川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】サウジアラビア代表戦、攻略のカギは?【無料記事】

【インタビュー】サウジアラビア代表戦、攻略のカギは?

ロシアW杯アジア最終予選。W杯出場権を獲得するため身を削るような戦いが、2017年9月5日に行われるアウェイのサウジアラビア代表戦まで続く。その折り返し地点、きょう11月15日(火)に行われる同代表戦が、今年最後の戦いとなる。今回はサウジアラビア戦を前に、新井健二(@kenji_arai)にサウジアラビア対策を尋ねた。DF出身の新井が、サウジアラビアの守備をどのように見ているのかに注目してほしい。

新井は2001年、アルビレックス新潟に加入する。2004年からアルビレックス新潟シンガポールに期限付き移籍し、2006年にシンガポール・アームド・フォーシズFCへ完全移籍した。彼は、シンガポールのクラブにおいて最も実績を残した日本人として知られる。2013年3月に現役引退を表明。現在は埼玉県熊谷市で、「Fly High Soccer school」代表として少年サッカーを指導している。

分析の対象となる試合は、9月6日(火)に行われたイラク代表戦。試合は、18分にペナルティエリア内でサウジアラビアのDFを巧みにかわしたFWモハナド アブドゥルラヒーム カッラル(以下、アブドゥルラヒーム)のシュートが決まってイラクが先制点を奪う。しかし、80分にDFハサン ムアト ファラターが、86分にMFナワフ アル アビドがそれぞれペナルティエリア内で倒されてPKを獲得。2本のPKを決めたサウジアラビアが2-1で勝利を収めた。

サウジアラビア代表がゾーンディフェンスを採用する理由

――グループ内の力関係を整理します。サウジアラビア代表の実力を、どのように考えていますか?

新井 日本代表がいるグループの中では、サウジアラビアが一番の強敵です。チーム力からすれば、サウジアラビア、オーストラリア代表、日本の順番になります。

――サウジアラビアを分析するにあたり、イラク代表戦を参考にしましたが、この試合における守備はどうでしたか?

新井 サウジアラビアの監督は、オランダ人のベルト ファン マルワイク氏ですが、サウジアラビアはゾーンディフェンスを採用しています。

――2010年の南アフリカW杯でオランダ代表を率いた人物ですね。経験豊富、日本戦でも勝利を収めました。彼の母国オランダではマンツーマンディフェンスが主流ですし、サウジアラビアはフィジカルが強いため、そちらの方が良いと思うのですが?

新井 守備戦術にマンツーマンではなくゾーンを採用した理由は、サウジアラビアの戦術理解度を考慮した結果だと思います。マンツーマンは、相手に付いていくことで生まれるスペースを、誰かがケアする必要があります。そうなると守備の混乱が起きやすい。ファン マルワイク監督は、サウジアラビアについて「身体能力は高いが選手個人の戦術理解度で劣る」と分析し、ゾーンを選択したんでしょう。

――そのことを踏まえてイラク代表戦を振り返りましょう。

新井 サウジアラビアの失点場面を見ると、マイナスのクロスを入れています。イラクの選手がサイドに流れた時点で、誰が彼のマークに付くのかを明確にする必要があります。まず、その時点で明確になっていない。次に、普通だったらDFは、ボールと人が見られるところにファーストポジションを置いて守備をします。試合の中で、常にどこが適正な場所なのかポジショニングを取ることが基本です。イラクのシュートを決めたアブドゥルラヒーム選手にサウジアラビアのDFが身体を寄せようとするんですが、横に味方の選手がいて邪魔になっている。その選手をどかすなり、もしくは最初にマークを受け渡すなりしないとならない。コーチングで「自分が付いてるからカバーしろ!」とか「ちょっと前に出ろ!」とか、動きながらコーチングしなければならない。

――先制点を挙げたイラク代表FWアブドゥルラヒーム選手のファーストタッチが完璧でしたね。

新井 そうですね、FWのファーストタッチが完璧だったことと、サウジアラビアのセンターバック(CB)の距離が近かったので、受け渡しがうまく行かなかったことが失点につながりましたね。どちらのCBがFWに付くのかを迷ってしまった結果です。

――先制点を許してしまった原因は、ほかにもありますか?

新井 サウジアラビアのDFは、ボールウオッチャーになりがちなんです。ゾーンで守る時のDFは、ボールを追いかけながら、視線を追いながら、自分のゾーンをしっかり押さえておくという感覚が大切なんです。人に付くのではなく、ゾーンをしっかり把握してはね返すのがゾーンディフェンスです。サウジアラビアのDFは、人を見ないでボールにばかり気を取られている傾向があります。

――ペナルティエリア内では、ゾーンで守らないですよね。

新井 チームの約束事として相手がペナルティエリアに入ってきたと同時に、マンツーマンに切り替える。失点場面では味方へ受け渡すのか、自分が付いていくのかが曖昧(あいまい)になって、イラクにシュートを決められてしまった。とにかくボールウオッチャーなんです。ボールと人を気にしながらも、みんながボールの方向しか見ていない。だからペナルティエリア内でマンツーマンになるとしても、対応がまずくなる。

サウジアラビアの攻撃と「中東の笛」

――サウジアラビア攻撃陣の特徴は?

