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【インタビュー】Webメディアの向かう未来 ~サッカーメディアはどこに行くのか~ 【無料記事】伊藤大地(Webメディア「BuzzFeed Japan」副編集長)

【渦中の話】伊藤大地(Webメディア「BuzzFeed Japan」副編集長)
Webメディアの向かう未来 ~サッカーメディアはどこに行くのか~

Webメディア編集者として注目される伊藤大地(@daichi)へのインタビューをお届けします。伊藤は出版社出身。紙媒体を経て、その後Webメディア業界へ転身しました。Webメディア「The Huffington Post(ハフィントンポスト)日本版」の副編集長を務めていた時には、自身もライターとして、サッカー日本代表の試合をデータに基づいて分析した記事や、新国立競技場の建設問題を継続的に取材して執筆されていました。現職のWebメディア「BuzzFeed Japan(バズフィード・ジャパン)」では、副編集長として記者たちをまとめるエディターに対して指示を出す仕事を中心に、人事採用やサイト全体の方針を決める立場にあります。

「バズフィード・ジャパン」の創刊編集長が朝日新聞の記者だった古田大輔(@masurakusuo)。伊藤は副編集長として創刊編集長の古田との関係を「お互いの足りない部分を補い合う」と話します。この新興Webメディアには、業界で著名なライターが参加しています。弁護士ドットコムニュースの副編集長だった渡辺一樹(@_gl_hf)。伊藤と同じ「ハフィントンポスト日本版」から転職してきた嘉島唯(@yuuuuuiiiii)。彼女が個人的にnote(ノート)で書いた「なぜ、高知に住みたいと思えないのか」はものすごく面白かった。コラムでは、高知に移住したブロガー・イケダハヤト(@IHayato)「まだ東京で消耗してるの?」に対しての意見が綴られています。結びの「地方に行った先にあるのは、消耗ではなく消滅だろう」には笑わされました。「バズフィード・ジャパン」は、アメリカの「バズフィード」と「Yahoo! JAPAN」との合弁会社であり、「Yahoo! JAPAN」から出向しているのが、 編集者の山口亮(@d_tettu)です。

このように、Webメディア業界の有名な編集者兼ライターが集結した組織が「バズフィード・ジャパン」なのです。そこの副編集長を務める伊藤大地からいろいろとお話を聞かせてもらいました。

渦中の話】Webメディアの向かう未来 ~サッカーメディアはどこに行くのか~ 伊藤大地(Webメディア「BuzzFeed Japan」副編集長)

サッカーメディアのこれから

――Webのサッカーメディアはご覧になりますか?

伊藤 見てますよ。「SOCCER KING(サッカーキング)」や「フットボールチャンネル」などですね。

――伊藤さんから見て、Webのサッカーメディアはどんな風に映りますか?

伊藤 マニアックなものが多いな、という印象ですね。スポーツ新聞は代表戦の時は記事がいっぱい出ますが、試合の結果だけを見るならば記事を見なくても、Twitter(ツイッター)を見るくらいで十分です。誰かが結果を流していますからね。Webで何かを伝えるには、より、クラスタを横断する、趣味領域が広いものが大事なのかなと思います。紙媒体もWebメディアも、きちんと深く書かれたものが読まれるというのは変わらない。ただしネット世界の興味は、クラスタリングがされているかどうか、です。見る人の数を大きく増やそうと思ったら、クラスタを横断するようなテーマ設定が必要です。オリンピックとかディズニーとかもそうかもしれません。クラスタ内に留(とど)まる情報は、きちんと深い内容が好まれる傾向があるんですよね。

――「クラスタを横断するようなテーマ設定」と「深いものが好まれる」に関して、具体的なものを挙げて教えてください。

伊藤 「FiveThirtyEight(ファイブ サーティエイト)」というWebサイトがあります。これはネイト シルバー(※1)という統計家が作ったサイトなんです。ネイト シルバーは2012年に行われた合衆国大統領選挙を100パーセント当てたことでも知られています。彼はもともと、野球オタクでブログを書いていた。そこから、選挙予測をして、「The New York Times(ニューヨークタイムズ)」に書くようになる。まさに、野球という趣味領域から、クラスタを横断する大統領選、というテーマ設定へ踏み出したわけです。

MLB(メジャーリーグベースボール)で優勝するチームを、データで解析する。そういうやり方を見ていると、「取材で現場に行きました」というものではない広がりを感じますね。日本では、イチローのヒットゾーンをデータで分析するとか、少しずつ変わってきてはいますね。現場からは書けない側のアプローチだと思います。

