川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】#水戸ホーリーホック は昇格できるか?【無料記事】#ラインメール青森 アカデミーダイレクター堀江哲弘(@tetsuhorie)に話を聞く #mitohollyhock

水戸ホーリーホックはJ1に昇格できるのか?

堀江哲弘(ラインメール青森アカデミーダイレクター)が水戸を分析する
目次
敗れた試合を分析する意味と書けなくなった私個人の話
守備面を検証しよう
攻撃面と失点場面を検証しよう
J1昇格は可能なのか?

敗れた試合を分析する意味と書けなくなった私個人の話

勝った試合を分析するなら、そのチームの優れた点は簡単に指摘できる。それは当然で、試合に勝ったのだから、チームや選手の良い点を強調すれば良いからだ。「あの選手のここが素晴らしい」「監督の指導が素晴らしい」「クラブの方針に迷いがない」などの賛辞が述べられる。試合に敗れた場合でも「この試合を次につなげたい」「誰もが諦めていない」「チームの立て直しに期待したい」など、希望的な観測を述べることは可能だ。そして、そうした記事を求めているサポーターがいることも事実だ。逆に言えば、サポーターの心情として、チームや選手に対するネガティブな意見を好まない人もいるということだ。

実は水戸に限らず、クラブに関する記事を書く時、クラブや選手やサポーターと不協和音を生まないようにセーブして書いていた。“セーブして”というのは「真実とか事実だけが全て正しいということではない」といった立場を指す。そうして記事を書いていたら、自分自身「何をやっているんだ?」という心境になり、文章が全く書けなくなってしまった。さらに、これは私個人のことなのだが、身近な人の死や私自身の病気のことなどで、相当にへこんだ日常生活になってしまっていた。

このサイトの会員になってくださった方には更新頻度が乏しく、とても迷惑を掛けてしまい、本当に申し訳なく思う。この場を借りて「すみませんでした」と言わせてほしい。ここ数カ月、「私が文章を書く」意味はなんなのだろうかと真剣に考えた。誰のために文章を書けばいいのか。そうしたことを考えて考え抜いた。昨日、Twitter(ツイッター)に書いた以下の文がそのことを指している。

私が投げ掛けた言葉は、投げ掛けた瞬間、すでに私のものではない。誰かが私の言葉を拾って消費していく。そして次の誰かによってまた消費されていく。それでいいんだ。私は、飾りのない思った通りの内容を正直に書けばいい。それだけが私の生きる道なんだ。そうした結論にたどり着いた。

これはお願いなんだけど、もしそう思うなら、ぜひ、このサイトの会員になってほしい。なぜならばホームゲームだけではなくアウェイでの取材を含め、活動の場を広げたいと考えているので、多くの人に会員になって取材のための協力をしてほしい。

さて試合分析だか、水戸が敗れた試合、8月24日に行われた東京ヴェルディ戦を分析しようと思う。試合に敗れたには敗れたなりの理由がある。そこを解明することが、明日への戦いの糧になると考えるからだ。読者の皆さんは、チームが本当はどのレベルにあるのかを知りたいと思わないか。そうしたことを理論的に戦術的に知りたいと思う読者のために私は書く。

2019明治安田生命J2リーグ第29節
水戸ホーリーホック 1●2 東京ヴェルディ
https://www.jleague.jp/match/j2/2019/082409/live/

水戸のシステムは「4-4-2」のボックス型。東京Vは「4-3-3」の中盤が逆三角形の布陣を採用する。この試合の分析について、ラインメール青森のアカデミーダイレクターである堀江哲弘氏に協力をお願いした。そう考えたのには、現場での指導者の意見を取り入れることの重要性を考えたからだ。なぜなら水戸の順位は昇格のチャンスにあるのだが、実際にJ1リーグに昇格しても我慢できるだけの耐久性がチームにあるのかを明らかにしたかったからだ。正直に言って、昇格は難しいレベルにあると私は考えている。仮に昇格しても、どこまで耐えられるのか不安が尽きない。私に近い西村卓朗強化部長の存在や好意を持っている選手の存在があるので、J1に昇格できるだけで良いという思いはある。実際そうなれば、ものすごくうれしい。しかし、そうした思いとは別に、サッカーライターとして本当に考えていることを示さないとならないと思う。

両チームのシステムを組み合わせた図は以下の通り。

守備面を検証しよう

――忙しい中、時間を取ってくれてありがとう。青森での生活は慣れた?

