川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】 #堀江哲弘 「子供には“理解”だけでなく“同意”もしてもらう」#ラインメール青森【無料記事】

【渦中の話】堀江哲弘「子供には“理解”だけでなく“同意”もしてもらう」

ラインメール青森FC(@reinmeer_aomori)のアカデミーを統括している堀江哲弘アカデミーダイレクター(@tetsuhorie)にクラブのアカデミー組織の現状を聞いた。

【堀江哲弘 略歴】宮城県仙台市出身。中央大学卒。ラインメール青森FCアカデミーダイレクター。スペインサッカー連盟の監督資格レベル3(日本のS級相当)を保持している。

――まず青森における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響について教えてください。やはり、活動は休止に?

堀江 活動休止中です。5月11日から活動再開の目処が見えてきましたが、未確定ですね。

――青森での生活や労働環境には慣れた?

堀江 はい、慣れました。

――昨年、アカデミーダイレクターに就任しましたが、どんなことから取り組んだの?

堀江 組織自体が発展途上な状態でした。ですから組織の規約だったり、スタッフとの細いルール作りだったり、環境を整えるところから始まりました。

――アカデミーダイレクターとして現在している仕事は?

堀江 アカデミーダイレクターは育成全体の統括者、育成の指導者を指導する立場にあります。育成組織を管轄しながら、私自身もU-10の監督をしています。

――1週間のスケジュールを教えてください。今季は新型コロナウイルスの影響であまり活動できていないと思うので、昨季の情報で構いません。

堀江 原則、火曜日がオフです。それ以外の曜日は、午前中は事務作業や今後のプロジェクトを組みます。午後からは練習に参加。火曜日以外は、ずっと活動しています。空いた時間には、トップチームの練習を手伝うこともあります。

――現状に満足していますか?

堀江 満足しています。コーチングスタッフの志は高く、一生懸命に取り組んでます。だから、すごく助かっています。彼らには、いろいろな面で救われています。

――スタッフの人数は?

堀江 現場に関わるスタッフは4名です。

――育成の組織について教えてください。

堀江 幼稚園児向けのキッズスクール、小学生のジュニア、中学生のジュニアユース、基本的にこの3つの組織で構成されています。年代で振り分けると、U-10、U-13、U-15というグループになります。

――それぞれのカテゴリーのトレーニングメニューは誰が決めているの?

堀江 私は「それぞれのカテゴリーの監督は、そのチームの最終責任者であるべきだ」と考えています。ですから、そのカテゴリーの監督に練習メニューは考えてもらっています。監督が「うまく行かない」と思っていることに、私がアドバイスをする。「うまく行ってない」とか「練習で選手のモチベーションは上がらない」とか……。そうした時に「これは、こうなんじゃないの」「ここが原因なんじゃないの」とアドバイスをします。

――堀江くんが、なぜU-10の監督をやっているの?U-15の方が適任なんじゃないの?

堀江 私が就任した時点で、それぞれのカテゴリーの監督と選手の信頼関係ができていたので、あえてそこを壊す必要はないと考えたからです。ですから彼らには継続してもらいました。まあ自分自身、保護者の皆さんに何も信頼を得ていない状態での就任でしたから、まずは一番下のカテゴリーであるU-10から始めて、私の取り組み方を見てもらって、信頼を得ていこうと考えました。

――U-10の監督として、子供たちにどのような練習をさせていますか?

堀江 2月からスタートするのですが、まずボールを運ぶところから始めます。最初は、ボールをただ蹴っちゃうとか、ボールを運べるけれどもドリブルの方向を変えられない子とかがいます。そうしたやり方を徹底して改善して、4月になってから、自分だけではなく周りを使って状況を解決していくやり方に、少しずつならしていきます。1対1から2対1へ。2対1から2対2へ。そして2対2から3対2へと順序よく変えていきながら、解決するやり方を身につけさせます。

――子供たちにトレーニングで伝えていることは?

堀江 戦術的な部分よりも、サッカーに対する取り組み方について伝えています。取り組み方に関しては、足りない部分があったため、そこを作ることが大変でした。でも、子供たちも成長してくれました。彼らの成長に合わせ、技術的な部分や戦術的な部分も上がったことは間違いないです。だから、私はその部分に関しては満足しています。

――戦術的な部分とは、どんなこと指しているの?

堀江 戦術を教える際には、攻撃と守備に分かれるのですが、守備に関しては、まずマークのポジショニングやチャレンジ&カバーの考え方ですね。1人がボールに行ったら、もう1人はスペースをカバーするという考え方。攻撃でいえば、2対1の状況であれば、ボールを持っている選手は、ドリブルとパスのどっちを選択するのかの判断。ボールを持っていない選手であれば、どうポジショニングするのが最適なのかを考えさせます。最初は「ボールを前に運んでゴールを決めたい」という子がほとんどでしたからね。

――子供とのコミュニケーションは難しくない?