――サッカーのデータについては「DataStadium(データスタジアム)」という有料の機関があります。「スポーツナビ」などでは、試合の流れの速報を出しています。

伊藤 日本にとってメディアを大きくしていく中で、サッカーというのはW杯や欧州リーグであって、Jリーグではないという認識が一般的にあると思います。それはニュースサイトの分析を見ていても分かります。

また、プロ野球はPVに関しても強い。なぜなら1球速報のたびにリロードが掛かるからです。でもサッカーって区切りがないから、同じテキスト速報やっているところでも、1時間のうちに200回コメント速報入れる人と半分の人といるわけですよね。それには、競技の特質もあると思います。

――サッカー雑誌がどんどん廃刊になりました。週刊誌として代表的で歴史的な2つの媒体、「サッカーダイジェスト」は隔週になり、「サッカーマガジン」は月刊になった。紙媒体の衰退は激しいですね。

伊藤 フローしていく情報に関しては、完全にWebに置き換わってますね。でもアジェンダセッティング(※2)は、紙でもWebでも行えます。きのうの試合に絡む本質的な問題というのは、3日後に出ても5日後に出ても変わらないものです。質自体が変わらない。もし紙を続けるのであれば、そこにフォーカスしないといけない。

――紙媒体が衰退した分、読者はWebに流れているのでしょうか?

伊藤 いままで雑誌を買っていたユーザーがどこに行ったのか、という話で言えば、「ブログを見ている」「専門サイトを見ている」となるんでしょう。「雑誌を買う」「新聞を買う」という人は、「別の雑誌を買う」「〇〇新聞を買っていたが別の新聞を買うようになった」とはならない。そうやって移行する人は、そうはいない。

Webの場合、全てが分割されています。「このネタではPVを稼げたけど、別のネタではライバルサイトのPVが上だった」といった具合です。ライバルの数が無限にある。「いままで雑誌を読んでいた人は何を見ている?」となれば、「いろんなサイトとかいろんなSNSを見ている」になるんですかね。

ソーシャルメディアが情報を流通させるという考えを前提に、配信戦略というのがあるんです。ユーザーがいる場所に情報を届ければいいじゃないか、という考え方ですね。140文字と写真で済むことは、それで流せばいい。普通は、ソーシャルメディアを集客の手段として考えるんです。うちのサイトに来てほしいから、こういうことをツイートする。あるいはFacebook(フェイスブック)に出す。スマホになればなるほど、わざわざ別のサイトに飛ぶ人は減ります。タイムライン上で見る人が多くなる。だったらそこにコンテンツを置けばいいんじゃないか。オリンピックの時にもやりましたけど、印象的な写真をそのままツイッターに流す。それによって記事に来る人はいないのですが、フォローしていただける人が増えることで、メディアのパワーが上がっていけば良いという考えですね。

渦中の話】Webメディアの向かう未来 ~サッカーメディアはどこに行くのか~ 伊藤大地(Webメディア「BuzzFeed Japan」副編集長)

Webメディア、そしてサッカーのビジネス化

――「バズフィード・ジャパン」はどのようなやり方で収益を出しているのですか?

伊藤 多くのバナーを貼るとか検索連動をさせる。いわゆるアドセンスみたいなものは、サイトに来た人によって収益が上がるようになっている。しかし「バズフィード」には、バナーも検索連動もありません。ブランデッドコンテンツ(※3)と言って、広告主からの発注により広告を製作し自社のサイトで発信するというビジネスモデルを採用しています。うちのスタッフは、1980年代以降に生まれた世代の人たちがすごく多いんですよ。その世代に刺さっているメディアが「バズフィード・ジャパン」なんです。

いままでの形態とは、ビジネスモデルが違うので自分のサイトに引き込まなくてもいい。人がInstagram(インスタグラム)を見ているのなら、そこに流せばいい。あるいは、フェイスブックに流せばいい。ビジネスとしてブランデッドコンテンツのような戦略を持っていない場合、結局はPVモデルに戻ってしまうんです。

――PVモデルに戻る弊害とは何ですか?

伊藤 うちだと「釣り見出し」は絶対にダメです。「PVってなんなの?」と突き詰めて考えると、「タイトルとサムネールが良かったから押された」となる。PVだけを目標にしたら、そうなってしまうんです。でも、シェアを目標にしたら絶対にそうならない。シェアは中身に満足してもらって、「他の人に伝えたい」と思ってもらわなければいけない。中を開いた人が誰かに伝えたい、となるからシェアしてもらった方がいいんです。

――ところで、伊藤さんは以前「ハフィントンポスト日本版」の副編集長でしたね。「バズフィード・ジャパン」に転職した動機はなんだったんですか?

