川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】それでも機能していた日本の守備【無料記事】

【インタビュー】それでも機能していた日本の守備

この対談も、11月15日(火)に行われた日本代表とサウジアラビア代表の試合[2〇1]の前に行われました。

なぜ日本はサウジアラビア戦で勝利を手に入れたか? 例えば原口元気が与えたPKの理由を、原口が自分の戻りの遅さから招いたものだと認識しているため、サウジアラビア戦の攻守から守攻の切り替えへの激しい動きが生まれたのだと思われます。勝利という結果は、前の試合をどのように消化したのかに掛かっているのです。

11月15日(火)に行われたロシアW杯アジア最終予選・サウジアラビア代表戦が、日本代表にとって今年最後の試合となった。そこで日本代表の戦いを振り返りたい。今回は、前回サウジアラビア代表の分析を行った新井健二(@kenji_arai)に、日本代表のディフェンスについて分析してもらった。対象となる試合は、日本が1-1で引き分けたオーストラリア代表戦だ。

新井は2001年、アルビレックス新潟に加入する。2004年からアルビレックス新潟シンガポールに期限付き移籍し、2006年にシンガポール・アームド・フォーシズFCへ完全移籍した。彼は、シンガポールのクラブにおいて最も実績を残した日本人として知られる。2013年3月に現役引退を表明。現在は埼玉県熊谷市で「Fly High Soccer school」代表として少年サッカーを指導している。

徹底していた日本代表の守備

――オーストラリア代表のシステムは「4-4-2」で、中盤はダイヤモンド型でした。日本代表はいつもの「4-2-3-1」で本田圭佑選手が1トップを務めましたね。

新井 日本は、ゾーンディフェンスなんですけど、試合はオーストラリアにほぼ支配されていました。日本の戦術として、引いて守ってカウンターという戦い方だった。後ろのDF4枚とボランチの2枚がカバーしながら、きれいなゾーンを作って守備に当たっていました。

――日本のゾーンプレスは、きちんとした守備の形になっていたんでしょうか?

新井 徹底していたというのは、見ていて分かります。

――どこが徹底していたんですか?

新井 ゾーンで守っていて、相手がエリアに入ってきたらプレスのために出て行く。プレスの位置の設定として、ハーフウェーラインからセンターサークルの先頭ぐらいに相手選手が来たなら、その選手にファーストディフェンダー(本田)がプレスに行くというやり方ですね。守って勝点1を拾うサッカーでしたから、先制点を奪ってからは無理に攻めなくて良いという感じで監督から指示が出されていたんでしょう。

――ヴァイッド ハリルホジッチ監督からそうした指示が出されていたと思われるほど、引いて守る方法だったということですね。

新井 オーストラリアは4バックでしたが、ワイドにいるサイドバック(SB)に対しても、本田選手が1人でプレスに行っているじゃないですか。逆に行かなくてもいい。行っても1人ではボールを取れないですから。ディフェンスが始まる位置を担うのをファーストディフェンダーだと考えます。その点では、日本がどこでボールを奪いに行くのかが、はっきりしていなかった。だから本田選手は体力の消耗が早かった。あれだけ引いて守るんだったら、本田選手は無理にプレスに行かずに、相手がボールを持ってセンターサークルを越えたらプレスに行く。それには2列目の選手との連動が必要です。先制点を奪うまでの日本は、それが比較的できていた。

――先制点を得たことで、守り方に変化があったんですね。

新井 先取点を運よく取れたことが大きい。アウェイだったので、追いつかれてからは、勝点1を確保しながらカウンター攻撃を仕掛けるというやり方。なぜ逆転しに行かなかったのか、という意見もあるでしょうが、戦い方は間違っていない。

ペナルティエリア内でファウルを犯した経緯

――失点場面を振り返ってもらいたい。後半早々に原口選手が相手選手を倒してPKを与えてしまいます。

新井 原口選手は前半、ファウルを取ってもらえないシーンが2回くらいあったんです。彼の態度ですぐに分かるのは、ファウルを取ってもらえないので、もうイライラしているんです。あれ、これは危ないな、と映っていました。もしかしたら何らかのアクシデントが起こるかもしれない、と。PKを与えたファウルに関しては、完全に相手が先にボールを持っているのに、遅れて入って体をぶつけた。直接的には、関係があるかどうか分かりませんが、前半のイライラを引きずっているプレーにも見えました。