堀江 こちらの意図を伝えることに難しさを感じています。U-10のカテゴリーにいる子供は、サッカー用語を全く知らないですから。同じ年代のスペインの子供であれば「コントロール・オリエンタード(Control Orientado)」《注》と言えば、「ああ、コントロール・オリエンタードね」と理解してくれます。そういう専門用語をどう噛み砕いて説明するのかで悩みました。日本では、それを「ファーストタッチ・コントロール」と言いますが、その用語も説明しないとならない。あと「スペース」という概念もない。

《注》「コントロール・オリエンタード」とは、スペイン語で「方向付けをしたボールコントロール」の意味。トラップと聞くと「止める」というイメージがあります。しかし実戦では、立ち止まってボールを受ける場面はほとんどない。次のプレーをしやすくするためには、視野を確保するための身体の向き、自分がプレーしたい場所へと方向付けしたコントロールが必要となります。味方からパスを受ける際に、ボールに対して正面を向いた状態では、視野が狭くなってしまう。そのため、ボールに対して半身で受け、ファーストタッチを足元に止めるのではなく、次のプレーを考えて、身体とボールを方向付けすることが重要となります。

子供たちには「理解」してもらうだけではなく、「同意」してもらうことも重要です。頭で分かっていても、納得しない子もいますから。繰り返し繰り返しですね。「コントロール・オリエンタード」を理解してもらうためには、それが必要な場面を作り、そこでうまく行かなかったら「じゃあ、どうしたらいい」となる。そうした繰り返しにより、子供たちは「理解」と「同意」をするのです。

――「スペース」の概念は、どのように指導していますか?

堀江 1人でドリブル突破をする子供には、何人もの選手に囲まれ、ゴールを決められなくなる瞬間を作ります。その時、どうやって対処するすればいいのかを教える。例えば3年生が4人フィールドにいたとします。その中に9人くらい1、2年生をゲームに入れる。そうすると1、2年生は一気にボールに寄ってきます。下級生2~3人が相手であれば囲まれても抜けるのですが、さすがに9人に囲まれると、壁みたいになって相手をドリブルで抜くことができない。その時、ほかの子供たちから「俺にボールを回せよ」と声が自然に出てくる。そうして周りを使うことを覚えていく。

――スペインでの指導経験は生かされている?

堀江 スペインの子は頑固なので「これが正解だ」と言えば、「いや俺は正解だと思わない」と言い返してきます。でも、うちのクラブにそういう子供はいません。だから接し方も違ってきます。

――育成組織としてのリーグ戦やカップ戦での成績は?

堀江 昨季のU-10について話しますと、4月にカップ戦があり、強豪の青森FCと当たって、0-15で負けました。言い訳になってしまいますが、当時は就任して間もなかったですし、相手チームは4年生中心で、うちは2、3年生が試合に出ていました。中心選手だった3年生の子供たちが「試合に出たくない」と言い出して……。「負けるから試合に出たくない」という子供が続出しました。スターティングメンバーを発表した直後に「俺、出ないから」と言ってくる。相手の青森FCは県内で強いクラブですから、「負けるのが嫌だから逃げる」という感覚ですね。無理やり試合に出しても、ただ立っているだけですから。前半で0-10になって、出場を拒否したチームの中心選手に「君がいなかったら、こんなことになるんだよ」と言ったら「じゃあ、出ます」と。それも経験ですよね。「自分がいないとチームはこうなる」という。

――いま、その子供はどうなの?

堀江 いまは変わりました。上の年代の子供と試合で当たることへのアレルギーはなくなりました。今年の5、6年生は少ないので、4年生が6年生との試合に出ることは確実ですが、6年生の中に入れても、闘志をむき出しにしてプレーするようになりました。1つひとつ、目の前のことを越えさせたい。技術的なこと、戦術的なこと、メンタル的なこと、判断に関して1つずつ超えさせていきたいです。

――ラインメール青森FCからのオファーを受けて良かったことは?

堀江 発展途上にあるチームなので、クラブの歴史を作れることですね。昨季の話であれば、U-15のチームがフットサルの全国大会に初めて出場しました。また、U-12のチームも青森県大会で初めてベスト8に進出しました。自分が見ていたU-9のチームも雑誌『AOMORI GOAL』(@aomorigoal)が主催するカップ戦に出場しましたが、初めて県大会の本戦に出場しました。日々、アカデミーの歴史を作っていて、やりがいを感じています。モチベーションが高まりますよね。それとアカデミーの地盤、スクールをしっかり作っていきたいです。青森では小学校のサッカー部がなくなります。スポーツの部活自体がなくなる。そうすると子供たちはサッカーを辞めて、違うスポーツを選択する可能性が出てきます。サッカーに興味がある子供たちが減ってしまう可能性がある。そうした状況の中で、ラインメールが、子供たちへのサッカー普及に少しでも協力できればと考えています。

川本梅花

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