上のステージに行けるポテンシャルはある。

今回は、選手個人に関しての発言が多かった。僕は、青森県出身のサッカーライターとして、青森のサッカーチームの活躍を楽しみにしているし、J2リーグに駆け上がるチームの出現をずっと願ってきた。だから、八戸には、このまま低迷の波に飲み込まれないでほしいのだ。

川本梅花

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