新井 サウジアラビアに限らず、オーストラリアもそうですが、フィジカルの強いFWがいるチームは、選手がニアサイドに入ってくるやり方を採りますよね。ニアサイドにフェイクを入れて相手に気を引かせてファーサイドにクロスを上げ、そこに裏から走り込ませるとか。

オーストラリア戦(10月11日/1△1)を思い出してください。原口元)選手が後半早々にペナルティエリアの中でファウルを犯し、PKを与えます。あの失点場面ですが、オーストラリアが左サイドからクロスを上げます。その時に1人のFWがニアに入って吉田麻也選手と森重真人選手の2人が引っ張られ、付いていく。槙野智章選手までが気を引かれる。ファーサイドを見れば背番号9番のトミ ユリッチ選手がフリーでいるんです。原口選手は、もっと早く戻っている必要があったのですが、ユリッチ選手がフリーでいるのを走りながら見た原口選手は、ブレーキを掛けられず、そのまま体当たりしてしまった。

――サウジアラビア戦でも、ペナルティエリア内の守備は要注意ですね。

新井 ペナルティエリア内では、相手がファウルを誘ってきます。イラク戦のサウジアラビアも、PKで2得点を挙げていますからね。

――新井くん自身、中東のクラブと戦ったことはあったの?

新井 四度あります。AFCの大会でした。アウェイの中東に行って、UAE、シリア、ヨルダン、イラクのクラブチームと試合をしたんです。シンガポールでプレーしていましたから、東南アジアのレフェリングと中東のレフェリングに違和感を覚えましたね。中東勢に関してやる時、普通にアタックに行ってるものがファウルを取られる。ちょっと行っただけでファウルになったりする。曖昧な基準でした。言葉では表現するのは難しいんですが、中東のレフェリーの判断基準は独特なんです。東南アジア出身の選手も、イングランド出身の選手も、僕と同じような感想でしたね。

――試合が終わった後に、選手間で話題になった?

新井 はい。「ディフェンディングサードでファウルをしないように、前を向いて守備をする。むやみなタックルは止めよう」という話になりました。1回は韓国人のレフェリーですが、残りの3回は中東出身者でした。

――中東出身者が吹く笛は曖昧な基準だと思われていて、それを以前から「中東の笛」と呼ぶよね。今度のサウジアラビア戦は、ホームの日本でやるんだけど、中東のクラブと戦って中東出身者のレフェリーを相手にした経験を持つ新井くんからして、「中東の笛」と呼ばれる「ひいき」はあるんだろうか。

新井 「やっぱり、レフリング、ジャッジはよくよく考えたらおかしいよね」とチームでも話題になったんです。イングランドから来た選手も「あれはないよね」と言ってました。その場その場での判断が見られた。明らかなファウルを流されたり、ペナルティエリア内でちょっと相手に触れただけでPKにしたり。だから、選手もペナルティエリア内では、PKをもらいにくる。レフェリーは、迷わずにPKを与えるんですよ。

僕の経験上、PKを与える場面では、レフェリーはどうしようかと多少は躊躇(ちゅうちょ)する瞬間があるんです。「中東の笛」は、全く躊躇がないですね。レフェリーが自分自身のメンタルをコントロールできていないのか。レフェリーも人間なので間違いは当然ある。そう考えたとしても、違和感があって。僕だけだったら、僕の間違った意見かなと思ったんですが、選手みんなが言うもので。

――DFとして、サウジアラビアと戦う際に特に注意する点はある?

新井 第1に、相手をペナルティエリアに入れないような守備を心がけることですね。第2に、ペナルティエリアに入られても、相手に前を向かせない守備する。むやみに足を出すと、相手は意図的に転んだり、シミュレーション覚悟でPKを取りにきますからね。

――最後に、日本がサウジアラビアの守備を打ち破るには、どんな攻撃が有効なんだろうか?

新井 イラクが得点したように、深くゴールラインまで侵入して、マイナスのクロスは有効です。再三話しているように、サウジアラビアの守備陣は、ボールウオッチャーになるんです。サイドに深く入られると、ボールを見てしまうので、ペナルティエリア内でフリーになれるチャンスがあります。

ただし相手は高さがあってフィジカルも強いので、簡単にはディフェンスの壁を破れない。サイドからのクロスも、ニアに何度か気をやらせて、「ここ」という場面にはファーで勝負するとか。サイドから攻撃させると思わせて中央での攻撃とか。「反復する攻撃」が必要だと考えます。あとサウジアラビア攻撃陣ですが、前線の3人はスピードがあって、日本の守備陣は意外と手こずりますよ。

川本梅花

新井健二
1978年生まれ。2001年、立正大学からアルビレックス新潟に入団。 2004年からアルビレックス新潟シンガポールに期限付き移籍し、2年間にわたってキャプテンを務める。2006年、シンガポール・アームド・フォーシズFC(SAFFC)に完全移籍。同年、守備の要として優勝に貢献。チームはリーグ最少失点を達成した。2009年、SAFFCでリーグ4連覇を達成。その後、インドリーグへ移籍。再びシンガポールリーグに復帰し、2013年に現役を引退。子供向けサッカースクール「Fly High Soccer Soccer」を立ち上げたほか、「Zonoサッカースクール」でも指導を行っている。

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