川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】柴崎岳はスペイン2部のテネリフェで成功するのか? 【無料記事】堀江哲弘(スペイン在住サッカー指導者)【会員限定】

【インタビュー】柴崎岳はスペイン2部のテネリフェで成功するのか?

 

鹿島アントラーズに所属していた柴崎岳が、スペイン2部(セグンダディビシオン)のCDテネリフェに移籍することになりました。2月1日に、サンタ クルス デ テネリフェ市内の医療機関でメディカルチェックを終えて、翌2日には全体練習に参加。11対11の戦術練習においてボランチのポジションでプレーし、その際にホセ ルイス マルティ監督が、練習中の柴崎の腕を引っ張って動き方を伝えた、というニュースが入ってきました。

果たして、柴崎のスペイン2部への移籍は成功するのでしょうか? そして、現地ではどのように柴崎の移籍を捉えているのでしょうか? また、セレッソ大阪に復帰することになった清武弘嗣は、なぜ試合に出られなかったのでしょうか?

現地の声が聞きたくて、スペイン在住の堀江哲弘(@tetsuhorie)に話をうかがいました。

堀江 哲弘 (ほりえ・てつひろ) 1977年生まれ。宮城県仙台市出身。東京でサラリーマンをしながら、週末に少年クラブでサッカーを教える生活をして いたが、2007年よりバルセロナに渡り現地で指導を開始。 2011年にスペインサッカー連盟の監督資格レベル2を取得。現在はスペインにおける最高の監督資格となるレベル3を受講しつつ、Pubilla Casasという地域クラブのU-9(Benjamin B)のチームで監督をU-14(Infantil B)とU-19(Juvenil A)のチームで第2監督を務める。

不自然な契約とコミュニケーションの問題

――柴崎岳選手が移籍するCDテネリフェというクラブはどこにあるの?

堀江 カナリア諸島にあるクラブなんです。柴崎選手が最初に行こうとしたUDラス パルマスもカナリア諸島にあって、ライバル関係にあります。この2チームの戦いを「カナリア諸島ダービー」と呼んでいます。テネリフェの成績は、まあ、エレベータークラブと言えますね。2部、3部を行ったり来たりですね。ここ3年は2部に留まっています。過去には1部のプリメーラ(2009・10シーズン)にいたこともあったクラブですね。

――地図を眺めると、カナリア諸島はスペイン本土から見れば離れ島だね。ポルトガルサッカーに詳しいYuta Saitou(@yutasaito_pt)さんによるTwitter(ツイッター)投稿を見れば、西サハラとかモロッコに近く、アフリカ大陸の一部分と言われても不思議ではない。スペインではなく、ポルトガル領になっていたかもしれない地理だよね。そうした場所にあるテネリフェの今季の成績はどうなの?

堀江 いま6位です。もうちょっと頑張れば、自動昇格の切符を手に入れられるかもしれない順位に付けています。

――2部から1部に昇格する条件は?

堀江 2部リーグで1位と2位になれれば自動昇格できます。6位までがプレーオフ進出してその中の勝者が、1部リーグに昇格します。テネリフェは、プレーオフに進出できる順位には付けています。

――さて、そこでだよね。2部のクラブに移籍する柴崎選手の評価はどうなの? 実際には、代理人が1部のラス パルマスと交渉したんだけど、話がまとまらなかったので、2部のテネリフェで落ち着いたという経緯だよね。

堀江 結論から言うと、代理人としての仕事がうまく行かなかった、という印象ですね。厳しいことを言えば、評価されていないんですよね。レアル・マドリーとのクラブW杯の決勝戦(2016年12月18日)で得点を決めて、日本の新聞では賑(にぎ)わったと思うんです。こちらの新聞でもラス パルマスは興味を持っているという報道があったことは事実ですが、ほかの獲得候補との兼ね合いとか、その選手の比較対象として使われたという感じですよね。

――柴崎選手の代理人であるロベルト佃氏は、『サッカー代理人』(日文新書)ほか、何冊か本を出している方。横浜F・マリノスの選手と太いパイプがあって、中村俊輔選手(ジュビロ磐田に移籍)、榎本哲也選手(浦和レッズダイヤモンズに移籍)、齋藤学選手(海外移籍に至らず)の代理人を務めた。柴崎選手の場合、鹿島のタイキャンプに帯同せずに、スペイン移籍を望んだという経緯だね。

堀江 1部のラス パルマスから契約をもらえずに、2部のテネリフェからしかオファーをもらえなかった。しかも半年契約だと聞いたんですよね。不自然な契約内容で、全然評価されていないんだなと思いました。

――活躍できると思う?

