川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】#船谷圭祐 「ボールを触らないと自分のリズムが作れない」【 無料記事】怪我から復帰して見えた景色

プロローグ

船谷圭祐が怪我からやっとのことで復帰を果たした。

2017年8月30日に行われたJ2リーグ第30節のアビスパ福岡戦で、船谷は、前半15分で怪我によってベンチに下がった。アウェイから戻ってきた彼は、水戸の病院で診察を受ける。診断の結果は、右膝前十字靱帯損傷で全治約8ヶ月であった。

船谷は、2012年2月18日にトレーニング中に怪我をして、診断は左大腿四頭筋筋断裂(血腫形成)の全治6週間だった。その後は、細かい負傷はあったものの、2017年の怪我によるリハビリ生活は、相当にキツいものだった

2018年7月11日、19時にキックオフされた天皇杯 JFA 第98回全日本サッカー選手権大会 3回戦の川崎フロンターレ戦で、船谷の姿はピッチにあった。リーグ戦においては、7月16日の第23節、京都サンガF.C.戦で今季初めてベンチ入りをする。7月25日の栃木SC戦、第25節でスタメン出場を果たす。ジュビロ磐田ユース時代に同期だったゴールキーパーの松井謙弥と再びピッチに立つことになった。

西村卓朗強化部長が、最初に船谷のプレーを見た時、こんな感想をもらした。

「船谷のプレーを見て、どうして彼がJ2のクラブにいるのか不思議でならなかった」

と西村強化部長は話した。

私も同じような印象をもっていた。それと同時に、煮え切らないモヤモヤした気持ちもあった。なぜならば、キックの精度とスペースの作り方など、非凡な才能をもったサッカー選手が、どうして数字での結果を出せないのか、という思いがあったからである。さらに、もっと飛躍できるのに、なぜか、満足しているように見えてしまうのだ。おそらく、彼本人は、必死にプレーしているから、私の苦言は正しくないのかもしれない。しかし、彼のサッカーセンスからして、「もったいない」というのが私の本音である。

ある試合の後で、西ヶ谷隆之前監督に船谷の適正ポジションについて質問したことがあった。

その時、前監督は、逆に「どこが彼の適正ポジションだと思う?」と逆に質問された。私は、「西ヶ谷さんは、彼にいろんなポジションをやらせましたよね。フォワード、2列目のトップ下、サイドハーフ、センターハーフ。でも、どこもフィットした印象がない。だからと言って、キックの質の高さを見れば、外したくない選手だと思うんです。いっそのこと、サイドバックはどうですか?」と話したことがあった。

実は、船谷のサイドバックコンバート案は、西村強化部長と話していて話題にのぼった案であった。そのことを、船谷に話したことがある。ここからは、彼と私の会話を届けることにする。

「ボールを触らないと自分のリズムが作れない」

--自分の中で適正ポジションはどこだと思う?

船谷 適正ポジションですか……自分でもわからないんですよ。

--以前ね、西ヶ谷さんと船谷くんはどのポジションが一番フィットするんだろうか、という話になったことがあったんだよ。

 船谷 本当に、ポジションについてはこだわりがないんです。ただ、攻撃が好きなので、前目の方がいいかなとは思います。

--僕は、船谷くん本人の前で言うのはどうかと思うんだけど、水戸の選手の中で、一番サッカーセンスがある選手だと思っているんだ。ただ、正直に言って、殻と言うか、君の中にある何かを破り捨てれば、もっと先のものが見えるように思うんだよね。先のものというのは、数字で表れる結果を出せば、見えてくるものが違ってくると言うことなんだけど。

船谷 そうですね、目に見える結果を出さないといけないし、出したいという考えはあります。

-- フロンターレとの天皇杯、そして栃木とのリーグ戦での船谷くんのプレーを見ていて、スペースを作るために下がったり、あるいは単純にボールをもらいに下がったりしていた。ポジションを離れて下がるのってすごく勇気がいるプレーだよね。

船谷 なるべく下がるよりも、前で受けられたら一番いいんですけど、それができない時は、やっぱりボールを触らないと自分のリズムが作れないんです。

——対戦していて大きくボールを蹴ってくるチームだとリズムが作りにくいね。

船谷 下のボールよりも上のボールの方が多いチームとの戦いだと、セカンドボールの拾い合いになる形が多いので、なかなかスムーズにはいかないんです。

——コーナキックとかフリーキックは、船谷くんのキックの見せ場だね。天皇杯の(冨田)大介へのキックなんかよかった。GKと相手のディフェンダーの間に蹴ったボールだった。

船谷 ペナの中に強い選手が多いので、いいボールを蹴れば点が入るのかな、と思って蹴っています。

--試合の後は膝にアイシングをしているの? 膝の状態はどうなの?

船谷 大丈夫です。

—— リハビリは……。

船谷 長かったですね。

—— サッカーができなくなるかもしれない、と思ったことはあった?

船谷 んーん、そうですね……水戸のゲームをテレビで見ていて、サッカーをやりたいという気持ちになったんです。実際、そこが大きいですかね。とにかく、サッカーがやりたかった。サッカーがやりたくなったんです。それとリハビリ中、同じ怪我をした選手とかが連絡をくれたりしたんです。東京にリハビリをしに行った時、そこでリハビリをしていた別のスポーツ選手と話をしたりして、お互いに気持ちがわかるじゃないですか。そうした人々と話ができたことで前向きになれましたね。

—— 残り試合で6位以内を目指している水戸に、船谷くんは、どんなプレーを見せてくれるんだろうか。 

船谷 シュートが少ない試合にならないようにしたいんです。相手が嫌がる、相手が怖がるプレーして、もっとシュートの数を増やして、目に見える結果を残したい。僕は、ボールを触ってなんぼの選手なので、自分でも選手にどんどん要求しようと思っています。

エピローグ

船谷くん、おかえりなさい。

そして、君のプレーでまだ見ない場所にサポーターを連れて行ってください。

川本梅花

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