伊藤 「ハフィントンポスト日本版」副編集長として立ち上げの初期から参加していて、やり切ったという感覚があったんです。そうしたタイミングで、「バズフィード・ジャパン」現編集長の古田大輔が創刊編集長になった。古田とはとっても共鳴する部分があったので、一緒にやらせてもらっています。

――副編集長としてどんな仕事をやられているんですか?

伊藤 記者たちをまとめるエディターに対して指示を出す仕事です。人事採用や編集部全体の方針決めも行います。僕は、雑誌記者を経てオンラインメディアで仕事をやってきたので、新聞記者だった古田とは、お互いの足りない部分を補い合うという感じですかね。

――以前読ませてもらった記事で、日本代表をデータ分析していたものがありました。いまは記事を書かれないんですか?

伊藤 書きたいですね。スタジアム問題とかぼちぼち取材しているんですが。広島のスタジアムや新国立競技場の問題とか、サッカーやスポーツ自体をどうやって公共のものとして受け入れていくのか。そこはすごく関心があります。

――スタジアム自体もそうですが、その周辺の環境を考えた時、日本のスタジアムと海外のスタジアムでの違和感を憶えてしまうんです。

伊藤 日本は、ビジネス化が遅れています。埼スタ(埼玉スタジアム2002)なんかはいい例ですが、あれだけ広い場所があるのに、スタジアム周辺にはワゴンが数台あるだけですよね。スタジアムまでの道沿いに露店があってシャツを売っているだけ。あれだけのビッグクラブなのに、そういう状況ですよ。じゃあスタジアム内にメガショップがあるのかといえば、それもない。サッカーを普通に見に行った人は、ユニホームをどこで買えばいいの? そう思いますね。その点、川崎フロンターレはビジネス化がうまいな、と。街を巻き込んで、うまくやっていますよ。川崎Fは、天野春果さん(※4)が中心になって最初から市を巻き込んでいる。そうしたつながりから、やがて市がクラブに出資するようになる。(サンフレッチェ)広島の場合、民と官がぶつかり合っている。人材が足りないと聞いています。

――スタジアム建築の際に建築基準法に照らすと不可能なことが出てくるとか、公共施設や公園の使用に関する規制が日本の場合、いくつかの弊害を作っていますね。

伊藤 まず、見に来た人がお金を落とす場所がないんです。建築プロセスがあって、「公」でやるから、プライベートビジネスを持ち込んではいけないとか。よくあるのが、公立公園の中で商売ができないから、道路沿いに並ぶというものですね。そこのパブリックとプライベートの相克というのは、すごくありますね。

アルビレックス新潟を見ても、サッカーにこだわらないことが大事だと思います。専用スタジアムが難しいのは、サッカーだけに大きな税金をつぎ込めないというリスクがあるからです。それだったら「陸上も使えるようにしましょう」と言って、規模が段々と大きくなっていく。スポーツを総合的に捉えるという考えが大事なのかと感じますね。僕はサッカーファンなので、もちろん専スタの方が良いですけど、サッカーファンの熱い思いだけでは、専スタは建たないんですよね。興味がない人こそ、巻き込んで合意形成をしなければならない。

――一番好きなスタジアムはどこですか?

伊藤 市立吹田サッカースタジアムは感動しました。スタジアム建設プロセスの政治的な難しさ。資金や資材といった建築上の難しさ。そうしたことをある程度勉強した後に吹田に行ったんです。成田の第3ターミナルって行ったことありますか? そこはLCC(格安航空会社)向けのターミナルなんですね。必要最小限の機能で作って、よりそれをメンテナンスしやすいような具材とか、汎用(はんよう)性の高いもので作る。「きれいにするものは、あとから付け加えればいいよね」というミニマルな発想でコストを抑える。一方で、サッカーを見るという機能に関して全く妥協していない。本当にすごいな、と思いました。

――好きなクラブとかあるんですか?

伊藤 川崎Fはクラブの哲学が好きなので勝ってほしいな、と個人的には思います。柏レイソルは、ユースの練習を見に行っていたので、その子たちがトップチームに上がって、下平監督の下で活躍している。楽しみに見ています。

――伊藤さんは「テキストにこだわる」と言われていました。それは、どのような思いがあったんですか。

伊藤 いま世の中で起こっていることは、スマホになって、ビジュアルになって、動画になって、それがVRになって、どんどんリッチな方向に向かうのは間違いないんです。一方で、テキストが優れているのは、情報の圧縮率というのか、効率性なんです。そこにはこだわりたい。