原口選手が当たったトミ ユリッチ選手は体が大きいので、原口選手は「自分が行っても倒れないだろう」と考えていた。この程度だったら倒れないと思っていたけど、倒れてしまった。本来なら、もっと早くペナルティエリアの中に入っていないとダメ。槙野智章選手の隣にいるくらいじゃないと。もっと早く良いポジショニングを取っていれば、じゅうぶん対応できたはずです。遅れていっているので、結果的にファウルになってしまった。

ただ原口選手の弁明をすれば、日本のラインが思いっきり低いから、原口選手がどこをマークしているのかが明確ではなかった、となります。でも試合開始5分から10分の間は、失点する機会が多く訪れる時間帯だと言われますよね。特に後半開始早々は気を配らないとならない。後半終盤で体力もなくなってきたなら分かりますが、開始早々ですから、もっと集中して全力で戻らないと。あの場面でファーサイドががら空きだったのは、TVに映っていませんが、原口選手が一瞬ボールウオッチャーだったからですよ。だから焦ってしまってファウルを犯した。

PKを真ん中に蹴る勇気

――PKを与えた日本は、GK西川周作選手のセービングに期待されました。しかしゴール真ん中に蹴られて得点を与える。西川選手の動き出しは早い方だと見えますか?

新井 PKを蹴る時、日本のGKは動き出しが早いというイメージが確かにあります。シンガポールでプレーしていた時でも、欧州出身のGKは、最後まで動かないようにしていると感じました。どんなGKもそうでしょうが、山を張って左右どちらかに跳ぶ。真ん中のチョイスは「ない」と思うんですよ。キッカーのミレ イェディナク選手は初めから決めていて真ん中に蹴った。西川選手は真ん中を選択しないという確信があったから蹴れた。分析していたんでしょう。

――PKキッカーが真ん中に蹴るには相当の勇気が必要ですよね。

新井 真ん中に蹴る勇気はないです。GKとの相当の駆け引きが必要です。もしもGKが動かなかった時に「なんでどちらかに蹴らなかったんだ」と自戒の念にかられる。失敗した後のことを考えてしまうので、よっぽどの確信がなければ、真ん中には蹴れないですよ。オーストラリアのキッカーは、蹴る前の入り方を見れば決め打ちしていたのが分かります。

遠藤保仁選手(ガンバ大阪)がPKを蹴る時は、まずGKの動きを観察しながら軸足の位置から体重移動するまでを見て、それから蹴っている。そんな技術がある選手は、キッカーとしたら相当なレベルですよ。なかなかそのレベルに行けないんです。W杯予選のような大きな舞台では「失敗したら」という心理的なものが働いて、右か左のどちらかを蹴る選択をする。だから高い場所に、それも真ん中に蹴るのは、どう考えても無理なんです。決め打ちしかないです。西川選手は、相手のキックモーションの、数秒の間に動いているというイメージがあって、実は意外とキッカーにはGKの動きはよく見えるんです。

――右側に蹴ると決めていて、GKの動きを見て左側に変えることも難しいですよね。

新井 助走の入りやスピードによっては、逆に蹴るのは可能ですが、突然の切り替えは難しい。助走をゆっくり、長めの助走を取ってゆっくり入っていけば、蹴る寸前までGKとの駆け引きは可能だと思う。ボールを蹴る寸前までGKを見られますから。GKがPKを止めるのは運だとしか思えない。シンガポールでやっていた時に、向こうのGKが「5人蹴る時に、右に全部跳ぶ」と言っていたくらいですからね。それくらい山を張らないと、早くて強いボールには届かない。だから、GKは早めに跳ばないとセーブできない。

後手となったサイドの攻防と高さ対策

――日本のサイド選手は前になかなか上がれませんでした。どのように映りましたか?

