川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】#安彦考真(Y.S.C.C.横浜)「一番底辺の泥臭いところを見せたい」【無料記事】#yscc #水戸ホーリーホック #mitohollyhock

安彦考真(Y.S.C.C.横浜)「一番底辺の泥臭いところを見せたい」

安彦考真が全治4週間の負傷をした。そのニュースを耳にして最初に「残念だ」という思いがよぎった。次に、復帰後にはどんなプレーを見せるのかという「期待」も抱いた。

安彦が水戸ホーリーホックに加入していた昨季、僕は一度も取材をしていない。彼の存在はもちろん知っていた。安彦が水戸に加入する経緯が、西村卓朗強化部長との関係性から生じていることを知って、取材を遠慮したという側面がある。でも、いずれ話を聞きたいと思ってはいた。たまたま、その機会が訪れて、安彦から話を聞くことができた。

――水戸への加入は、西村強化部長との縁からだと聞いたんですが?

安彦 僕は大宮アルディージャで(西村)卓朗と一緒でした。僕が通訳で卓朗は右サイドバックでプレーしていました。

――藤本主税が入ってきたくらい?(藤本は2005年に大宮へ加入)

安彦 確か、主税が1年目の時かな。僕が大宮を辞めてから、卓朗とは疎遠になっていました。実はその時は、あまり仲良くはなかった。ずっと時間が経ってからですね、卓朗がボンズ(VONDS市原)のGMをやっていることを知りました。彼が水戸の強化部長になって1年目か2年目の時かな、卓朗を訪ねました。

そこで、卓朗にクラウドファンディングでサポーターが作れる選手も必要じゃないかという話をしました。最初は冨田大介(水戸や大宮などでプレー)をメインにして、僕がマネジメント側でと考えていました。ただ、人にやらせるのは違うのではと思えてくる出来事が何度かあり、「じゃあ自分でやろう」と思い立ちました。それでいったん卓朗には「この話はナシにしてくれ」と言って、FC琉球に行こうと思いました。

琉球のテストの1週間前に足首をひねってしまい、靭帯断絶と診断され、琉球の話はダメになりました。1年が経過し、昨年1月に水戸のテストを受けることになるのですが、その時に沼田(邦郎)社長にも会いました。「こういうプランでこういうことをしたい」「年俸は0円でいい」「プレーを見てほしい」と伝えました。クラブからは、「7割が(世の中への)発信で3割がプレーをこなしてほしい」と言われました。そういう経緯があって、2018年1月に水戸へ加入することとなりました。

――Y.S.C.C.横浜への加入はどういう経緯でしたか?

安彦 水戸を契約満了になったことを知り、シュタルフ悠紀リヒャルト監督が声を掛けてくれました。「J3のクラブの監督になるけど、一緒にやらないか」と言われました。実は、琉球の話も再び出てきて、いろいろ悩みました。「監督の力になりたい」という思いと、地元が横浜なので、「地元でできることは何か。どうしたら地元の活性化に役立つことができるのか」と考えて、横浜に来ることを決めました。

――3月24日にアウェイで行われたJ3第3節・ヴァンラーレ八戸戦[4〇3]。84分に試合に出てきてGKと1対1になった場面がありましたね。ゴールのチャンスがあって、あれは惜しかった。

安彦 あの試合は、4ー1から4ー3になって追い込まれた場面での出場だでした。僕は、自分の中で点を取るというよりもクローザーのつもりでピッチに入った。そうした気持ちの持ち方もあって、いざ目の前にボールが飛び込んできた時に、しっかり決めきれなかった。FWたる者、いかなる状況であっても、しっかりと決め切る。そのことが必要なんだと、あらためて思った試合でした。

――安彦さんの経歴を見ると、「ここぞ」という時にケガが付いて回っています。そうした環境の中にあった時、モチベーションを維持して次に向かうことは大変なことですよね。失敗することを買って出ているようにも見える。でも、実際は失敗しているようで勝ちを得ている。

安彦 いまの世の中は閉鎖的で、何かあれば失敗を叩く。そんな世の中じゃないですか。誰かが何かにすぐに食いついて、人の不幸を探して自分はその人よりも少し上という立場を取ろうとする。「そういうことをなくせたら」と思っていました。スポーツ界は失敗することが前提な世界です。失敗が当たり前なのに失敗を恐れる悪循環がある。僕は、そうしたことを自分の生きざまで示していきたい。1や2ある失敗をプラスに持っていくんじゃなくて、9や10ある失敗を7か8にする。一番底辺の泥臭いところを見せたいなと。みんなやればできるし、何歳から始めたとして遅くない。そう僕は、言い続けたい。

――理念をメシのタネにするのは難しいことですよね。現実問題、生活費はどうなっていますか?

安彦 スポーツの人材派遣企業と僕はプロ契約をしています。そこから月20万円もらっています。

――遠征費はクラブ持ちですか?

安彦 はい、遠征費はクラブが払います。その際の昼食費は出ないので自分持ちになります。可視化すればするほど、僕がやっているようなことの後に続く人は誰もいなくなっていく。誰も好き好んで批判を受けたくないから。まあ、僕自身、デビューはできたけれども、世の中の評価には達してないと思っています。ただ、僕の中では、ひとつずつ、こなしていけています。ゴールとか、点を取ってなんぼとか、それはとても大事なことですけど、それ以上にやり続けること、その姿こそ一番大事なことで大切だと思います。「こいつまだやるのか」「まだやるぞ」「いつまでやるの」「なんでこの人、やってるの」。なんというか本能みたいなものを見てもらいたい。

――試合を記者席で見ていると、僕の前にYS横浜の若い選手たちがいて観戦している。そうした選手たちを押しのけてベンチに座っている。監督だって戦力と考えていなければベンチには入れない。

安彦 僕は「メンタルの面を」とか言われますが、ベンチにいて僕のできることは限られています。限られた交代数の中で、「こいつ一発あるんじゃないか」と思わせたら勝ち。僕に対して「普通やめるだろう」と思うだろうけど、「へこたれるな」と思ってもらえたなら、僕はやり続けます。

川本梅花

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