一方で、なにか表現したいものがあって、写真は効率がいいのか、動画は効率がいいのか、音声がいいのか、テキストがいいのか、を選べる状態であるのが一番いいと思います。その中で、テキストだからダサいとか、動画だから良いということはない。趣味性が高いものは、ビジネスはともかく、読まれますからね。

――「よりマニアックな」ということですか。

伊藤 はい。ゲームなんか、タダでも書きたい人が多くいる。音楽なんかもそうですね。セグメント性があるものは、必ず伝えたい人がいるものなんです。いままでのように、大きな出版社が広告代理店を通して広告を取って、版元にドンと流すのは難しいかもしれないですけど、それこそ手作り感ですよね。1000部2000部という単位を売っていく。ビジネスとしてやっていけるものは残しつつも、そうでなくても書くという人がいる。小さなコロニーみたいなものは残っていくと思うんですよね。

――Jリーグが動画配信大手のPerform Group(パフォームグループ)と放映権契約を結びました。10年総額2100億円という金額になりました。2100億円を得て独占放送権を売って、それが直接的な集客アップにつながるには、なかなか厳しいんじゃないかと思っているんですが。

伊藤 日本の場合、Jリーグの支持層が高年齢化しているんですよね。40代とか50代とか。若い人は来てないので、「それはなぜ?」と突き詰めて考えないといけない。例えばスタジアムに関してですが、娯楽施設の建設をしている方に取材をして、その時に「サッカーのスタジアムはどうですか?」と聞いたんです。その人は「厳しい」と言われた。年間25試合から30試合しか行われない。ほかのイベントへの転用ができない。なぜなら、天然芝生だからですよね。その芝生の管理にはお金が掛かる。そして試合中、スタジアム内での滞在時間が短い。さらに、プレー中に飲食があまりできない。そういう諸条件を考えると、「興行として、質が高くない」と言われた。そうした諸条件を認めて、考えないといけないですよね。スタジアムが娯楽施設として設備しにくいことが、若い人の集客が増えない原因でもあるんじゃないかと思いました。

――「DAZN(ダ・ゾーン)」でJリーグの試合が来季から放映されます。

伊藤 よりファンを増やしていく際に、例えばアメリカの野球サイトで一番大きいところはどこですか、となったら、「MLB.com」(MLBの公式サイト)なんですよ。データもあるコラムもある。そこを中心にユーザーが集まって、動画を切り出したり、それをリツイートしたりしている。ジャーナリズムを含めた「あるべき論」は大事だと思いますが、「ファンと盛り上がろうぜ!」というのであれば、Jリーグやクラブ公式サイトが主導しても問題がないと思っています。

それとダイジェストで試合をもっと流せばいいのにと思うんです。より触れる機会があった方がいい。広く目に触れる方がいいんです。見られないものに、人は興味を持ちようがありませんから。逆説的になりますが、ダイジェストを見たけど「ダ・ゾーン」に入らない、という人が多ければ多いほど良い。見ている人が100万人いて、そのうちの1パーセントが加入したとして、1万人じゃないですか。見たから入らないといった人が99万人いるのは、そうかもしれないですが、1万人を産むためには、100万人に見せないとならないんです。

渦中の話】Webメディアの向かう未来 ~サッカーメディアはどこに行くのか~ 伊藤大地(Webメディア「BuzzFeed Japan」副編集長)

Webメディアのこれから

――雑誌はページ数に決まりがあります。Webメディアはどうなんですか?

伊藤 基本的に文字数は関係ない。長ければ長いほど良い、あるいは短ければ短いほど良い、というわけでもない。結局、書いた内容に対して適正な量かどうかが問題なんです。

雑誌やTVは、尺が規定するじゃないですか。ネタじゃなくて、尺で埋める情報量が決まってくる。日本代表戦がない週でも、尺が決められているので、重要ではない情報で尺を埋める。それじゃ、つまらない。読み手視点からではなく、作り手視点の、デリバリー上の問題ですよね。Webメディアは、書き手、作り手として、その制限がない のがすごく大きい。尺が決まっていると、これはいくらなんでも短すぎ、もっと説明が必要、あるいは書きすぎという場合が出てくる。だから、字数に制限はないんです。

――紙の編集とWebの編集では違うところはありますか?