新井 オーストラリアの攻めには圧力がありましたよね。両SBがウイングバック(WG)のように高い位置を取ってきたので、日本のサイドハーフ(SH)やSBは上がるに上がれない。低い位置でボールを奪ってからカウンターを仕掛けることに徹底していた。日本のSHはオーストラリアのSBが上がってくると、どうしてもつられて下がってしまう。本来いるべきポジションにいられない。相手に高い位置を取られると下がるという悪循環に襲われる。相手のビルドアップのうまさに、日本は攻めあぐねていたイメージがあります。

――日本の前線の選手も守備に追われていました。

オーストラリアのセンターバック(CB)2人を本田選手が見ていた。日本は「4-5-1」になっていました。先制点を取ってから、本田選手も香川真司選手に「プレスに行くな」と指示していましたから。相手が自分のゾーンに入ってきた本田選手がまず行く。それを徹底していました。

――日本がオーストラリアに決定的な場面を与えたのは2回。原口選手がファウルする前、ユリッチ選手をフリーにしてしまった場面。それから試合終了間際に、ヘディングしたボールがゴールバーを少し超えていった場面。密集地帯で相手を完全にフリーにしていました。

新井 人に付いているんですけど、フィジカルが強くて、一緒にジャンプしても相手がボールに当てて来るわけですよ。良いボールが蹴られて、相手が背の高い選手でフィジカルも強い。そうした場合は、相手に体を当ててズラすことしかできません。審判に見えないように、手を使って相手のバランスを崩すしかない。日本の選手が、あれを止めることは難しい。

――では、背か高くてフィジカルが強い選手に対して、どのように対応すれば良いのでしょうか?

新井 ボールに行くつもりで、相手のバランスが崩れるように自分の体を当てていく。相手と一緒にジャンプしていること自体が間違いです。相手がジャンプする前に自分が先にジャンプして体をぶつけていく。相手の良い形を崩す努力をする必要があります。後ろから行っても先に触られるので、まず、ボールと相手を同一視できるポジショニングを取る。密集地帯だと最初から距離が近くなります。オーストラリアの選手は、手を使ったりしてユニホームを引っ張ってくるので、ちょっと手を伸ばしたくらいのところでポジショニングを取って、こっちから先に仕掛けるように思わせる。

シンガポール時代に、194センチのセルビア人をマークしたことがあった。その選手は、ちょっとジャンプしただけで、競り合いに全部勝つため、どうやったらその選手のいいところを削(そ)げるのかを考えたものです。吉田麻也選手はイングランドでプレーしているので、自分よりも背のデカい選手をマークするのに慣れています。でも森重真人選手はそういう機会が少ない。それは対処の仕方を見たら分かります。

それでも機能していた日本の守備

――日本の守備は機能していたと考えているようですが、それはどういった場面から判断しましたか?

新井 DFの後ろ4枚に対して、前の4枚なり5枚のMFとの距離を保って、ほぼ一緒に動いている。お互いがコンパクトに距離を保っているのかどうかで判断しています。選手をひもでつないで、同じ距離を保つという練習があります。上下左右への全体の動き。その距離間をうまくできていた。ボールに対して、右サイドにボールがあったら、全体的に右サイドの方にバランスを置く。距離間の問題ですよね。ディフェンスの前の距離、後ろの距離がしっかりしていて、プレスに行けているかどうか。あれだけできているのは、ハリルホジッチ監督が相当に力を入れた証拠でしょう。

――日本の実力は、どう見ました?

新井 結果は1-1の引き分けでした。「なぜ、逆転を狙わなかった」という論調のメディアを見掛けて、ちょっとイラッとしましたね。W杯に行くことが問題で、現実、オーストラリアは日本よりも格上なんですよ。それに対して、アウェイの地で、欧州のクラブで試合に出ていない選手を中心選手として使わないとならない現状があった。1トップに本田選手を起用した時点で、最低でも勝点1は取って帰ろうという考えが監督にはあった。これでは攻めに行けないですよね。たまたま先制点を挙げたから勝てるチャンスがあったように映っただけです。このグループでは、サウジアラビア代表、オーストラリア、日本の順番ですよ。僕には、いろんな状況を考慮して、よくやったと見えます。

川本梅花

新井 健二(あらい・けんじ)1978年生まれ。2001年、立正大学からアルビレックス新潟に入団。 2004年からアルビレックス新潟シンガポールに期限付き移籍し、2年間にわたってキャプテンを務める。2006年、シンガポール・アームド・フォーシズFC(SAFFC)に完全移籍。同年、守備の要として優勝に貢献。チームはリーグ最少失点を達成した。2009年、SAFFCでリーグ4連覇を達成。その後、インドリーグへ移籍。再びシンガポールリーグに復帰し、2013年に現役を引退。子供向けサッカースクール「Fly High Soccer Soccer」を立ち上げたほか、「Zonoサッカースクール」でも指導を行っている。

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