川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】「水戸は本当にJ2へ留まれるんですか」と聞かれたあなたはどう答える?【コラム】2018年の水戸ホーリーホックを占う

「水戸は本当にJ2へ留まれるんですか」と聞かれたあなたはどう答える?

「いばらきサッカーフェスティバル2018」が、2月3日(土)にケーズデンキスタジアム水戸で開催されました。水戸ホーリーホックは鹿島アントラーズと対戦。試合は、3-4で逆転負けを喫しました。

http://www.mito-hollyhock.net/games/8296/

この試合は、スタジアムで観戦できませんでしたが、スカパー!の中継を録画し、翌日の午前中に見ました。見終わって、Twitterで簡単な感想を投稿したものの、文章を見直さないで、そのまま流したため、誤字脱字が何個かあり、恥ずかしくなって、というより批評した選手に失礼だなと思い、投稿を削除しました。

そうしたら、とある水戸サポーターから、「えーっ!! 大体内容分かるのに」という言葉をいただいたこともあり、「ちゃんと書こう」と思い立った次第です。

選手の入れ替えをどのように捉えるべきか?

まず話さなければならないのは、昨季活躍した主力選手何人かの移籍です。得点力のあるストライカー2人が抜け、前線ならどこでもこなせる選手や、後方で惜しみなく活躍する選手の退団は、大きな出来事と言って間違いありません。

もちろん、彼らが今季も在籍していたら、チームの力になったはずです。しかし、大きく選手を替えなければできない構造変革があったとも考えられます。

水戸の選手補強は、監督主導で行われています。ここ3年は、西ヶ谷隆之前監督(→SC相模原)に関係する選手の加入があります。代表的なところでは、久保裕一選手(→SC相模原)や林陵平選手(→東京ヴェルディ)、橋本晃司選手(→未定)などです。彼らは在籍していた時に、チームのために力をフルに生かしてくれました。しかし、個別に活躍を見ていけば、問題点がいくつかあります。

林選手は得点力があり、攻撃陣の主軸となりました。しかし、林選手が得点を挙げられたのは、相棒の前田大然選手(→松本山雅FC)がいたからだと言えます。林選手は、ポストプレーヤータイプではありません。ゴールゲッタータイプ、あるいはポジショニング・ストライカーと言えばいいのでしょうか。前田選手が相手DFを引っ張っていくことで、真ん中にできるスペースを利用してポジショニングするストライカーでした。つまり、1人で局面を打開するタイプではありませんでした。

橋本選手は、昨季加入の際に、クラブ側が移籍を渋ったという事情があります。もともと、最初に水戸を出ていく際の経緯や大宮アルディージャ時代の評判もあり、クラブ側の印象が良くなかったようです。そこを、西ヶ谷前監督の要望で加入したという流れがありました。今回、契約更新されなかった理由は、おそらく守備に関して貢献度が少ないと判断されたからでしょう。ゴール前では力を発揮しましたが、センターハーフ(CH)のポジションにおいては、ボール奪取できないシーンが多々ありました。私もプレーを見ていて契約更新されないだろうと感じていました。

ヴァンフォーレ甲府に移籍した佐藤和弘選手は、大学時代にやっていたCHからFWまでのポジションをこなしていたユーティリティープレーヤーです。ミドルシュートが得意な選手で美しい弾道が記憶にあります。しかし、佐藤和弘選手の得点数とアシスト数を見れば、FWやMFとしては物足りない(Football LAB調べで1ゴール4アシスト)。佐藤和弘選手にとって甲府移籍は、もう一皮むけるチャンスだと思います。環境が変わり、指導者や周りの選手も変化すると、見えなかったものも見えてくるからです。

このことは、徳島ヴォルティスに移籍した内田航平選手、京都サンガF.C.に行った湯澤洋介選手、大宮に加入した笠原昂史選手にも当てはまります。

いままでの水戸は、監督主導の戦略で補強と移籍が行われてきました。監督のやりたいチームにあったサッカーに適した選手を獲得することはもちろん、監督が以前に関わったことのある選手を獲得することもありました。これは間違いではありません。いきなり「この選手を使いたい」とリクエストしても、その選手が同意することは難しい。それならば、監督の人間関係を生かさない手はないからです。

しかし、チームを作っていく段階で、J1に昇格する土台を作ることを目的にするならば、監督主導のチーム作りでは、先が見えてしまいます。なぜならば、戦術においても、選手起用においても、マンネリ化の加速度が増すからです。