堀江 分からないというのが本当のところですよね。ポテンシャルは確かにあるから、ちゃんとチームの中で、ほかの選手と信頼関係を作って、自分の立ち位置を確立すれば活躍する可能性がありますが、いかんせん半年契約という点が引っ掛かりますよね。クラブとしては、柴崎選手を使おうが使わないが、いずれにせよ、なんのリスクもないように思います。

例えばSDエイバルの乾貴士選手は、30万ユーロ(約4100万円)で獲得した選手なんです。クラブ史上最もお金をかけて獲得した選手だと言われています。乾選手の移籍条件と比べると、そうした扱いではないですよね。そういう意味で、クラブ側も契約したけど、それほど高い評価はしていない。本人のポテンシャルを評価してほしいんですが、クラブ側は、本当に柴崎選手のポテンシャルを評価してくれているのかな、という疑問がありますよ。そこは心配なところですよね。

――試合に使われたらという条件で、柴崎選手を2部のクラブでプレーさせて、それを1部に行くためのステップアップの場にしたと代理人も柴崎選手本人も考えているんだろうけどね。柴崎選手のレベルだとスペイン2部のクラブで試合に出られそうなの?

堀江 難しいんですよね。技術やプレースタイルがどうこうではない問題が最初にありますから。まず、壁になるのが……。

――言葉?

はい。コミュニケーションがどれだけ取れるかということなんです。彼のキャラクターもあるでしょうし。ちょっと、同じ東北人なので心配ですよ。アホやる性格じゃないですよね。

――これさ、しっかりと通訳を付けた方がいいよね。日常生活から練習でのミーティングも含めて。彼のプレーだけをいきなり評価しろ、というのは無理があるよね。

堀江 そうですね、プレーだけでは無理ですよ。でも、サッカーを知っている日本人の通訳はいないだろうな。エイバルの乾選手は、たまたま岡崎(篤)さんがいたので。エイバルのスポーツディレクターのフラン ガルガルサが、直接連絡して乾選手の通訳を頼んだと聞いています。最近は、通訳を付けなくても理解できるようになったと聞いています。もう3年目ですからね。

――岡崎さん? ちょっと待って。ネットで検索するから。ああ、彼は筑波大学蹴球部出身なんだね。いまはバスクのクラブでユースの監督をしている。経歴を見れば、同大学大学院を出ているから、最初から指導者を目指していた人だね。

堀江 エイバルは、乾選手に通訳を付けることを「是」としたんです。中村俊輔選手の場合、RCDエスパニョールに移籍しましたが、当時の監督が中村選手に通訳を付けるのを許さなかったんです。監督がその選手をどう扱うのか、ということなので、普通は、通訳をミーティングに参加させることを許さないんじゃないかと思います。

――プレー面もそうだけど、言語取得も同様に大切なんだよね。ただ、柴崎は、半年で何をさせようとしているんだろう。理解に苦しむんだよな。代理人がもっと本人にいろいろな現状を理解させる必要があると思うな。ともかく、柴崎選手には、通訳が必要だよね。

堀江 そりゃあそうですよ。ミーティングで戦術の話をさせても、監督が何を言って要求しているのか、分からないと何も始まりませんからね。1年契約だったら、半年でスペイン語の初歩を覚えて、じゃあ、それから、と適合するでしょうが、半年だと結果を出すのも難しいし、代理人と柴崎選手の足元を見られているというか。

モンチのいう「文化の違い」とは

――それで、話は清武弘嗣選手についてなんだけど。

堀江 セレッソ大阪に決まりましたね。プレーしないよりもプレーした方がいい。

――日本に戻る選択よりも、スペイン以外の欧州でプレーするのは難しかったんだね。

堀江 オファーがなかったんでしょうね。完全移籍できるようなお金を払うクラブがなくて、セビージャが移籍金を上げたことで、結局、手を挙げたクラブがなかったのが現実でした。清武選手にとって帰国するのは、悪い選択じゃないと思います。ずっとドイツでプレーしていればそのままドイツで続けられたんでしょうが、まあ、セビージャにきたことが悲劇を呼びましたね。セビージャに来たことで移籍金が上がってしまって、選択肢がだいぶ狭まってしまった。セレッソには、完全移籍で6億円ですか。よくそれだけのお金を出しましたよね。

――ところで、乾選手はどうして試合に出られているの?