堀江 だいぶ慣れましたよ。

――ラインメールでの仕事に関しては、この記事とは別に話を聞くので、まずは水戸対東京Vを見た感想を聞かせてほしい。あえて負けた試合を分析対象にしたのは、この試合に水戸の改善すべき点が凝縮されていると考えたからなんだよね。特に守備に関して、相手への寄せが甘いと思うんだ。もちろん全てではなく、90分の中の何分かなんだけど、その何分かに失点をしている。実は、同じ過ちが繰り返されている。選手が諦めて相手を追いかけるのをやめたり、自分の判断でプレーをやめたりする場面がある。それが水戸の本当の姿なんだよね。順位と勝ち星で隠されてはいるんだけど。そうした点を堀江くんには語ってほしいんだ。

堀江 確かに、前半開始早々からプレスが緩いですよね。ファーストディフェンダーがプレスに行っているように見えるのですが、プレスが機能していない。掛かっていない状態になっている。まず「プレスが掛かっている状態」とは、どんな状態なのか。その定義をすると「相手の視野が下に下がっていて、相手がルックアップできない状態」までにならないと、プレスが掛かっているとは言えない。その定義からすると、水戸のプレスはボールには近づいていますが、東京Vの選手は前を向いてボールを持っている状態にある。そうすればパスコースも見えているし、自由にやっている状態なんです。なんて言うか、こうした守備を、僕は「アリバイの守備」と呼んでいます。プレスには行っているものの、しっかりと機能していない。

――それが前半に2失点を喫した原因になっている。

堀江 後半は、東京Vの選手にも疲れが出てきて、集中力を欠いた場面が見られました。そうした状況に付け入るように、水戸はうまくカウンターを決め、ゲームを展開していましたけど、同点とか逆転するまでには至らなかった試合だったという印象です。

――守備に関して、全体的にプレスが緩かったのか、それとも攻撃的選手とセンターハーフ(ボランチ)が緩かったのか。

堀江 どちらもですね。それも前半です。ボールを持っている相手選手に対して誰が寄せていくのか。どこまで寄せていくのか。それがすごい曖昧に映りました。特に前半の立ち上がりですね。2失点をした後、ある程度プレスに行けていて、何度か良いボールの奪い方もできていた。でも2失点をするまでは、昔のゾーンディフェンスの守り方でした。待ち伏せの守備的な状態になっていました。

――“昔の”というのは、ACミランのアリゴ サッキの時代のゾーンディフェンスだね。

堀江 ゾーンディフェンスはボールに寄せに行かないといけない。数的同数の場合や守備が整っている場合には、必ずボールに寄せないといけない。

――サッキの提唱したゾーンディフェンスは、ブロックを作って選手の配置を細かく分けて相手からボールを奪っていく。まさに堀江くんが言った「待ち伏せの守備的な状態」だよね。それに比べて、現代のゾーンディフェンスはプレシングとゾーンのミックスになっている。全てはボールを持っている選手の位置によって決まるんだけどね。

堀江 長谷部茂利監督は「ゾーンプレス」を望んでいるように思います。FWのプレスとボランチのプレスは、きちんとやっている。チームでボールに行こうという守備規律があるチームなんだと、後半になって分かりました。最初は「ボールに行くな」という約束事があるのかなと思えるほど、ボールに寄せていっていなかった。実は最初、それを疑ったのですが、2失点をした後でちゃんとプレスを掛けているので、監督はそういうサッカーを志向していないと分かりました。

――後半になってできたことが、なぜ最初からできなかったと思う?