そこで、クラブの強化部主導にシフトチェンジしようと試みたのが2018年ではないかと考えています。新練習施設の城里町七会町民センター(愛称「アツマーレ」)が完成したことも、本気でJ1参入を目指すという認識を強めたことでしょう。

長谷部茂利新監督の選手起用

西ヶ谷前監督は、とても優秀な指揮官です。選手には厳しく接するストイックな面がありました。采配においても、とても慎重なやり方をします。特に、選手交代には根気強くスターティングメンバーをゲームの後半まで引っ張っていました。頑固な性格だったと言えます。

ある時、強化部からこんな提案がありました。

「佐藤(和弘)を左サイドバック(SB)で使ったらどうですか? 一度、試して見ませんか」

西ヶ谷前監督は考えた末に、試しませんでした。

ここで「そうですね、やってみましょう」と、すぐに承諾したなら、それもどうかと思うのですが、佐藤和弘選手のSBは見たかったと思います。やらせてみて「機能しない」となったら、それは仕方がないことです。佐藤和弘選手にも、もうワンランク上の選手になれるキッカケになったのかもしれません。実際は、どうなったのか分からないですが、面白い提案だったと思います。ここで言いたいことは、とても頑固な面があって、それが選手起用にも現れていて、チームの硬直化を招いたのでは、ということです。

今季から指揮を執る長谷部茂利新監督の場合は、どうでしょうか。

私はインタビューをしていないし、先の鹿島戦しか見ていないので、まだ、はっきりした確信はないのですが、試合を見た限り、チャレンジをする監督だと感じました。

采配に関してですが、昨季までサイドハーフ(SH)でプレーしていた白井永地選手を、CHへ起用したことは面白い。昨季は右SHとして後半からの出場が多かった白井選手に、小島幹敏選手とペアを組ませる。ゲームを重ねるともっとコンビネーションが良くなるから、とても楽しみなコンビが誕生したと言えます。

さらに、黒川淳史選手と木村祐志選手の両SHは、サイドの起点となれます。黒川選手は攻守の出足が早く、ボールが足下から離れない。木村選手は昨年8月、徳島ヴォルティスからロアッソ熊本へ期限付き移籍。今季より水戸に完全移籍した選手ですが、熊本では6試合しか出場していません。ケガに泣かされた印象でしたが、その木村選手を先発で起用しました。木村選手のプレーを見て、なぜ熊本で使われなかったのか知りたくなったほど、いいプレーをしていました。セットプレーのキッカーを任され、GKとDFの間の嫌な場所にボールを入れていました。鹿島のGK曽ヶ端準選手の正面にシュートが行った場面もありましたが、攻撃のキーマンになる選手だと思います。

左SBのポジションには、佐藤祥選手ではなく田向泰輝選手を起用してきました。佐藤祥選手のコンディションにも問題があったのでしょうが、佐藤祥選手はプレーの際にあるクセがあります。それは、目の前の対面するボールを持っている選手に突っ込んでいくというものです。その結果、よく裏を取られます。相手のボールホルダーに突っ込んでいくため、近くにいる相手選手が佐藤祥選手の背後に走り込み、佐藤祥選手が後追いする場面が何度もありました。そこで、おそらくですが、西ヶ谷前監督が内田選手をSBに起用したんだと、私は認識しています。そうした兼ね合いもあって、先に述べましたが、佐藤和弘選手の左SBコンバート案が強化部からあったのでしょう。

鹿島戦でFWを務めたジェフェルソン バイアーノ選手は、試合を重ねてコンビネーションができてくれば、得点源になれる選手に見えました。環境に慣れられるかが問題で、もし根気よくやれてチームのやり方にフィットしてくるようならば、面白い存在になれると思います。

若手の攻撃陣には、有望な選手が多い。鹿島戦でスタメンだった岸本武流選手、後半から出てきた宮本拓弥選手と伊藤涼太郎選手などが挙げられます。そのほかにも、外山凌選手、コンサドーレ札幌から来た前寛之選手、ケガからの復帰が待たれる船谷圭祐選手などがいます。しかし、鹿島戦で試合に使われた選手が中心になってチーム作りが進むと考えるべきで、何人の選手が力を発揮できるのか、実際は分かりません。