堀江 道のりは全然、楽じゃなかったと思います。クラブの評価ですよね。乾選手は、フランクフルトで活躍した選手で、移籍金が安いけれども、クラブでは最大の投資をしたということで、乾選手を試合に出さないといけないという考えがあるだろうし、投資した分、元を取らないとならないから、きちんと育てなければならないという考えがクラブにはあったんでしょう。それと、2016年のシーズンが始まってから、日本代表に選ばれなかったことが結果的に良かったとも言えますよね。エイバル自体、得点を取れるチームではないことを選手たちも理解しているし、その中でも相手を1枚はがせる能力があって、ドリブルができて、守備をしっかりやってくれる。それを考えたら、クラブとして乾選手には高い評価をされています。

――そうだね。清武選手もエスパニョールとの第1戦で活躍して、それから日本代表に選ばれて、レギュラー争いの中、チームを離脱したことは、すごく大きな分岐点になっているよね。柴崎選手も、3月からロシアW杯アジア予選が始まるので、そこで代表に呼ばれたら、半年の中の貴重な時間を割くことになりそうだね。

堀江 清武選手は、日本代表の試合から戻る度に、ホルヘ サンパオリ監督によって出場時間を減らされています。つまり日本代表に呼ばれてコンディションを崩して、その間にレギュラーポジションを奪われている感じなので。絶対的なレギュラーの立場じゃないと、代表に行ってからチームに戻ってきても、なんの保証もされないですから。

清武選手に関して、何人かのチームメイトは清武選手にパスを出すのをためらったプレーをしていましたから。うまく協力できていない選手が何人かできていて、そうすると結果が欲しくなる。結果とは得点を入れることだから、チャンピオンズリーグで出場した際、あせってゴール前に殺到して、逆にチームのリズムやバランスを壊してしまう。悪循環そのものです。このまま試合に出られないで、変にコンディションを崩してしまうようなら、セレッソに戻って信頼関係がある場所でプレーした方が、本人にとっていいし、日本代表にとってもいい。

――あと、スペインにいる日本人選手となると、2部リーグでプレーする鈴木大輔選手(ジムナスティック・タラゴナ)はどうなの?

堀江 レギュラーで試合に出ているんですが、チームは現在最下位ですね。3部に降格するかもしれません。そうなると、どこに行くのか、になります。甘くないですね。

――スペインで日本人が活躍するのは、やっぱり難しいのかな。

堀江 クラブへの入り方だと思うんですよ。ちゃんとクラブがこの選手を欲しいんだ、というビジョンを持って獲得されているのかですよね。乾選手が良い例になります。柴崎選手は、どう見てもクラブにいてもいなくていいよ、という契約で。本人の能力とは別の部分での難しさが見えますよね。入り口からレベルが上がっている。

言葉の習得は大切なんですが、それだけとは言えなくて、セビージャに入ってきたモンテネグロ出身のステヴァン ヨヴェティッチ選手は、いきなりゴールを決めて注目されているんです。彼本人は、スペイン語を話せないはずです。

――ただ、インドヨーロッパ語族圏内の選手は、文法や語彙(ごい)が近いので、日本人よりは習得も早いだろうし。

堀江 言語の問題だけじゃなくて、プレースタイルにもありますよね。ヨヴェティッチ選手は、強い守備ができて、得点力もある。周りの助けがなくても、自分で局面を打開する強さを見せられる。清武選手にしても柴崎選手にしても、自分で相手からボールを奪うような守備ができる選手じゃない。

――外国籍の選手は、特に守備において激しくボールを奪う技術がないと、監督も使えないと思う。日本人のメンタルの問題もあるのかな。

堀江 スペインは、チームに入っていくことへのハードルが高いですよね。清武選手に関して、セビージャのスポーツディレクターのモンチ氏(モンチは通称。本名はラモン・ロドリゲス・ベルデホ)が、「文化の違い」と言っているんですよ。僕なりに「文化の違い」を解釈すると、言葉の違いだったり、コミュニケーションの取り方ですよね。こっちの人は、日本人なら引くような差別表現をけっこうするんです。冗談だと思って。乾選手のチームメイトが、目を細めて乾選手の顔のまねをするツイッター投稿があったんです。その写真に対して、乾選手は冗談だと思っていたんですが、日本人の中では、それを冗談とは捉えずに「差別表現だ!」と言う人も出てくる。日本で言えば「いじり」なんですが、それが差別と交ったりすほど、きわどい表現をするんです。そうしたことを、モンチは「文化の違い」と言ったんじゃないのかと、考えています。

――海外で生活するというのは、日本で育まれた自分自身の枠組みを壊すことが重要だったりするよね。別の言い方をすれば、「くだる」とも言い換えられるけど。「文化の違い」を間違って解釈する人もいるんだろうから、本当に、難しい問題なんだよね。

川本梅花

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