堀江 メンタルだと思います。心の準備が、相手に対して戦う準備ができていないまま試合に入ったように見えました。失点をした場面を見れば分かりますが、東京Vは間のスペースにボールをきっちり入れてくるので、「誰が行くんだ?誰が行くんだ?」とパニック状態になっているように見えました。

――前寛之選手のプレーは気にならなかった?

堀江 気になりました。背番号8番の選手ですよね。前選手のプレーは、すごい精度が高いフィードを逆サイドに蹴れるので、技術力が高い選手だと思いました。守備に関してですね。どのタイミングでプレスに行くのか。判断の鈍さを感じました。例えば、数的同数の場合ですが、東京Vのアンカー・山本理仁選手がボールを持っているのに、プレスに行かず待っていることがある。そのため、山本選手が自由にボールを持つようになる。彼は自由にボールを回し続ける。

――FW陣の守備に関してはどう思った?

堀江 約束事はあると思うのですが、相手の中盤にボールが入った場合、プレスバックというんですが、ボランチと協力して挟み込むのか、あるいは前線に残るのかというのが曖昧だったと思います。東京Vは攻める時「4-3-3」になっていて、水戸は「4-4-2」でした。そうなるとアンカーの山本選手が浮いてしまう。2人のFWのうち1人がマークで残らないとバランスが崩れてしまう。そこがどうも徹底できていなくて、うまく間を取られて、前進を許していたのが気になりました。

攻撃面と失点場面を検証しよう

――2点取られた後の攻撃面に関してはどういう印象を持った?

堀江 攻撃に関しては、技術的に高い選手がそろっている印象です。守備面で話題にした前選手ですが、フィードが逆サイドにきれいにはまってチャンスが作れているように見えると思います。確かに、きれいに逆サイドにサイドチェンジしているように見えるのですが、実は、状況としては数的同数のままです。確かに広いところにボールを運べてはいるのですが、数的優位を作って崩すまでに至っていない。しかし後半、相手が集中力が切れると、うまく流れるようになりました。

――アシストをした外山凌選手は、今季からサイドバック(SB)にコンバートされた選手です。彼は失点にも得点にも絡んでいます。

堀江 得点の場面はうまくボールを奪えた瞬間に、縦の関係を利用してボールを運べています。後半になって、逆に、東京Vの方が水戸のカウンターの時に「誰がボールに行くのか」ということが曖昧になっていました。相手が混乱した瞬間に、うまく得点ができています。この試合は、水戸だけが守備に不具合があったのではなく、東京Vは東京Vで課題があった試合だと思います。カウンター対策の時、どうやって対処するのかが、どちらも曖昧でした。

――東京Vの1点目はどうだろう。細川淳矢選手が森田晃樹選手に寄せていくのだけど、いなされてシュートを打たれる場面だね。

堀江 縦パスが小池純輝選手に入っている。そして相手に前を向かれています。外山選手の寄せが緩いです。森田選手にパスが渡る前ですね。確かに寄りすぎたら裏を取られるかもしれないですが、ボールが入った瞬間に潰せる位置まで寄せておかないと。せめて前を向かせない位置まで、ですね。外山選手のポジショニングが緩すぎて。前を向かれて森田選手にボールが渡って、彼が豪快にシュートを決めた。細川選手がかわされる。でも、これは仕方ない。あの場所でフリーで前を向いてボールを持てたら、攻撃している方が相当有利になります。SBの寄せの緩さ。あと気になったのは、アンカーの山本選手を黒川淳史選手が追うものの、山本選手から小池選手にボールが渡った瞬間に、もう追いつかないと判断して歩いていました。黒川選手だけではなく、何人かの選手が諦めて追わない。17分58秒くらいの場面ですね。この瞬間に守備のバランスが崩れている。

