川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】#AFCアジアカップUAE2019 決勝 #日本代表 対 #カタール代表【無料記事】茜さす 帰路照らされど 先が見えず #AsianCup2019

AFCアジアカップUAE2019決勝 日本代表対カタール代表 茜さす 帰路照らされど 先が見えず

日本時間2月1日23時にキックオフしたAFCアジアカップUAE2019決勝の結果は、周知の事実でしょう。日本代表は1-3でカタール代表に敗れました。

これほど実力差を感じた試合はありません。特にアジア諸国との試合で、日本が戦術的に遅れているという事実を突きつけられたことは、僕の記憶にありません。

試合後、森保一監督は次のようなコメントを残しています。

「3バックでやってくる相手であることも想定の中に入れながら準備をしてきたが、選手が思い切ってプレーできる状態に準備できなかった自分の責任かなと思っている」

日本のシステムは「4-4-2」あるいは「4-2-3-1」で、状況によって大迫勇也と南野拓実が横並びになったり、南野が少し下がり気味なったりします。それに対してカタールは「3-5-2」が基本のシステムです。日本もカタールも、試合中に何度かシステムを変更します。そのシステム変更において、日本は後手を踏んでいくのです。

両チームのシステムをマッチアップして見えてくるもの

日本の右サイドを攻略するカタール

35分過ぎてのシステム変更は遅すぎる

以上が本文の小見出しです。

両チームのシステムをマッチアップして見えてくるもの

両チームのシステムをマッチアップさせた図です。選手を背番号で記しています。

青▼=日本代表
GK 12 権田修一
DF 5 長友佑都
DF 16 冨安健洋
DF 18 塩谷司(84’→MF14伊東純也)
DF 19 酒井宏樹
DF 22 吉田麻也
MF 7 柴崎岳
MF 8 原口元気(62’→FW13武藤嘉紀)
MF 9 南野拓実(89’→MF10乾貴士)
MF 21 堂安律
FW 15 大迫勇也

赤●=カタール代表
GK 1 サード アルシーブ
DF 2 ペドロ コレイア
DF 3 アブデルカリム ハサン
DF 4 タレク サルマン
DF 15 バサム アルラウィ
DF 23 アシム マディボ
MF 6 アブデルアジズ ハティム
MF 16 ブアレム フーヒ(61’→MF14サレム アルハジリ)
FW 10 ハサン アルハイドス(74’→MF12カリム ブディアフ)
FW 11 アクラム アフィフ
FW 19 アルモエズ アリ(90+5’→FW7アフメド アラーエルディン)

システムをマッチアップさせると、それぞれにフリーの選手が現れます。誰が見ても分かるように、カタールの23番がフリーになります。アンカーやボランチ、センターハーフ(CH)と呼ばれるポジションの選手です。一方日本は、両サイドバック(SB)の長友佑都と酒井宏樹がフリーになる。日本にとっては23番をどうやってケアするかが、カタールにとっては日本の両SBをどうケアするのかが、それぞれポイントになります。

カタールは準々決勝・韓国代表戦[1〇0]を3バック、準決勝・アラブ首長国連邦(UAE)代表戦[4〇0]を4バックで戦っています。そのため、日本戦では3バックと4バックのいずれを選択するか、試合が始まらないと分からない状況でした。森保監督のコメントからすれば、日本は4バックを予想していたようです。実際に、守備がなかなかハマらない理由も、そうしたシステムの読み違いにあったかもしれません。

この試合、カタールの方が日本よりも戦術的に整備されていたのは明らかです。

GK(1番)やディフェンスラインの3人が、誰にボールを蹴っていたかを見れば、それが分かります。タッチラインに張っている左ウイングバック(2番)をめがけてボールをキックしていました。これはリスクマネジメントの観点から、しばしば取られる手段で、Jリーグでも見掛ける方法です。ボールがタッチラインを割っても、相手スローインで再開となるだけ。しかし、カタールの選手はキックが正確なため、2番が酒井とヘディングで競り合い、マイボールにできていました。