伊藤 書く、調べるは変わらない。ただ、紙はすでに媒体を選んで読んでいるんですよね。お金を払った後に読んでいる。Webは見てくれて滞在してくれてシェアしてもらってビジネスが成り立っている。まずは読んでもらわないと始まらない。すごく極端なことを言えば、新聞は取ってくれれば読まれなくてもいい。積んでおけばいい。それで何も困らない。

Webは、より読まれることに対しての感度というか。フィードバックがあってどういう評判があるのか、すごく気になりますよね。書いて出すまでが半分の仕事。残りの半分は数字を見て反応を確認する。紙は出したら終わり。雑誌は、どの記事が良かったのか、数字で分からない。売れた、売れなかったが話題になる。

僕は出版社出身だったので、編集に関しては厳しく教えられました。すごく良かったんですよ。ネットでは、まだきちんと受け継ぐものがないんです。実際、紙世代の遺産を使い潰(つぶ)すという状況です。そこはきちんと作っていきたい。記事の中に間違いがあったら、ネットの中で間違いをきちんと指摘する。「ネットってこんなもんだから」ではダメなんです。ネットでは、デマ記事をいくらでも書けるじゃないですか。それではダメなんです。だからうちの会社は、外注をしていないんです。

――これからのWebメディアは、右肩上がりが続いていくのでしょうか?

伊藤 まだまだ伸びると思いますよ。ひと1人の24時間のうち、どれだけWebメディアが奪えるのかじゃないですかね。スマホを見ている。誰かとLINEをする。ゲームをする。ツイッターをする。その中でWebメディアは取り入れられていますか、となりますよね。

パッケージングは変わっていきます。紙になった。それがWebになった。いまある形式が一定量のテキストを読ませるのに、140文字じゃ足りないから、それをスクリーンショットで流す。そうしたことをユーザーがやり始めている。どこかに届けたいと思っている。でも文字数が足りない。じゃあ、画像にして届ければいいんじゃないか。パッケージングが変わると、表現の仕方が変わってくるんですよね。何かの問題を見つける。書く。考える。そうしたことの反復ですよね。エンターテインメントだったら、その中で泣いてもらう。笑って、喜怒哀楽を呼び起こす。この本質は変わらない。僕が考えなきゃいけないのは、いまどのパッケージに規定されているのか、ということなんです。だから情報を運んでいくものに気を使っています。

Webメディアは未来に存続するのか、と聞かれたら、Webはなくなるかもしれない、と答えます。でも人は、20年たってもオリンピックを見ているだろうし、アイドルは人気なのだろうとは感じますね。その時に、どんなメディアを見ているのか。それはオーディエンスが新しい技術を選択していくんだろうと思います。

――最後に、伊藤さんはなぜ記者という職業を選んだんですか?

伊藤 僕は、実は飽きっぽいんですよ(笑)。日々新しいことをやりたいと思っています。新しいことをやるのに、記者って最適じゃないですか。なぜなら、一日たりとも同じことがないですから。

渦中の話】Webメディアの向かう未来 ~サッカーメディアはどこに行くのか~ 伊藤大地(Webメディア「BuzzFeed Japan」副編集長)

川本梅花

(※1)ナサニエル リード シルバー(Nathaniel Read”Nate”Silver,1978年1月13日生)は、選挙学(政治)とセイバーメトリクス(野球)を応用して将来の結果を予測するアメリカ合衆国の統計学者。2008年合衆国大統領選挙では合衆国50州のうち49州における勝者を正確に予測。また2012年合衆国大統領選挙では全50州とコロンビア特別区における勝者を正確に予測した。しかし、2016年の勝者予測は、ヒラリー クリンントンだったが、結果は周知の通り、ドナルド トランプであった。以下で、シルバーは大統領選の結果について論述している。

http://fivethirtyeight.com/features/what-a-difference-2-percentage-points-makes/

(※2)アジェンダセッティング(Agenda setting)は、「議題設定効果」を意味する。具体的には、特定のニュースや話題をメディア(TV、雑誌、ラジオ、新聞、Web)が頻繁に取り上げることによって、「いま何が問題か、何を論点に議論すべきか」を誘導できるという考え方のこと。かつて1920年代にアメリカのウォルターリップマン(1889~1974)が提唱した論説があった。マスメディアは、報道によって人々の脳裏にステレオタイプを刻み込むことで世論を形成できるという考え方。しかし現代社会は、Webの地位の向上によって、意見そのものの誘導は難しく、代わって登場したのがアジェンダセッティングという考え方である。

(※3)ブランデッドコンテンツとは、広告の形をしていないが、ブランドのメッセージを伝えたり、広めたりする一連の活動のこと。いままでの広告は「消費者にいかにメッセージを伝えるか」が根底にあったが、ブランデッドコンテンツはコンテンツとしての魅力があることが重要となっている。現代の消費者は「広告っぽいもの」を嫌う傾向があるため、まずはコンテンツとしての魅力を高め、消費者に共感してもらおうという考え方。

(※4)2016年まで川崎フロンターレのサッカー事業部プロモーション部長を務めた人物。

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