川本梅花 フットボールタクティクス

【連載】トランジションの「戦術的空白」と「精神的空白」【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】

【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】

トランジションの「戦術的空白」と「精神的空白」

トランジション(transition)という用語を知っていますか?サッカーの戦術を解説する時に、よく耳にする言葉です。トランジションは、サッカーの専属用語ではありません。音楽の中では、「(一時的な)転調」を意味しますし、同じ球技スポーツのバスケットでも戦術的な意味合いで「トランジション」という言葉を使います。

トランジションそのものの意味は、「移り変わり」「変わり目」を指します。サッカーでは、バスケットと同じ意味合いで、「切り替えること」に値します。何について「切り替える」のかと言えば、「攻撃から守備」と「守備から攻撃」の切り替えのことなのです。

攻撃から守備への切り替えを「ネガティブ ・トランジション」と言います。

守備から攻撃への切り替えを「ポジティブ・トランジション」と言います。

以前は、「攻守の切り替え」「守攻の切り替え」と話していたことを、形容詞の「ネガティブ(negative)」と「ポジティブ(positive)」と、名詞の「トランジション」を組み合わせて専門用語にしたのです。

「トランジション」という言葉は、ある状況を的確に表現しています。「ある状況」とは、トランジションを日本語訳にした際にはっきりしてきます。「トランジション」の日本語訳は「移り変わり」や「変わり目」でした。この場合、「変わり目」が状況にぴったりときます。「変わり目」の意味は、「移り変わりの時」になります。重要なのは、「移り変わりの時」の「時」にあります。つまり「守備から攻撃へ移り変わった時」や「攻撃から守備へ移り変わった時」の「時」に状況が集約するのです。

「移り変わりの時」こそ、戦術的空白が生まれると考えます。ボールを相手から奪われた時、あるいはボールを相手から奪った時、その時の一瞬こそが「トランジション」であるのです。トランジションには、2つの空白があると筆者は考えています。それは「戦術的空白」と「精神的空白」です。「戦術的空白」とは、ボールを相手に奪われた瞬間にどのように動くのかは個人の判断に関わっているので、「戦術」ではなく「状況判断」に当たります。また、「精神的空白」とは、相手にボールを奪われた際に、「奪われた」という感情が先に立って、「奪われたらどう動くのか」という状況判断が遅れてしまうことを指します。これは、ネガティブ・トランジションに関係することになります。

バスケットを見ていれば、サッカーよりも分かりやすいかもしれません。相手にゴールを決められたことで、一瞬だけ意気消沈して動きが遅くなる場面があったり、逆にゴールを決めたことでホッとしたりする場面があったります。その時に、コーチが「急いでトランジションしろ!」という大きな声を発します。

つまり、攻守や守攻の切り替えを早めて次の局面に備えることを示しているのです。

次に、サッカーにおいて、カウンターを志向するチームが、ポジティブ・トランジションの時のオーガナイズに視点を当てたいと思います。

川本梅花

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