日本の右サイドを攻略するカタール

カタールは、試合が進むに連れて、どんどん日本を揺さぶってきます。

3人のセンターバック(CB)でボールを回して、大迫を引き寄せます。大迫がボールに寄ってきたらボールを動かして南野に食らいつかせます。そうすると23番は完全フリーでボールが受け、前を向いてボールを運ぶことができます。あとを追うように南野が付いていくものの間に合わず、日本は何度か縦パスを入れられました。

なぜ、縦パスが入るのか。それは11番が降りてきて、23番・6番・10番とともにダイヤモンド型(ひし形)を形成。ポジションを移動するからです。こうなると柴崎岳も塩谷司も誰をケアすればいいのか、迷いが出てきます。縦パスを受けた11番が味方MFにボールを預けると、今度は11番が酒井の裏のスペースへ走っていきます。

カタールは、おそらく日本の右サイドを攻略しようと考えていたのでしょう。なぜならば、日本の左サイドは原口元気がプレスバックして守備に戻ってくるからです。原口と同じポジションの右サイドには堂安律がいます。堂安はハーフウェーラインを越えて自陣に入る際にマークを受け渡します。これは攻撃参加を中心に考えての行動だと思いますが、相手にとっては酒井と一対一の勝負になるため、左サイドよりは攻略しやすくなる。実際にカタールの先制点は、日本の右サイドを崩してからのパスで始まっています。

カタールは前後半通して「3-5-2(5-3-2)」から「3-5-1-1(5-3-1-1)」に、さらに「3-6-1(5-4-1)」から再び「3-5-2(5-3-2)」に、システムを変更します。ただシステムを変えているのではなく、状況に応じている。つまり、システム変更の意味を理解できるということです。

2点リードしたカタールは「3-6-1(5-4-1)」にします。5人の最終ラインの前に4人を並べる守備的な布陣です。しかし、これがハマらないと見ると、すぐに最初のシステムへ戻る。このようにカタールは、日本の先手を取っていました。

35分過ぎてのシステム変更は遅すぎる

日本は、カタールのCH(23番)がフリーでボールを持てることに不自由していました。こうした状況に際して日本は、どのような対策を立てたのでしょうか?

答えは、35分過ぎの出来事に見られます。TV画面に映っていないため真相は不明ですが、アナウンサーが「森保監督が大迫に何かを伝えた」という趣旨の発言をします。その後、日本は「4-4-2」から、中盤を三角形にした「4-3-3」に変更しました。

試合開始から35分。森保監督は大迫に何を伝えたのか。あるいは大迫が森保監督にシステム変更のアイデアを伝えたのか。これは取材して選手に話を聞かないと、真相は分かりません。ただ、2010FIFAワールドカップ・南アフリカで岡田武史監督に話す遠藤保仁や、2018ロシアW杯で西野朗監督に話を聞く長谷部誠の姿と重なってしまいました。

問題は選手もベンチも、35分まで何も手を打てなかったことにあります。その間に、カタールはどんどん日本に負荷を掛けてくる。戦術面では1枚も2枚もカタールの方がうわてで、常に日本をリードした試合でした。

この敗戦を弁明しようとすれば、いろいろな理屈が成り立ちます。

選手の自主性を重んじた。新体制初の公式戦にしては準優勝でよくやった方だ。戦術をチームに落とし込む時間がなかった。先発した選手を固定化しすぎた。CONMEBOLコパ・アメリカ・ブラジル2019に向けての試運転だった。これから本領発揮する。おそらく全てが当てはまるのでしょう。しかし、問題は最も本質的な部分にあります。

システム変更を行うまでに35分を要した。それが何を物語っているのか。このコラムを読んだ方にも考えてほしいのです。日本代表のサッカーは本当にこのままでいいのか、ということを。

川本梅花

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