GKは、大宮から移籍してきた松井謙弥選手が起用されると思います。当然、本間幸司選手とのポジション争いになるのでしょう。鹿島戦を見れば、安定感において松井選手が一歩抜けているように映りました。フィードに関しては、ともに弱さがあるのですが、ビルドアップの際に、GKからの大きなキックでスタートするやり方を取らないようなので、フィードのマズさは目立たないかもしれません。

個人の能力差が勝敗に直結する

「ああ、そうきたか」と思わせたのは、セットプレーの際の守備ですね。ニアサイドに2人を立たせて、あとはマンツーマンによるディフェンスでした。ニアに背の高い選手を立たせるのはCKにおける守備の鉄則です。低くて早いボールをGKの目の前に入れられ、そこに相手に飛び込まれたら目も当てられない結果になってしまいます。その対策として、ニアサイドに背の高い選手を立たせて防波堤にします。

昨季の水戸はCKの守備時、相手の目立つ選手にはマークを付けて、基本はゾーンで守備をしていました。ゾーンで守る場合、選手と選手の間にボールを入れられることが怖い。なぜなら、そこに相手が走り込んでくるやり方をするからです。昨季は、それで失点を喫する場面が何度かありました。

現代サッカーでは、マンツーマンとゾーンの混合で守備をするチームが多いようです。今季の水戸は、マンツーマンのため、誰が相手からマークを外されてピンチを招いたのか、すぐに分かります。責任の所在がはっきりしている。鹿島戦では、植田直通選手に細川淳矢選手が付きました。また、後半出場した鈴木優磨選手には白井選手がマークします。水戸の選手はともに、相手選手が先に体を入れられ、ほぼフリーの状態でヘディングを打たれました。

さらに、レオ シルバ選手がフリーでボールをもらえた場面がありました。慌てた田向選手が相手の足に触れてPKを与えたシーンです。ここでの問題は、田向選手のプレーのクセが出てしまったことです。田向選手は、ペナルティエリアの中で守備をする際、隣にいるセンターバック(CB)の選手の近くでプレーしてしまいがちです。それはサイドが変わって、左SBをやっても同じでした。PKを与える前ですが、混雑した中で、水戸は5人の選手がいます。一方の鹿島の選手は3人でしたが、水戸は数的優位を生かせない。田向選手は、右にいる福井諒司選手の近くにポジショニングしてしまう。ここは、もっと左にいて空白の場所をケアするポジションを取る必要があったのです。

右SBの浜崎拓磨選手の場合、土居聖真選手がクロスを上げるしぐさを見せたら、スライディングで防ごうとしました。その時、土居選手は切り返してペナルティエリア内を確認してクロスを上げます。浜崎選手は、慌てて体を起こしてボールを防ごうとします。この場面もそうですが、抜かれてヘディングをされたり、クロスを上げられたりしたのは、チームとして崩されたからではなく、個人の勝負で負けてしまったからです。個人のスキルの差が、相手に優位なポジションを与えてしまう。

鹿島戦の敗戦は、水戸にとって残酷な側面がありました。それは、選手のスキルの差が、あまりにも歴然としてしまったことです。そこをなんとかするのが、監督の力量です。シーズン後半に水戸が息切れをしてしまうのは、相手もチーム力を上げてきて、チーム戦術では対抗するのが難しくなり、結局、個人の能力差で敗れてしまうからです。

こうした問題を解決するため、選手を入れ替え、監督を交代。さらに、次で述べることですが、フィジカル関係のスタッフを総入れ替えする。そこまでしないと、構造は変えられないのです。

チーム大改革の第一歩

今季、水戸はフィジカル関係のスタッフを入れ替えました。それも、大きな改革の1つです。

強化部は、選手とトレーナーに1週間に一度、面談してケアしてもらうように推奨していました。しかし、選手もトレーナーも、そこまでしなくても「大丈夫だろう」とタカをくくって、なかなか強化部の提案は実行されませんでした。このことは後悔を招く結果となります。

若い選手ならば余計に「自分は若いから大丈夫」と考えるでしょう。若いゆえに、自分の体の悲鳴を聞くことができない。そうしたことに気を配って「予防」に注意を払うことが、トレーナーの役割です。しかし、スタッフ自身にも、慢心があった。昨季の小島選手の負傷は、事前に休ませてケアしておけば防げたと言われています。

そうした中での鹿島との試合でした。

チーム大改革の第一歩が、今季、踏み出されたのです。これを読んでくださったあなたは、果たしてどのように感じたのでしょうか。

川本梅花

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