川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】なぜ #乾貴士 はスペインで活躍できているのか【無料記事】堀江哲弘氏との対話より

【インタビュー】堀江哲弘 なぜ #乾貴士 はスペインで活躍できているのか

過去を振り返れば、何人もの日本人選手が、スペインの地でチャレンジをしてきた。移籍してきて最初の何試合かは出場機会を得る。しかし、すぐにベンチで試合を眺めるポジションに追いやられる。そして、クラブとの契約を満了、あるいは途中で終了してJリーグへ復帰する。ラ・リーガでの日本人選手のそうした道程を、私たちは何度も目撃してきた。

日本代表に選ばれるレベルの選手であっても、ラ・リーガでは通用せず、Jリーグに復帰するのが“いつものパターン”だった。しかし、そうした悪い流れを断ち切った選手がいる。それは、乾貴士(エイバル)と柴崎岳(ヘタフェ)だ。

彼ら2人はなぜスペインの地で試合に出られているのか?その問いに答えてもらうために、バルセロナ在住の堀江哲弘(@tetsuhorie)に、スペインサッカー事情も織り交ぜながら話を聞いた。

守備の強度、ポジショニング、そして…

――乾貴士選手はなぜスペインで成功しているのでしょうか。

堀江 乾選手の場合は、フランクフルト(ドイツ)で結果を出しているという前提があります。エイバルでは当時歴代トップの移籍金だったのですが、欧州のトップレベルから見れば、めちゃくちゃ安いんですよね。5000万円にも満たなかったはずです。エイバルは、欧州市場の中から、一定のプレーレベルに達していて、なおかつ実績のある選手を格安で買い取ることができました。

格安とは言え、クラブは「高い移籍金を払って獲得した選手だから、それに見合う起用をしないとならない」と考えるようになります。

セビージャに移籍した清武弘嗣選手の場合は、同じポジションのサミル ナスリ選手の移籍金と比較されます。するとナスリ選手の方が圧倒的に高い。もし、監督が清武選手を使ってナスリ選手を使わないとなれば、周りから「なぜだ?」と疑問の声が沸き起こります。仮に清武選手がものすごい活躍をしたならば話は違ったでしょうが、現実はそうならなかった。

スペインにおける日本人選手への評価は、絶対的に低い状況にある。そうした中でも乾選手は、高めのスタートラインに立つかことができた。クラブの評価も高かった。そうした事情から、監督は我慢強く乾選手を使うことになる。もちろん、乾選手本人の頑張りがなければ、起用されることはないのですが。

――柴崎岳選手はスペイン2部から1部への移籍でした。

堀江 柴崎選手に関しては、リスクの高い移籍だったと思います。2部で活躍をして1部でもゴールを決めた。彼が圧倒的に高い技術を持っていることは間違いありません。しかし日本人にとって必ずネックとなるのは、守備の強度とか攻守の戦術の原則をクリアできているかです。

当初は徹底できておらず、それが課題になってましたが、柴崎選手はクリアしました。ただ最近は、柴崎選手よりも、そうした要求を高いレベルでクリアしている選手が使われているため、出場機会は減っています。ただし、そこを克服すれば、もっと出場機会を得られるはずです。

――守備の強度とは具体的に?

堀江 守備に入った時、自分が寄せるべき選手に、どれだけ速く寄せられるか、そしてどれだけ強く競ることができるか、です。速く寄せないと相手に次のプレーを考える時間を与えてしまいますし、相手と競り合いになった時も、どちらがボールを奪うかで試合の展開が全く変わってしまいます。

柴崎選手はボランチをやっていたため、その素養はあると思います。しかし柴崎選手よりもその部分でうまい選手がいるため、彼の出場機会が減っています。ボールをチームとして前進させるアイデアやパスコースを作る能力は、チームでナンバーワンだと思います。しかしヘタフェは、ラ・リーガを残留するのがやっとの戦力しかなく、他チームと戦うとどうしても守備の時間が増えるため、彼を使うのに難しい状況となっています。

――乾選手の守備の強度は?

堀江 乾選手は、守備面について高く評価してます。試合を見ていて戦術的なミスがない。へたにボールに食いつくことがない。ボールに食いつき、かわされて突破される。そうした場面が皆無です。ボールが逆サイドにあっても、ちゃんとポジション取りをして味方のサイドバック(SB)と協力できています。ボールを奪い切る能力も高く、寄せも速い。ましてや90分サボらないでプレーしています。

――日本では、乾選手の攻撃面がクローズアップされています。

堀江 攻撃に関しては周りとの連係が取れるようになったことが大きいですね。ジェスチャーを加えながら、コミュニケーションを取っています。結果、得点できるようになりました。

――乾選手と柴崎選手が活躍できた要因は?

堀江 日本人選手が、スペインで活躍できない原因は、ポジショニングにあると思います。これは日本人選手が苦手としている部分です。状況に合わせた動きができていない。

日本のトップレベルの育成年代、あるいはプロチームの映像を見させていただく機会がありますが、1対2(数的不利)の守備の際に、相手へ突っ込んでしまうケースが本当に多い。こちらにチーム遠征で来られた指導者の方と話させていただいた時に、「監督から“前からプレスを掛けろ”としか言われないチームがまだまだ多いんですよ」「逆に、数的不利な状況でスペースを守っていると“サボるな!“とも……」と言われてました。

こうした影響からか、日本人選手は局面として数的優位なのか数的不利なのか状況を考えないでプレスする傾向にあります。しかしスペインの上のレベルでは小学校低学年から1対2の状況を作ってこの原則を把握させ指導しています。

育成年代で的確なポジショニングを習得していれば問題ないのですが、そうではないと苦労することになります。乾選手のように実際にこちらに来てから学んで適応していった例もありますが、それらの原則を身につけてないために監督から信頼を得られずプレー機会を減らしている日本人選手もいるのです。

川本梅花

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