――2点目の失点は、外山選手がマークを外すという屈辱的な場面ですね。

堀江 僕の結論として「ポジショニングがおかしかった」と思います。ペナルティエリア内で相手を捕まえる時に、原則としてボールと捕まえる選手を同一視野に入れないといけない。そうは言っても、角度的に同一視野に入れるのは難しい。右のファーサイドに相手がいて、ボールは左のコーナーエリアの近くにある。

同一視野に入れるのが難しい場合は、相手に触れる状態まで体を寄せて、相手が動き出したら体でその進行を止めるところまでプレッシャーを掛けないといけない。基本は、ファーサイドもあるので、相手とゴールを結ぶ中心線にいないとならない。でも距離感が離れすぎていて、どうしようもない。相手のユニホームをつかむくらいの勢いで止めないとピンチを招く。視野には入らないけれども、相手が動き出したら手で分かるくらい、相手の体に触れておく。

あの場面は中途半端なポジショニングをしていたため、相手が動き出した瞬間に体が反応して前に出て、でもボールは後ろに出てやられたというパターンです。もうちょっと相手の体に寄せられている状態であれば、振り切られない可能性はありました。ポジショニングに少し課題があった。

ただし、この失点は外山選手だけの問題ではありません。クロスを上げる選手をフリーにしていますから。それに、レアンドロの動きが巧みでしたよね。水戸の選手の間にポジショニングするので、誰がマークに行くのか混乱してしまっている。その間に森田選手がペナルティエリア内に入ってきてボールを呼び込んで、19分51秒の瞬間に、ボールの周りにいた選手は、完全にボールウオッチャーになっている。「え?ここに森田がなぜいる?」みたいになっている。パニックになってマークを見失っている状態です。もともと論で言えば、19分37秒にボールが戻った瞬間に誰もプレスに行っていない。すでにこの時点で、相手に自由にやらせすぎでした。

J1昇格は可能なのか?

――この試合の外山選手はサイドバックというポジションへの経験不足を見せてしまった。それと前選手の守備だよね。そこは改善が必要な点だね。水戸は、J1リーグ昇格を目指しているんだけど、堀江くんの目にはどう映った?

堀江 チーム全体として、守備の規律の徹底が必要なのかもしれない。リーグ戦の1試合で、それも敗れた試合を分析しているので、なんとも言えないんですが、取り上げた試合の状態を続けていくのなら、J1昇格もJ1に昇格した後も厳しいなと正直思います。要は、プレスに行っている選手が途中でプレスに行くのをやめるとか……。厳しい言い方ですが、それはもうプロのレベルであってはいけないと思います。

失点に絡んだ場面も、その後も気になる場面があります。29分00秒のあたりから。29分14秒が典型的なんですが、東京Vは水戸がゾーンで守る時のクセ、スペースを守っていると分かっていて、SBが後ろでボールをもらって次のパスコースを作るという動きをしています。29分18秒の場面を見てください。いったんプレスに行って、そうしたら次になぜか引いて守っている。引くことで相手に縦パスのコースができてしまった。ボールを持っている選手に近い選手がプレスに行く。それが100パーセントできないんだと見えてしまう。

とあるタイミングだけ集中力が切れる。でも後半になると、きちんとやれている。それはそれで問題ですが、攻撃に関しては、カウンターの鋭さは素晴らしいので、守備の規律を最初から最後まで安定してやり遂げられたら、昇格のチャンスは訪れます。

――守備は90分間ずっとやり続けないと意味がない。チームとして守備の規律がきちんとしているので、それを90分間どれだけ維持できるのかがポイントですね。残された試合の中でそれができれば昇格のチャンスは出てくる。それができなければ昇格するチャンスはない。話を聞けて勉強になりました。ありがとうございます。

川本梅花

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