川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】今季のヴァンラーレ八戸の戦い方について思うこと【無料記事】過去のストーリーを塗り替えさせるための起用

【コラム】今季のヴァンラーレ八戸の戦い方について思うこと

過去のストーリーを塗り替えさせるための起用

ある小説の翻訳本を読んでいたら、「過去」の言葉のルビに「ストーリー」とふってあった。英語の「過去」は「パースト(past)」であって、「ストーリー(story)」は「物語」である。しかし、小説のプロットに従えば、「過去」に「ストーリー」のルビをつけるのは間違いではない。「過去」に「ストーリー」という意味内容を付加することによって、小説の物語の主人公の行動が際立ってくる。

そこで僕は、「あっ、そうか」と悟った。ヴァンラーレ八戸の中口雅史監督の今季の選手起用が読めたような気がした。断っておくが、これは僕個人の憶測なので、本当のところはわからない。もし、監督本人に質問したとしても、本当のことを話されるとも限らない。だから、この場所だけの話になるのだ。では、僕が「あっ、そうか」と思った内容を話していこう。

中口監督の選手起用だが、最初はトレーニングでコンディションがいい選手や好調な選手を優先して起用しているのかと思われた。実際に、そうした側面があったのだろう。しかし、試合を重ねるにしたがって、そうした側面よりも、監督個人のストーリーによって選手起用を決めているのではないのかと感じるようになった。監督のストーリーとは、先に述べた「過去」=「ストーリー」という構造である。つまり、過去にこうしたプレーをしたストーリがあり、その過去を新しいストーリーで塗り替えることを期待しての起用ではないのか、ということだ。

最初に僕が不思議に感じたのは、ユース出身の石ヶ森荘真をYS横浜戦(7/15)でスタメンで起用した時だった。外部の人間からすれば、期待の若手を「突然」に起用したように見える。しかし、中口監督の頭の中では、「ここで石ヶ森を起用しよう」とあらかじめ決めていたのではないのか。そして、この試合ではまったく消極的な動きしかできなかった石ヶ森を、沼津戦(7/25)で再び先発起用する。初スタメンの時よりは硬さも取れて、動きもよかった。試合は0-1で敗れるのだが、次節へ期待も抱かせるプレーだった。しかしその後、先発起用はなく、怪我でリハビリ生活を過ごすことになった。

石ヶ森をスタメン起用した後に、そのあとの試合にも起用する。もしかしたら、こうしたストーリーをはじめから考えての起用だったとしたら、目まぐるしく変わるスタメンの理由も頷ける。例えば、その試合で得点を上げれば次の試合に起用する。これはごく普通のことだが、これには選手起用の、ある循環法則があるようだ。

試合で得点を決める→次の試合にスタメンで起用する→この試合で得点を決められず→次の試合にはスタメンを外してサブでの起用

フォワード陣の起用に関しては、この循環法則がぴったりと当てはまる。こうした起用法もありだが、起用される選手に取っては、どうなのだろうと疑問符がついてしまう。1試合得点を取れなかったらサブにされて、得点を取ったらスタメン起用される。わかりやすいと言えばそうなのだが、選手のコンディション調整やメンタル面を考えたら、選手に取ってはやりにくいように感じているのではないのか。

また、中谷喜代志の起用に関しても次のように考えてしまう。岐阜戦(9/17)でスタメン起用した時、レッドカードで退場になってしまう。そのあとに、讃岐戦(9/27)で再び先発起用する。これは、過去のストーリーを新たに塗り替えさせるための起用だったと想像させる。結果は、2-4での完敗だった。ミスをした選手にもう1度チャンスを与えることは、ある意味では正しいやり方だと思う。しかし問題は、退場になった試合のプレーを見れば、讃岐戦での起用は正しかったのかということだ。ベンチにはスタメン起用させても不思議ではない選手が控えていた。それでも、中谷を起用したのは、やはり監督の頭の中にあるストーリーによる起用なのではないのか、と疑ってしまう。

さらに、システムに関しても、「4-3-3」を押し通している意味がまったくわからない。メディアによって「4-1-2-3」と表記される4バックの中盤が逆三角形で3トップの布陣。このシステムで最も影響を受けているのは、右サイドバックの國分将のプレーである。彼のドリブルからの縦への突破力がまったく活かされていない。したがって、攻撃力が半減されてしまう状態になっている。思いきって3バックにして、ウイングバックで國分を起用すれば面白い展開が生まれるのだが。中谷が退場した試合で、1度3バックにしたことがあって、まずまず機能していたから、それを持続してもいいのではないのか。大石前監督の際は、スタート時に4バックでシステムを組んでいたが、うまくいかずに3バックにしてからチーム力をアップさせていた。

ここまで書いたことが、僕の邪推とか妄想とかであって欲しいのだが。

川本梅花

 

 

 

 

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